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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第83話

「皆、聞いて」


視線がゼプテンバールへと集中する。九人分の視線をひしひしと感じながら、ゼプテンバールは声を張り上げた。


「僕はディツェンバー様に従う。理由は単純。僕がディツェンバー様の部下だから!」


「……それは、勿論……心得ていますが……」


「分かってる。だからアプリル……皆も、僕に任せてくれないかな……」


何を、と言いたげな様子のアプリルを一瞥し、ゼプテンバールは続ける。


「グリーゼルさんは言ってた。魔力を持たない一般人に魔石を埋め込む。それを確実に成功させる為には僕達がそれを受け入れなくちゃいけない」


「そうですねぇ〜。ボクは一度拒否していますが……」


「次は受け入れて欲しいんだ……酷い事を言ってるのは分かってる。それでも……僕はお願いしたい」


ゼプテンバールはアプリルの過去の事を知っている。ユーニの口から聞かされたものだが、彼の苦しみは少なからず理解しているつもりだ。


それでもゼプテンバールがアプリルにそう言ったのには、まだ続きがあった。


「僕が、皆の拒否したい気持ちを持って行くから」


その言葉に、息を飲む人、理解出来ず首を傾げる人、静かに目を瞬かせる人がいた。


「人間に従うなんて嫌だ。非人道的な行いをするなんて。それ全部僕が担う。僕が代表して……ずっとそれを口にし続ける」


「……何で……お前一人にそんな重荷背負わせる訳ねぇだろうが……!」


若干怒気の籠った声で、メルツはゼプテンバールを睨み付けた。メルツに続いてフェブルアールも小さく首を傾げる。


「いまいちピンと来ないんだけど……それはゼプテンバール君じゃないと駄目なの……?」


「……うん。僕じゃないと多分無理……。だって、僕はまだ反抗期が通じる年齢だもん」


メンバー最年少だからこその我儘。

ゼプテンバールはあまり欲を顕にしてこなかった。

他の者達からも『もっと甘えていい』と言われる位には物欲がなかったのだ。


「人間如きに僕の力を貸すなんて絶対ヤダ。って……僕が拒絶する。僕一人だけなら多分……そんなに大きな問題にはならないよ。またグリーゼルさんが交渉に来たとしても、それは僕だけだから」


「ゼプテンバール君……」


「なぁゼプテンバール。おれはさ、ゼプテンバールに苦労して欲しい訳じゃないんだよ。一人犠牲になっておれ達は普通に、って……なんか嫌だよ」


アプリルが孤立しないように、意見に賛同したユーニが物静かなトーンでそう口にしているのだから、彼自身の本音なのだろう。


「僕は重荷だなんて思ってないよ。 ただ……僕は、僕の選択を貫いてみたいだけ。僕はさ……皆が苦しそうに悩む姿を見たくないんだ。もしかしたら、また会う日がくるかもしれない。その時に僕は……あの時みたいに笑い合っていたいだけ」


そして少し間を置いてから、ゼプテンバールは


「お願い。これが本当に最後だから……もう我儘なんて言わないから……。人間に協力しよう」


そう、はっきりと口にした。

その言葉に頷く者はいない。ゼプテンバールはヤヌアール達にとっても大切な仲間なのだ。彼一人が負の側面を背負おうとしているのであれば、同様に自分達も負の側面につきたい。


そう思っているからこそ、ゼプテンバールの言葉には賛同出来なかった。しかし──


「じゃあ、俺からのお願いも聞いてくれますか」


一人だけ、新たに提案する者がいた。


「アウグスト……」


「ずっと、はやめて下さい。始めだけにして下さい」


「…………と、言うと?」


「ゼプテンバール君がそうしたいと言うなら、俺は承諾します。でも……ずっとは駄目。

人間と協力するのは嫌だ、という姿勢での入り。でもその人間の事を……いつかは認めてあげて下さい」


あくまで始めは反抗的に。しかしゼプテンバールが認めるのであれば、協力的になってやってくれ。

アウグストはそう言っているのだ。


「ゼプテンバール君一人だけ仲間外れというのは良くありません。なので、共通の意思だけ決めておきませんか?」


「共通の意思……?」


アウグストの言葉をユーリが反芻する。彼は一度頷いてから


「人間に協力するとして、俺達の共通する意思を決めておくのです。そして協力的になれない理由もまた、共通して決めておきましょう」


と言った。

今はアウグストが賛同した事により、会話の流れが協力するに傾いているが、アプリルとユーニはまだ納得していない。


だからこそそう提案したのだろう。


「しかしどうやって決めるんですか? 十人いるんですから、意見も様々でしょう」


マイの質問も最もだ。しかしアウグストは落ち着いた様子で微笑むばかりだった。


「俺達はディツェンバー様の部下……。ならば、協力する場合の最終地点はもう決まっているも同然です。『ディツェンバー様に頼まれたから』。俺はそれで良いのではないかと思っています」


「でっ、ででででは……きょっ、協力しない場合は……?」


「それは……。反対意見の方々が決めていいですよ」


突然匙を投げられ、一瞬肩を揺らしたアプリル。暫く考え込んでいたが、やがて小さく


「『人間なんかに……ボクの魔力を渡したくないです』……」


と口にした。

アプリルの過去を知っている者は少ない。自身の尊厳を踏み付けた人間への恨みはさる事ながら、この世でただ一つしかない自身の魔力を誰かに与えるのが嫌だったのだろう。


「それで異論はないですか?」


確認するようにアウグストが問う。それに反対意見を述べる者はいない。


「僕は……協力といっても心を開いて仲良くする必要はないと思う。ただ、今を生きる人間達に力を貸してやりたい。ディツェンバー様の頼みってのもあるけど……。……僕は……出来る最善の事をしたい……」


先程ユーリが言った『あの時出来る最善の行動をした』という言葉。

もしもこの先、似たような事が起こったとしても。ゼプテンバールはこの時の選択を後悔したくないから。


必死に考えて、下した決断をもう一度紡ぐ。


「僕はディツェンバー様の部下としての使命を全うしたい。今を生きる人達の力になりたい。これが僕の意思……そして……我儘だよ」

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