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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《魔界》
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第54話

「はっ、!!」


鎖鎌を巧妙に操り、ユーリは突如として庭園に現れた敵を切り伏せていく。庭園には庭の手入れをしていた庭師や、休憩しにやって来ていた使用人達がいる。


彼等が逃げ、最後の敵が魔石になったのを確認してから、ユーリもヤヌアールの元へ向かおうと踵を返した瞬間、その気配は現れた。


「四年ぶり、かぁ? ユーリ」


「!」


ユーリの行く手を阻んだのはかつての主の息子、グレッチャーだった。真紅の髪が少し伸びただろうか。四年ぶりに顔を合わせるが、お互いに忌々しげに相手に視線を送る。


「御子息様……」


「テメェのせいでよぉ……オレは貴族としての立場を失ったんだよ!! 決まってた縁談もパァだ!! 親父は精神を病んで自殺! 全部全部テメェのせいだクソアマ!!」


声を荒らげて喚き散らすグレッチャーに、ユーリは一笑した。


「……良かったじゃありませんか。今までの行いが、ちゃんと仇となって返ってきたのですから。貴方達の行いは無駄ではなかったようですね……」


皮肉交じりにそう言ってやる。グレッチャーの話を聞いて、内心喜んでいたのだ。


自身の尊厳を踏みにじり続け、道具として利用し続けてきた彼等に天罰が下ったのだと。受けて当然の報いだと。


その道具に嘲笑されたグレッチャーは瞳孔を細めて


「ぶっ殺してやる……!! オレの受けた恥辱、倍返しでテメェに返してやるよ……!!」


と、剣を構える。


「相変わらず、自尊心しかないお方ですこと……。私は貴方など眼中にはありません……そこを退いて下さい……」


「テメェを殺してからいくらでも退いてやるよ!!」


いくらグレッチャーが自尊心の塊であろうと、貴族なのは事実。受けた教育はさる事ながら、恨みを晴らそうと動く彼が弱い筈がない。


戦闘能力が並より高い位のユーリに出来るのは、せいぜい足止めか、誰かが来るまで時間稼ぎをする事だ。


ヤヌアールの気配は近いが、途端に増えた魔力量を感じる限り、増援が来てしまったのだろう。だとすれば、彼女に期待する事は出来ない。


二番目に近い魔力はアプリルとユーニだが、彼等の傍に感じた事のない魔力がある。


と、グレッチャーが駆け出し、ユーリ目掛けて剣を振り下ろした。鎖鎌でそれを防いで彼の腹部に蹴りを入れる。


(体力……もつかしら……)


一抹の不安を抱きつつ、ユーリはグレッチャーとの戦闘に集中した。






※※※※※※※※※※





ユーリがグレッチャーと交戦していた頃。

城にいる使用人達の避難を促していたアプリルとユーニの前に、一人の女性が立っていた。


撫子色の髪をした、可愛らしい顔立ちの女性だ。しかし彼女の服の下には拘束具ともとれるベルトと首輪が中々のインパクトを放っている。


アプリルもユーニも、彼女の存在は知っていた。


「戦闘狂ナトゥーア……!」


「なんでここに!?!?」


「きゃ〜ナーちゃんの事知ってるの!? 嬉しいわ!」


嬉しそうに頬に手を当て喜ぶナトゥーア。そんな彼女を見据えながら、ユーニが銃を構える。


「アプリル、援護頼むよ」


「了解しました」


「二人共ナーちゃんと遊んでくれるのね! 分かったわ! 遊びましょ!」


興奮した様子でそう言うと、ナトゥーアが右手を差し出した。彼女の掌を中心に淡い光が広がっていく。


「わっ!?!?」


「ユーニ!」


光が現れ、収束するまで数秒とかからなかったが、次に視界に映ったのは真っ白な空間だった。ユーニとアプリル、ナトゥーアだけが存在する、外界と遮断された世界。


「はぁ〜い! これぞ、ナーちゃんワールド!」


「な、ナーちゃん……」


「わーるど……!?!?」


微妙なネーミングセンスに戸惑っていると、ナトゥーアが説明を始める。


「ここはナーちゃんが作り上げた世界なの! ここで死んだ者は永久におさらば! つまり死ぬのだ! 無事に外に出たくば、このナーちゃんのどこかにある核を破壊するしかないぞ〜!」


厄介な事になった、とアプリルが顔を歪める。


ナトゥーアの発動した魔術は、自身の有利な場へと持ち込む結界魔術に等しい。アプリル達が劣勢なのは、彼女の術中に嵌った時点で確実という事だ。


「とはいえ、ナーちゃんはあくまで平等に戦いたいのだ! なので、変な事を仕掛けていないというのは約束するよぉ!」


「…………阿呆なんですかね」


「阿呆なんだろうな…………」


「本当に戦闘狂なのか疑わしいです……」


いつも笑顔で大声のユーニまでもが若干呆れる程に、ナトゥーアは幼稚じみていた。本当にアプリル達と戦いたいだけなのか、はたまた別の企みがあるのか。


それを探るより前にナトゥーアが跳躍する。


「にははっ! 潰れちゃえ〜!」


ユーニの脳天目掛けて踵を落とすナトゥーアの足首を掴み、そのまま投げ飛ばす。それと同時にアプリルの魔弾が放たれた。


一度着地し、それも軽々と避けてみせるナトゥーア。その顔には常に笑顔が浮かんでいる。


「ユーニ! 分かっていると思いますが彼女の手に触れたら即死ですからね!」


「分かってるよ!!」


ナトゥーアの能力は不明だが、今日の戦闘狂と呼ばれる彼女の握力は常人の箍を外れている。少しでも触れようものなら、すぐさま掴まれて粉砕されてしまう。


よって、ユーニは銃を構えて迎撃する道を選んだ。


「いいわいいわぁ! まだまだ時間はあるもの!」


顔を紅潮させ、にやりと笑みを貼り付ける。そんな彼女の動向に気をつけつつ、アプリルは顔を隠す為に巻いていた包帯を外して


「ユーニ! 出し惜しみはしません。核とやらを見つけ次第破壊して下さい!」


と、早口気味に指示を出す。

ガラス玉のような透明で様々な色が混じったような瞳が開かれ、ユーニですら長らく見ていない口元が顕になる。


左目と、左側の口の端には、怪我を縫い合わせたかのような痕があった。アプリルが顔の包帯を全て外したという事は、初めから本気を出すという意思の表れだ。


それを受け取り、ユーニは一度だけ強く頷いた。


「オッケー!! じゃ、おれも本気出す!!」



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