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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《魔界》
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第47話

──とある屋敷に、二つの影があった。


一つは長い金髪をした女性。少しずつカラフルなメッシュを入れた派手な外見。首元を隠す紫のコートは、彼女が地方出身である事を示していた。

名をベヴェルクトという。


もう一人は棺桶を背負った少年。骸骨が飾られたシルクハットを目深に被り、皺一つない漆黒のコートを纏っていた。

名をルフト。世間を騒がせているアガルマトフィリアの大量殺人鬼だ。


ベヴェルクト達はそこ(・・)に到着するなり、ノックをする事なく扉を押し開けて入室する。


彼女達の視界にまず映ったのは、黒髪の青年だった。エメラルドのような緑色の瞳に既視感を覚えつつ、ベヴェルクトは扉を後ろ手で閉める。


「ノックもしないのか」


「不要だと判断しただけなのだがね。この屋敷全体に貴殿の魔力が張り巡らされている事位、僕にはお見通しなのだよ」


「流石、……というべきか」


含み笑いながら述べる青年に視線を送りつつ、ベヴェルクトは扉のすぐ隣の壁にもたれかかった。


「して、この僕に何の用かね」


「オイラ達、ヒマじゃないんだよね」


「なに、貴様等を捕えてどうこうしようなどとは考えておらん。そこに座るがいい」


ベヴェルクトとルフトは顔を見合わせてソファーへと歩み寄る。背負っていた棺桶を傍らに置き、ルフトだけが腰掛けた。


ベヴェルクトにも座るように再度促すが、彼女がソファーに座る気配は感じられない。


「まぁいい。手短に済ませるつもりだ」


「いいから早く用件を教えてよ」


指名手配中のルフトが危険を顧みずこの場に訪れたのには訳があった。この目の前に座っている青年、名をアルターと言うそうなのだが、魔王の弟だという。


ルフトが知る限り、ディツェンバーに弟はいなかった筈だ。そしてそれは情報屋を生業としているベヴェルクトも同様だった。


そしてディツェンバーの弟を名乗るその男は『貴殿等の願いを叶えてやる』と手紙に記し、二人宛に送ってきたのだ。


この男に二人の願い……基、目的を知られているかもしれないという事実は、二人にとって不都合しかない。よって、確認も兼ねてこうして姿を現した次第だ。


「まずは俺の目的から話してやろう」


「ふむ。それが僕達の目的と同等の価値があるかによるがね」


皮肉混じりに口にしたベヴェルクトを一睨みした後、アルターは自身の目的とやらを語った。


「俺の目的は兄を殺す事。さすれば魔王の座は空席となり、魔王の資格を得るのはこの俺だ」


「だーかーらー。オイラはお前が魔王になる為の道具になる気はないんだけど?」


「ふん、ここまで言っても気が付けないとはな。ディツェンバーを殺す為には、まず奴の部下を始末せねばなるまい?」


その言葉に、ベヴェルクトとルフトは息を飲んだ。その表情を見たアルターの口元が微かに歪む。


「貴様等の目的であるメルツとオクトーバーに近付く絶好の機会ではないか?」


「…………」


ごくり、と生唾を飲み込むルフトに反して、ベヴェルクトは冷静だった。


「その前に、何故僕の狙いがメルツだと知っているのだね?」


「! そ、そうだよ! オイラ、ベヴェルクトにも一度だってオクトーバーの名前出してないぞ!?」


ベヴェルクトの質問にハッとしてルフトも畳み掛ける。それに対してもアルターは落ち着いた様子で


「城にいた頃、オクトーバー宛に届けられた荷物を見た事があってな。中身は確か……彼そっくりに作られた人形だったか」


「貴殿はそのような陰湿な事をしていたのかね……」


「陰湿!? 上手く作れたから本人に見て欲しかっただけだもん!!」


「キモかったからよく覚えている」


「それは無いぞルフト」


ベヴェルクトだけでなくアルターからも責められ、ルフトは泣く寸前であった。しかしルフト自身には『ストーカーじみた行動をしている』といった自覚がないのだ。


純粋な愛ゆえの行動。ルフトはそう認識しているのだが、ベヴェルクトとアルターから否定されてしまった。


「なにさぁ! ベヴェルクトだってヤンデレストーカーのくせに!!」


「僕の純粋な愛情と君の偏愛を一緒にしないでくれたまえ」


「なんだとぉ!?」


「僕がメルツに抱いている感情は愛だ。愛しているからメルツを殺して僕も死ぬ。誰のものにもならない為にな。道理だと思うがね」


「そっちだって大概じゃないか!?」


ルフトがオクトーバーに抱く愛情も、ベヴェルクトがメルツに抱く愛情も、同じものだ。

しかしその後の行動は歪んでいる。


ルフトは愛する者(オクトーバー)の容姿をそのままに、衰え朽ちる事のない人形へする事を最終地点としている。自身もまた半分人形の身なので、半永久的に朽ちる事なく共に生きる事が出来る──。


対してベヴェルクト。彼女は愛する者(メルツ)と共に死ぬ事を目的としている。先程口にした通り、お互いに誰の物にもならない為に──。


同じであり、最終地点が似て異なる二人が互いに交わした契約。


『愛する者を手に入れる為に協力する』


その目的を知っているアルターは、二人を制してから交渉を進める。
















────そして二人は同時に、首を縦に振った。

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