第84話
「…………ゼプテンバールの意思は分かった。アウグストの提案も兼ねてなら、俺は承諾する」
まず初めにそう声を発したのはヤヌアールだ。早い決断に少し驚いたものの、少しだけ心が軽くなった気がした。
「一番年下の子が頑張ってるんだもの。私がうじうじしてるのは良くないわねぇ〜」
へにゃり、と笑みを浮かべてフェブルアールも頷く。
「糞餓鬼のくせに……魔王サマに叱られても知らねぇからな」
高圧的な態度だが、やはりどこか気遣いが感じられる。メルツが少しだけ口の端を上げた気がした。
「僕はもとより、反対派ではありませんからね。その場に対応する事は得意です」
マイが言うとかなり説得力がある、と頭の片隅でそんな事を考える。アプリルとユーニを飛ばして、ユーリが頷く。
「……自分の言葉を……曲げる気はありませんわ……」
「でっ、ではっ……僕も……こ、ここっ怖いけど…………頑張りますぅう……!」
胸の前で手を組んで、オクトーバーも賛同してくれる。まだ返事をしていないのはアプリルとユーニだ。
他の者達の視線が彼等に注がれると、アプリルはゆっくりと溜め息をついた。
「協力はしません。少し魔力を貸して差し上げるだけです」
「……じゃっ、おれもそーしよっかなー! あははっ!」
「!!」
反対派だった二人が、承諾してくれた。アウグストの提案あってこそだろうが、ゼプテンバールは形容し難い感情でいっぱいだった。
「皆……!」
「お話は終わった〜?」
と、区切りよく。グリーゼルがどこからともなく姿を現した。ここまでタイミングがいいとは……どこかで聞いていたに違いない。
「で、返答は?」
聞いていた筈なのに、グリーゼルはそう聞いてきた。ゼプテンバールは一度全員の顔を見てから答える。
「承諾する」
「オッケー!! ぼくも肩の荷が降りたよ〜!」
確かに、魔石に宿る意識を繋ぎ合わせ、ディツェンバーの指示通りに動いた彼にもまた緊張感があっただろう。
礼を言いつつ、ゼプテンバールはそっとグリーゼルに耳打ちした。
「あのさ、僕を個人の意識に繋げる事は出来る? ────にお話ししたい事があるんだ」
「え、ここじゃダメな話?」
ここで少しの間、輪になって積もる話もあるのでは? と言いたげな様子のグリーゼルに、ゼプテンバールは小さく首を横に降った。
「個人的な話だから」
「そういう事なら任せといて〜」
ゼプテンバールにしか見えないようにグッ、と親指を立て、グリーゼルは他の面々に向き直った。
「それじゃあ、そろそろお開き。ぼくから全部魔王様に伝えておくね」
その言葉と同時に、ゼプテンバール達の意識は失われた。
※※※※※※※※※※
グリーゼルに導かれて、ゼプテンバールはその人の意識の中へと潜り込んだ。
どこを見渡しても黄緑色の景色だ。どこか落ち着きがあって、優しい色をしている。
「……ゼプテンバール君……どうしてここに?」
ふと、目の前にその人が立っていた。先程までそこにはいなかった筈なのに。
辺りを見渡すもグリーゼルの姿はない。気を利かせて席を外してくれたらしい。
その人に声を掛けようとして、ゼプテンバールは黙り込んでしまった。
──とても、怖い。
嫌われてしまうかもしれない。殴られるかもしれない。軽蔑されてしまうかもしれない。
それらを全部押し殺して、ゼプテンバールは口を開いた。
「話があるんだ……アウグスト」
四年ぶりにしっかりと目に映った彼は、若草色の目を瞬かせた。