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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第79話

魔石を埋め込む手術が失敗に終わり、宇宙は再度見直すと研究室に篭もるようになった。

その間、海、陸、空はディツェンバーに相手になってもらい訓練を積んで。


そしてノヴェンバーが、人間界に蔓延る魔物についての情報を集める。


気が付けば、三年の月日が流れていた。海と陸は高校を卒業し、大学に通いながら訓練を受ける、といった生活を過ごしている。


そんなある日。海、宇宙、ディツェンバー、ノヴェンバーはとある建物の前までやって来ていた。

それは失敗したという事実を受け大きなダメージを負っていた宇宙に、ノヴェンバーが掛けた言葉がきっかけだった。


彼女はとある二つの情報を仕入れてきてくれたのだ。


人間界に暮らす魔物の中に、人間に化ける事が出来る魔物がいると。更にその魔物は、他の魔物の姿を変える事も出来ると。


そしてもう一人、魔石に干渉出来る魔物がいるとの事。

魔石への干渉──つまりは、魔石に宿った持ち主との会話が出来るのだ。


それを聞いた宇宙は落ち込んでいた表情から一転して、海達の腕を引いてこの場所までやって来たのだ。


まずは人間に化ける事が出来る魔物の元へ。ここで行う事は一つ。ディツェンバーとノヴェンバーの姿を変えてもらうのだ。


問題はその交渉が出来るのかどうか、だが心配する海をよそに宇宙はずけずけと扉を開けて建物の中へと入ってしまっていた。


「たのもー!!」


「道場破りかお前は」


不躾な入にもかかわらず、部屋の奥から出てきた男性は怒りを露わにする事もなく静かに現れた。

色素の薄い青紫色の髪を一つに結わえた、端正な顔立ちをしていた。見る限り耳は尖っていないので姿は人間と見受けられる。


「何か御用ですか?」


「えっと……この二人を人間の姿にする事は可能?」


単刀直入に宇宙がそう言うと、男性はパチン、と指を鳴らした。その瞬間顔や髪はそのままに、身に纏っていたニットの服が皺一つないスーツへと変化した。

先程までは人間のものだった耳が、今はディツェンバーとノヴェンバー同様に尖っている。


「!」


「お初にお目にかかります、魔王様。フルスと申します」


その場に跪いて、フルスはそう言った。ディツェンバーを見て正装に改めて跪いたのだ。


(ディツェンバーが魔王というのは本当だったのか……)


半信半疑だったのだが、彼の様子を見る限り嘘ではないと確信させられる。


「フルス……顔を上げて」


「はい、失礼します」


一度深く頭を下げてから、フルスは顔を上げた。


「君は確か、五年程前に無断で人間界へ渡ったね」


「……はい。僕を、罰しにいらしたのですか」


「いいや。僕も君と立場が一緒だからね。もう魔王じゃない」


詳しくは話さなかったディツェンバーだが、そこそこ察したらしいフルスは「左様ですか」と返事をするだけだった。


「という事は、これから魔王様は人間として暮らすのですか?」


「…………そんな所かな。何にしても、人間の姿をしていた方が便利な気がしてね」


何か誤魔化したような気がしたが、ディツェンバーの浮かべている笑みには有無を言わせない圧がある。海もフルスも気がついていないふりをするしかなかった。


「畏まりました。人間の姿に変える事は簡単です。ご自身で切り替える事も可能ですのでご安心を」


フルスの説明を聞く限り、彼がかけた術は最長で十年はもつらしい。その間、必要に応じて人間の姿から魔物の姿へ。魔物の姿から人間の姿に変更する事も自分で出来るそう。


フルスから説明を受けているディツェンバーとノヴェンバーを一瞥して、海はそっと宇宙に耳打ちした。


「俺達は……本当に矛盾に塗れた行動をしているな」


魔物を殲滅する組織の一員となった海。まだ具体的に仕事を行っている訳ではないが、本来ならば敵対する関係であるフルスに、ディツェンバーとノヴェンバーの姿を変えてくれと頼みに来ている。


はたしてそれは如何なものなのだろうか、と海は腕を組む。


「必要な事なのかもしれないが……」


「……そうね。でも……私はこれでいいと思ってる。間違った行動だとしても……私は私の選択を信じる。幸いディツェンバー君とノヴェンバーちゃんは協力してくれるって言ってるんだし、私は二人を信じたいの」


そう言う宇宙の瞳は、どこか寂しさを帯びていた。何か言うべきなのだろうか、と模索していると


「終わりましたよ」


と、人間の姿に変化したディツェンバーとノヴェンバーが戻ってきた。


容姿としては変化はないが、特有の尖った耳が人間のものになっている。これで魔力を持たない一般人にも彼等の姿が認識出来るようになるのだ。


「ありがとう」


「いえ。貴女方がどうやってここまで辿り着き、何を目的としているのかは聞きませんが……」


「…………困った事があれば、力になるわ」


「……そうですか」


助かる、とも信用しない、とも言わなかった。フルスが今後、海達と関わる事があるとすれば術が切れる十年後となるが……


「それじゃあな」


「はい。さようなら」


未来の事はまだ分からない、と。海達は次の目的地へと向かった。




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