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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第81話

沈黙。

グリーゼルの口から発せられた言葉を頭の中で反芻し、ゼプテンバールは生唾を飲み込んだ。


しかしそんな静寂も、アプリルの怒気の篭った声で破られる。


「少し前になるのでしょうか……ボクは今のように真っ白な空間に落とされました……。咄嗟に拒絶してすぐに意識を無くしましたが……まさかとは思いますが、ボクの魔石を埋め込もうとしました?」


アプリルは幼少期の頃に、人間に酷い扱いを受けていた。物珍しさかは左目を抉られ、たくさん怪我を負わされたという。


そんな彼が人間に協力するというのは、そもそも無理な話だった。


「ふざけないで下さいよ……いくら魔王様とはいえやっていい事と悪い事位弁えてくださいませんかねぇ……」


「ぼ、ぼくに言われてもなぁ〜……後で伝えとくけど……」


「しかしそんな事が可能なのか? ざっと聞いた限りでも不安要素しかないのだが……」


ヤヌアールの言う事も最もだ。魔物同士でも、別の魔力を体内に取り込めば激しい拒絶反応が起こる。ましてや魔物よりも脆く力のない人間に耐えられるとは思えなかった。


「その辺は大丈夫らしいよ。適性検査? とかいうのをして、性質に似た魔石を埋め込めばほぼ抵抗はないって。」


君達が拒否しなければの話だけど、とグリーゼルは付け足す。そして少しの間を置いてから再度口を開いた。


「ぼくは魔石となった魔物と会話したり、意識と意識を繋げたり出来るから頼まれたんだ。君達に人間と協力する事を承諾して欲しい。それがディツェンバー様の願いだ」


「……ねぇ、グリーゼルさん。ディツェンバー様と直接お話は出来ないの?」


「残念ながら……生者を連れてくる事は無理だよ」


ゼプテンバールの微かな希望も、呆気なく首を横に振られてしまった。本当ならばディツェンバーの口から説明を受けたかった。


そうすれば、他の面々の想いも違ったかもしれないから。

アプリルは兎も角として、全員が浮かない表情をしている。突然『人間と協力してくれ』と言われても、ゼプテンバールには人間がどのような生き物なのかすら曖昧にしか分からない。


──いっその事命令なら良かったのに。


あくまで意思を尊重する、とでも言いたげなその言葉は、ゼプテンバールにとって重いものだった。


「そもそも。その魔物を殲滅する組織は……いわば貴様の敵にもなり得るだろう。貴様はどう思ってるんだ?」


ヤヌアールはそうグリーゼルに問うた。

確かに、グリーゼルは人間界に住まう魔物の一人だ。人間の敵という立ち位置にいる彼がこうして言伝を頼まれ、その通りに従っている理由が掴めない。


「そんなの簡単だよ。ぼくはディツェンバー様や十勇士ゼン・ヘルデンに会ってみたかったからさ。人間界に来たのはほんの気紛れだけど……まぁぼくが下した決断だからいいかな〜って」


「気紛れで禁忌を犯す奴がいるか」


へなり、と笑うグリーゼルにそう喝を入れてから、ヤヌアールは一息ついた。


「グリーゼルとやら。可能であれば少し席を外してくれないか? 俺達だけで話がしたい」


「…………分かったよ。終わった頃に戻ってくるから」


と、言い残してグリーゼルは姿を消した。

それを確認してからヤヌアールは口を開く。


「まずは皆……すまなかった……!!」


足を折り畳み、手と額を地面につけるヤヌアール。属に言う土下座だ。

戸惑うゼプテンバール達を他所に声を震わせて、ヤヌアールは続ける。


「本来ならば、軍隊長である俺が早く気付くべきだった……! 言い訳はしない。の力不足だ!」


「…………やめろよヤヌアール。何もお前だけに責任を負わせようとする俺様達じゃねぇよ」


「あの時、軍の者達の魔力が感知出来ませんでした。それに、空間魔術で城の中に敵が直接飛ばされてきたんです。予知出来ていたなら兎も角、貴女にも……この場にいる誰にも非はありません」


「…………私、は……」


恐る恐る顔を上げたヤヌアールを見てから、次に口を開いたのはユーリだ。

自然とゼプテンバール達の視線が彼女に注目する。


「……私は……あの時出来る、最善の行動を出来たと思っております……不意をつかれてしまいましたが…………後悔はしていません……」


凛とした声で述べた彼女の目には、一点の曇りもなかった。彼女はかつての主の子息であるグレッチャーと交戦した後、ユーニの援護も受けて自身の手で彼を殺めた。


その後ヤヌアールと合流し、メーアに喉笛を貫かれて魔石となってしまったのだが、彼女は現状に納得している。


「僕もです」


ユーリに続いて、マイも頷いた。


「僕は皆さんを信じていましたから。実際、何度も助けられました。その事実だけで充分です」


メルツと共に、難敵であるベヴェルクトを撃破したマイ。その際に左腕を拗られたり、滅多刺しにされたりとあったが、メルツを守った行動に後悔も感じていないし、ベヴェルクトにトドメを指したゼプテンバールに感謝している。


「またこうして皆で話が出来るんです。この際、各々の後悔や自責はやめにしませんか?」


マイの言葉に異論を唱える者はいなかった。すると次にする会話の内容は、グリーゼルから伝えられた件になるのだが。


誰も、口を開かなくなった。


ゼプテンバール達は二度と生を歩む事はない。魔石に魔力が、意思が宿っているとはいえ、彼等の魔石がどう扱われるかも今を生きる者達に託されるのだ。


そしてディツェンバー(自身等の主)が、ゼプテンバール達に人間に協力してくれと言っている。部下としては否応なしに従うべきなのだが、やはり心の痼はあるものだ。


長い長い沈黙が、続いた。

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