第60話
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「ディツェンバー様の部下になった理由……か? 前軍隊長からの推薦、そして……幼馴染の夢の為。夢を叶える前に死んでしまった幼馴染……シュウの為に、俺は強くなるんだ」
「う〜ん……代々魔王様に仕える家系だから、よく考えた事はないわねぇ〜。でも、楽しそうじゃなぁい? 現に楽しいから、私は満足してるわ〜」
「前にも言ったように、金の為夢の為。あとはまぁ……アイツから逃げる…………いや、何でもねぇ。とにかく、俺様自身の為だ」
「ボクがやりたい事は、魔術学を更に深く突き詰める事です。その為には整った環境が必要だからお話に乗っただけです〜。あとは……。…………お友達が……欲しかった…………から、ですぅ…………」
「始めは両親に仕送りする為に、給金のいい執事をしていましたが……ディツェンバー様のお人柄に触れて、僕はこの仕事に誇りを持つようになりました。今僕がこうしてここにいるのも、ディツェンバー様へと忠誠心からかもしれませんね」
「あははっ! 突然変な事聞くなゼプテンバールは!! おれはね! アプリルがやりたいって頷いたからだよ!! アイツの事放っておけないしね! 一人にしてたら絶対孤立するもんな!! あははははっ!!」
「……御主人様の元から……逃げ出したかったんです……。私の所有者であっても……魔王様には逆らえないだろう、って……。利用、させて頂きました……。ですが、今は……毎日が充実しているのですよ……とっても……心から楽しいと、思えています」
「まず俺がディツェンバー様に仕えようと思った出来事があるんですが、その日は雨が降っていてですね。傘を忘れた俺に直々に傘を差し出して下さいまして、膨大で特殊な魔力をお持ちの方だとその頃から注目していたのですが、更に優しさも兼ね備えているまさに理想の王様という感じがしてですね──え、もう分かったからいい? これからなんですが…………」
「そ、そそ……それはやはり……魔王様の部下になれる、と……い、いうのは……めっめめ名誉な事ですから……。それも……えぇ、選ばれたという事……だったので……。ひ、必要とされた事が嬉しくてっ……」
ヤヌアールも、フェブルアールも、メルツも、アプリルも、マイも、ユーニも、ユーリも、アウグストも、オクトーバーも。
ちゃんと意思があって、目的があって、真っ直ぐに自分の道を歩んでいた。
けれど僕には、何も無かったんだ。
両親を亡くした時でさえ、一日泣いたら治まった。
──あぁ、父さんと母さんは死んだんだ。仕方ないねって。
そんな薄情な僕を責めてくれる人なんて誰もいなくて。目立ちたくないからって、全部隠して避けてきた。
でも、大切な人が沢山出来ちゃった。
剣の稽古をつけてくれたヤヌアール。
差し入れを持って来てくれたフェブルアール。
何度も僕を助けてくれたメルツ。
色んな知識を教えてくれたアプリル。
礼儀作法や仕事を教えてくれたマイ。
笑顔で場を盛り上げてくれたユーニ。
温かい言葉で励ましてくれたユーリ。
どんな時でも優しく接してくれたアウグスト。
本当の弟のように可愛がってくれたオクトーバー。
それに……
僕の意志を汲み取ってくれたキュステ。
僕の身を案じてくれたシュテルン。
初めて出来た友達のアルターも、アウグストの奥さんのメーアさんも……僕にとっては大切な人なんだ。
本当は……誰も傷付けたくないのに。
アーベントやナトゥーアの時は、何の躊躇いもなかったのに。メーアさんと目が合った瞬間に、それまで無情だった僕の心が弾けた。
どうしてメーアさんがここにいるんだろう。
そんな疑問の後に押し寄せた後悔。
ディツェンバ様ーの部下になってから四年。何度も死線をくぐり抜けてきたし、経験も確かに積まれてきた。
それでもやっぱり……皆の背中には追い付けなかったんだ。僕も隣にいる筈なのに、ずっとずっと先に背中が見えていたんだ。
それがとても、悲しかった。
僕達は仲間。そう、皆も言ってくれた。それを否定する事は、彼等の言葉を否定する事になるからしないけど……ずっと不安だった。
『僕はここにいていいのかな』って。
僕がここにいなければ……あの時、ディツェンバー様の部下になる事を辞退していれば。
僕がいなければ、アルターが……過剰に希望を抱く事はなかったかもしれない。
そうならアウグストも死なずに済んだ筈だ。
そうだったら今頃、アウグストとメーアさんは……ヴェッターと三人で仲睦まじく暮らしてるのに。これからもずっとずっと幸せに……。
そうしたらこんな暴動が起こる事もなかったんだ。
……そう。僕がいなければ、皆まだ生きていたかもしれない。
ずっとずっと笑って……楽しく……この国をもっと豊かにしたんだろうなぁ……。
また、涙が頬を伝った。
──その場所に…………僕もいたいよ…………。
──その場所に…………僕も混ぜてよ…………。
──その場所を…………僕は………………。
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「…………ゼプテン、バール……」




