表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
87/161

第80話

フルスのいた場所から電車を乗り継ぎ歩く事数十分。到着したのはネオン街にあるバーだった。

とうに成人しているのでいても不審がられないが、こういった場にやってくるのは初めてだ、と海は少し忙しなく視線を彷徨わせる。


一方宇宙は慣れている様子で、目的地までの地図を見ながら悠然と進んでいた。


そして、黒い外観の建物の扉に手をかけ、


「へーいやってるかーい?」


フルスの時同様、不躾にずけずけと店の中へと押し入った。


「だから何故そう不躾なんだ」


「んぉ?」


宇宙を牽制しつつ、店の中にいた人物に視線を向ける。

カウンターの内側の椅子に腰かけていた男性が海達に気付き顔を上げた。


黄緑がかった薄黄色の髪を無造作に切り揃えた、ゴーグルを付けた灰色の瞳の男性は、ニコッと笑ってカウンターから出てくる。


「いらっしゃーい! まだ開店前だけど適当に座っていいよ。何にする?」


「客じゃないわ。貴方にお願いがあってきたの」


宇宙がそう言うと、男性は不思議そうに首を傾げた。やがてハッとして男性はその場に跪いた。


「ご、ご挨拶が遅れました魔王様!! グリーゼルと申します……!!」


グリーゼルと名乗った男性はそれまでのおちゃらけた雰囲気から一転して、青ざめた表情だった。先程フルスも同様だったが、ディツェンバーはやはり魔物の間では知らない人はいない有名人らしい。


「グリーゼル。僕はもう魔王じゃない。だから無理しなくていいよ」


「し、失礼しますっ……!」


「やっぱディツェンバー君って凄い人なのね〜。普段ほわほわしてるから忘れちゃいそうだけど」


そう感想を述べた宇宙に礼を言って、ディツェンバーは本題を切り出した。


「君は魔石となった魔物との対話が出来るそうだね?」


「は、はい! 魔石となった者同士なら、ぼくが繋ぎ役になって会話させる事も出来ます!」


「ここに、魔石が十個ある。彼等に伝えて欲しい事があるんだ。お願いできるかな?」


ディツェンバーにはもう魔王という地位はない。しかしそう優しく問う彼には、やはり王の威圧が伴っていた。

必然的に、グリーゼルは頷くしかなかったのだ。







※※※※※※※※※※






何も無い。


真っ白な空間に、紫の髪を腰まで伸ばした少年は横たわっていた。


薄らと目を開けると、目の前には見慣れた仲間達の姿があった。彼等もまた少年と同様に眠っているらしい。


「皆いる……ここは……? 僕は、もう死んだ筈じゃ……」


「うっ…………何処だ……ここは」


と、グレーの髪をした女性が身体を起こした。それを境に、他の者達も上体を起こして辺りを見渡す。


「ボク達、死んだんですよね?」


「こ、ここっここは……まま、魔石の中……と、言う事でしょうか……!?」


「魔石になってんだから、俺様達がこうして集まれる訳ねぇだろ」


「ふむ。では生き返ったのでしょうか?」


「まさか! 俺の研究は処分してくれたんでしょう!?」


「蘇ったとしても、どうしてこんな真っ白な空間に集められているのかしらぁ〜」


「……魔王様は……ご無事なのでしょうか……」


「あははっ! 全部訳分かんねぇな!!」


「笑い事じゃないぞ」


「………………」


戸惑う十人の魔物の前に、ゴーグルを付けた男性が静かに現れた。


「うぉー生の十勇士ゼン・ヘルデンだ! すっご!」


その声に、誰もが身構えた。しかし普段なら武器を持ち合わせている者でも今手元に武器はないし、魔術での攻撃を得意とする者は魔術を発動させる事は叶わなかった。


「ヤヌアール、フェブルアール、メルツ、アプリル、マイ、ユーニ、ユーリ、アウグスト、ゼプテンバール、オクトーバー。全員いるね。ぼくの名前はグリーゼル。ディツェンバー様に頼まれて、君達に話をしに来たよ」


グリーゼルと名乗った男性を見上げて、紫の髪の少年は問う。


「ディツェンバー様!? どういう事!? 」


「色々気になってるだろうし、ぼくが今聞いた話を順番に話していくよ。ので、全員静かに聞いておいて欲しいな〜」


異論はある。そもそも目の前に立っているグリーゼルの詳細も知らないのに、いきなり何を話すというのだろうか。


しかし他のメンバーが黙り込んだので、ゼプテンバールも静かに耳を傾ける事にする。


「まず。ディツェンバー様は生きてる! 弟様に殺されそうになった所を、人間に召喚された。今は人間と協力しているそうだよ」


「質問」


すっ、とメルツが手を挙げた。


「はいどーぞ!」


「人間と何を協力してるんだよ」


「んー何かねぇ。今一緒にいる人間は人間界に蔓延って害をなそうとしている魔物を倒す組織? を作ろうとしてるんだって」


ディツェンバーはゼプテンバールを逃がそうとした時、こう口にしていた。


『急ぎ魔物に対する対策を練るように』と。


ディツェンバーは今、魔物に対抗する組織と協力しているとの事。キュステ、シュテルンとは合流出来たのだろうか。そう思いながら、ゼプテンバールはグリーゼルからの説明の続きを待つ。


「で、その組織を設立するに当たってやる事があるんだって。……君達十勇士(ゼン・ヘルデン)の魔石を、人間に埋め込みたいそうだよ」


その言葉に、ゼプテンバール含む全員が息を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ