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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《魔界》
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第64話

※※※※※※※※※


とある北方の故郷の地で、僕は恋をした。


僕よりも幾つか年下の、可愛らしいおさげに髪を纏めた子供。


近所に住んでいた僕の事を『ルーク』と愛称で呼んでくれて、僕を見上げるんだ。

キラキラとしたその目が、今でも頭から離れない。


その子が、メルツだった。


メルツには兄弟がいなかったから、僕の事をたまに姉御、なんて呼んでいたっけ。


慕われている事に、深い深い愛おしさを覚えた。


君が僕以外の人を見つめていると、誰であろうと嫉妬したよ。

君には僕だけを見ていて欲しいし、僕は君だけを見ていたかった。


何度も。


何度も何度も。


何度も何度も何度も。


僕は君を殺そうとした。


僕の事好きか、と聞いたらメルツが好きだと言ってくれたから。

死して永遠の時を生きようと。


そう言って首を絞めたら……君は泣いて喜んで(・・・)くれたね。


でもその度に、僕の親や君の親が止めに入ったから。邪魔だったから殺したよ。

それを知った君は、また泣いて喜んだよね。


でもある日。君は故郷から姿を消した。


誰に聞いても、知らないの一点張りだったから、僕はずっと探し続けたんだ。

ずっとずっと探して、探し続けて、四年前やっと見つけたんだ。


あの時と同じ……いいや、あの時よりも可愛くなっていたよ。


僕は君を愛してる。君もそうだろう。

だから君を僕のものにする為に。僕を君のものにする為に。

殺し合おうじゃないか。


そう……そう思っていたのに──。





※※※※※





「あ…………は、はぁっ……!?!?」


最愛のメルツが、自分以外の者とキスを交わしている。ベヴェルクトは心臓が締め付けられるのを感じながら、瞬きを繰り返してその光景に誤りがないか凝視する。


けれど何度見返しても、その光景が変わる事はない。


「あぁぁあ…………どう、して……?」


尚現実を受け入れたくないベヴェルクトに、メルツは追い打ちを掛けるように、マイの口内に自身の舌を捩じ込ませた。


二人の唇の隙間から見えたそれに、ベヴェルクトは息を飲んだ。


ベヴェルクトの反応を楽しむかのように、マイが一瞬笑みを浮かべた気がした。そしてそれはメルツも同様だった。


「やめろぉ……やめて…………僕の、僕のメルツに……っ……僕のメルツが……」


頭を抱えるベヴェルクトを一瞥し、マイはメルツの首筋を撫でて腰を引き寄せた。びくりと肩を揺らすメルツに視線を送りながら、彼もまた求めるように舌を絡める。


「嫌……イヤッ…………どうして……、メルツ…………」


これが現実な筈がない。あのマイとかいう男が見せている幻だと。暗示を掛け続けるも、実際に愛する者が他の男と妄りに唇を重ねる様を見ているベヴェルクトのダメージは大きい。


「やめて…………ぼ、ぼくっ……わたし(・・・)のメルツを……穢さないでぇ……」


ぽろっ、とベヴェルクトの目尻から一筋の水滴が零れ落ちた。それを見たメルツが最後にトドメをさすかのように


「──もっと、俺様を求めろよ……マイ」


ベヴェルクトが見た事もない、頬を赤くさせた淫靡な表情でそう告げた。


と、ベヴェルクトの中で何かが途切れた。


「ああっ……め、るつ…………みたくなっ……みたくないよぉ……わたしには、わたしとは…………してくれ、なかった…………そんな……いやだよぉ……わたし、いがいのひとと…………そんなこと、しな、いで、よぉ…………」


失恋した少女のように泣きじゃくるベヴェルクトは、力を失ったかのようにその場にしゃがみ込んだ。

その瞬間、二人身体が離れ


「じゃあな、姉御ルーク


と、メルツが何かを引っ張った。

涙でぼやける視界に映ったのは、数十個の球体──手榴弾だった。それもすでに栓が抜かれているので、床に落ちてしまえば衝撃で爆発するだろう。


それを認識した頃には、メルツとマイの姿は消えてしまっていた。


(あぁ……初めからメルツは…………わたしを殺す為に…………)


そういえばメルツは罠を仕掛けるのが上手かったな、と思い出して、ベヴェルクトは一人笑みを漏らしたのだった。









──そして、爆ぜた。

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