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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第88話

魔石の移植手術を終えた翌日、子供達を空等に任せて陸と宇宙は街に赴いていた。


手術は成功し、異常もないそうで宇宙も快く誘いに乗ってくれた。

海に頼まれた質問をするタイミングを伺いながら、陸は隣を歩く宇宙に話し掛ける。


「宇宙さん、どこか行きたい所とかありますか?」


「誘ったの貴女じゃない。陸ちゃんの行きたい所に着いていくわよ?」


確かにそうだ。慌てて頭を捻るが、こんな時に限って行きたい所が思い浮かばない。

頭を悩ませる陸を見兼ねて、宇宙は肩を竦めて歩き始める。


「前々から気になってたけど、陸ちゃん地味な服ばかり着てるわよねぇ。私がプロデュースしてやろうじゃないか」


「えぇっ!?」


「嫌?」


「い、いえ……」


改めてよくよく見れば、宇宙は可愛らしい出で立ちをしている。元々の整った顔立ちを邪魔しない程度に薄らと施されたメイクに、毛先まで手入れされている桃色の髪。

淡い水色のワンピースを着こなしている彼女は、傍目から見ても目立つ容姿をしているように思える。


「ご迷惑でなければ……」


「迷惑な訳ないでしょ! こんな巨乳美少女とデート出来るなんて一生モノの思い出だわ」


「は、恥ずかしいのでやめて下さい……」


軽快に笑う宇宙の隣に並んで、陸も歩き始める。


「でも勿体ないわよ〜? ずっとパーカーかセーターにジーパンは。若いんだからもっとオシャレしなくちゃ」


現在、陸の服装は灰色のフード付きパーカーに七分丈のジーンズとシンプルな装い。宇宙の服もシンプルではあるが、年頃の少女の服装としては地味な気がする、と陸も自覚していた。


「……なんていうか……。私の好きな服、似合ってないみたいで……」


「え、何。虹色のファーとか付いてる服好きなの?」


「どんな想像してるんですか……」


あまり考えたくはないが、宇宙は陸がカラフルな舞台衣装のような服が好みだと勘違いしているのだろうか。そうだとしたら否定しておきたい。


「じゃああそこのショッピングモールに行きましょ。あそこなら色んなお店あるし。そこで陸ちゃんの好きな服見てみましょうよ」


彼女が指さした方向には、街の中でもずば抜けて大きく広い建物だった。

昔、両親と共に買い物によく行っていた場所でもある。


(忙しかったっていうのもあるけど、全然行ってないや……)


「ほらほら行くぞ〜!」


「ま、待って下さい……!」


宇宙に腕を引かれ、陸は躓きそうになりながらも彼女について行く。


やがてショッピングモールの自動ドアをくぐり、宇宙は立ち止まった。はぁ、と大きく息をついて、乱れた呼吸を整える。宇宙はまだ体力が有り余っているらしく、疲れた様子は見受けられなかった。


「さぁて。陸ちゃんの好みとやら、拝見させてもらおうかしらね」


「わ、笑わないでくれるって約束してくれます……?」


「勿よ。私に人を笑う趣味も資格もないもの」


含みのある言い回しに疑問を抱きつつも、聞くのを拒んでいるかのような宇宙の表情に深く介入する事は出来なかった。


(……海ちゃんの質問、答えてくれるかしら……)


微かな不安を抱きつつ、まずは彼女とのショッピングを楽しもう、と先導して歩き出す。

丁度、一階に店があるので、辿り着くまでに時間はかからなかった。


「およ。ここ?」


「……はい……」


──陸の好きな服、とは。

オフショルや丈の短いインナーや胸の空いた服。ヒラヒラとした薄い生地のスカートやドレスのようなワンピース。十九の少女が着るには少し派手過ぎるかもしれない、そんな印象を宇宙は受けていた。


「ふむふむ。陸ちゃんは露出したいの?」


「へ、変な言い方しないで下さい!?」


「まぁスタイルいいし、似合うと思うけどね〜」


「…………海ちゃんには……やめとけって言われました……」


高校生の頃、雑誌の特集に組まれていたページを指さして、「私でも似合うかしら?」と聞いた事がある。しかし海は静かに首を横に振って「やめておけ」と言われてしまったのだ。

少し大人びた服を着てみようか、と意見を求めたのだったが、否定された物を着る程の勇気を持ち合わせてはいない。


諦めて地味な色合いの服を着ているのだが、やはりまだどこかで憧れを抱いている。


「…………はっはーん。この宇宙姉さん理解しちゃったぞー?」


まるで探偵のように顎に手を当ててニヤリ、と笑う宇宙を見上げる。


「どういう事ですか?」


「それ。似合わないから、って意味合いじゃないと思うわよ」


「?」


「海君は陸ちゃんの事守りたいって言ってたもの。貴女、男の人に言い寄られたりしたら断れないタイプじゃない?」


図星だった。過去に何度か交際を申し込まれたり、ナンパされたり等あったが、どう断っていいのか今でもよく分からない。

その度海が助けに入ってくれたので事なきを得てきた訳だが。


「…………」


「少しでも、陸ちゃんに降り掛かる危険を取り除きたかったんじゃないかしら。ふふっ、いい子じゃない」


「……そう、だったんだ……」


相変わらず不器用だな、と思わず笑みが零れてしまった。それ見た宇宙も安心したように微笑む。


「じゃっ、とびっきりオシャレして海君達を驚かせましょう!」


「……はい!」

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