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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第87話

研究所に戻り、真っ先に向かったのは空達がいる応接室だった。

元々は孤児院の子供達に魔石を埋め込む予定だったのだが、少しでも拒絶反応が起こらないようにする為、該当者を選抜・募集したのだ。


その条件は『身内に魔人がいて、魔力を持たない者』。血の繋がった親戚に魔人がいたのであれば、魔力が馴染みやすいと判断したらしい。


まず集められたのは四人。


羽田伊央はねだいお君、胡桃沢洋子くるみさわひろこちゃん、朱海佳乃あけみよしの君、黒木澪くろきみお君ね……。皆可愛いいい子だったわ〜」


陸の口からその四人の名前が述べられる。

現在彼等は宇宙と空と共に最終確認の検査を行っているのでこの場にはいないが、先程チラッとだけ姿を見た。


羽田伊央。赤い髪をした気弱そうな少年だ。父親が魔人らしく、元々彼と宇宙の父が同僚だったそう。宇宙の父の同僚、というと政治家なのだろうが、そこは海が踏み込む所ではない。


胡桃沢洋子。青がかった黒髪ロングの少女。年齢は伊央と同じ位だろうか。大きな丸眼鏡が印象的だった彼女は、両親とも魔人だそう。


朱海佳乃。女の子のようなふりふりとした可愛らしい服を着ていたが、性別は男らしい。父親が他界しているらしく、育てた母や姉達に影響されたそう。


黒木澪。元々予定していた孤児院にいた少年で、伊央達より年齢は一個上。調べた所彼の父親が魔人だったらしい。


ひとまずはその四人。

もうそろそろ宇宙と空等が移植手術を始めている頃だろうか。


そっちの技術を持ち合わせていない海と陸は、ただ待つばかりなのだが。


「御両親達は何て言ってたんだ?」


伊央達を連れてきたのは陸と空。海達がフルスやグリーゼルの元へ赴いている間に行ってきたのだ。


「うん。伊央君のお父さんは元々説明を受けてたみたいで……すんなりと。洋子ちゃんと佳乃君の御家族は不安そうにしてたけど……」


「けど?」


「自分達が魔物の事見えてるから……逆に見えていた方が安心出来る、みたいな事言ってたわ。 何にしても、承諾して貰えたのは大きいのよ」


「そうなのか?」


「えぇ。説明して承諾して貰えたのはあの三人だけ。澪君だけは本人に聞いたんだけど……」


そういう陸の顔はどこか暗かった。両親がいないという共通点があり、思う所があるのだろう。あえて触れない事にして海は言う。


「俺達に出来るのは、奴等の味方でいる事だ」


もしも、人工的に生み出された魔人、という理由で差別やいじめを受けてしまった場合。海達のエゴによってその運命を背負わされた彼等を守り、支えるのは当然の義務でもある。


それは陸も当然理解していたのでそうね、と相槌を打つ。


「そうだ。なぁ陸。頼みがある」


「うん? なぁに?」


「お前から師走に聞いてくれないか。──────、と」


どうしても、気になる事があった。しかしそれは海では面と向かって聞ける自信がなかった。

同性で話す機会も多い幼馴染に頼みたい。そう思い海は真っ直ぐ陸の瞳を見つめた。


「…………。分かった。答えによったら教えられないかもしれないけど……任せて」


そう言って受け入れてくれた陸に礼を述べて、海は部屋を後にした。





次に向かったのはディツェンバーがいるダイニング。紅茶を淹れて一息ついていたらしい彼の隣に腰掛け、早速海は口火を切った。


「なぁディツェンバー。お前……俺達に何か隠していないか?」


「あはは。突然にも程がないかい? 砂糖とミルクは?」


「いらん」


ディツェンバーは海に視線を向ける事もなく、海の分の紅茶を淹れている。本当は「紅茶はいらない」といった意味合いだったのだが、今更言うのも申し訳ないので黙って待つ事にして。


突然問い掛けてきた海の前に紅茶を置いてから、ディツェンバーは口を開いた。


「……分からないんだ。僕が、何をしたいのか……」


「…………」


「ゼプテンバール……部下に言われた。『生きて』って。だから僕は生きている。生きなくちゃいけない。でも……役割のない僕は……何の価値もない存在なんだ」


彼の声色は少し落ち込んでいるようでもあった。それは陸に鈍感と言われる海にもしっかりと伝わった。


──ディツェンバーは魔王になる者として、ずっと生きてきた。家族と仲睦まじく暮らしていた訳でもない。次世代の王として接せられ、その存在を求められていた。


そんな彼が魔王の座を退き、よく知らない人間界へと滞在している。

魔物殲滅隊と協力しているのも、自分を必要とされたから応じたのだ。助けられた恩返し、というのも嘘ではないが、同意した理由としては前者の方が強い。


だが完全に魔物殲滅隊という組織が確立された時、魔物であるディツェンバーには本当の意味で居場所がなくなってしまう。

生きる事を放棄したい訳ではない。


生きる目的と存在理由が欲しい。それがディツェンバーの願いだった。


「──僕はね。いつも何かを欲してる。でもそこに目的はない。全て自分の為さ……」


「…………それの何が悪いんだ?」


しかし、海としては到底理解出来ない悩みだった。


「自分の為に行動するのは間違いじゃない。俺もそうだ。俺が今ここにいるのは……大切な者達を守りたい。そんな欲求からだ」


「人の為に身を粉にしてるんだ。僕とは違う……誇っていいと思うけど」


「同じだ。俺は、俺がしたいからそうする。理由なんていらないんだろう」


陸を。両親に妹。宇宙や空に魔石を埋め込まれる子供達。

そして……


「仇なす敵を、一人残らず排除する。例えそれが誰かを不幸にしたとしても。俺は俺が信じる道を進むだけだ」


魔物を目視出来ない人達も。

全て守ると決意している。


力強い海の声に、ディツェンバーは目を瞬かせた。


「…………君は、そんな人だったかな……」


「元より俺は強欲だ。だから……自分が何をしたいのか。そして自分の存在理由を。お前は探さなければならない」


「……ははっ、君、本当に年下なのかい?」


悲しげな表情を消して、ディツェンバーは顔を綻ばせた。


「こう見えても、な」


そして海もまた、小さく笑みを漏らしたのだった。

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