番外(2)
アウグストと婚約関係を結んで、数ヶ月経った頃の事だった。メーアがアウグストと食事をしに行っている間に、それは起こってしまった。
メーアが帰ってきた時に目にしたのは、赤色に染った部屋に二つの魔石が落ちていた光景だった。屋敷に両親の姿が見えなかった為、その二つの魔石は両親の物である事は明白だった。
メーアは絶望に打ちひしがれた。
もう少し早く帰宅していれば。出掛けていなければ。両親は死なずに済んだかもしれない。
頻繁に様子を見に来てくれたアウグストと話す事すら億劫だった。それでも彼は何も言わず、ただ隣に座っていてくれた。励ますかのように。
一度だけ、ふと零した事がある。
「私も消えてしまいたい。両親の元へ行きたい」と。自分を責めて浮かんでしまった本音でもあった。
だが、口にすると楽になったので、次にアウグストと会った際にもう大丈夫だと伝えておく。
それでも両親の死を受け入れる事は出来なかった。気が付けば半年の月日が流れていて、式を挙げる予定の日すら過ぎていた。それでも彼は「仕方ありませんよ。延期しましょう」と、言ってくれる。
そして更に半年が経った頃だろうか。アウグストに連れられ、メーアはとある丘の上へとやって来た。
ぽつん、と立っている小さな一軒家の中に足を踏み入れた時、アウグストは彼女の手を取って言った。
「メーアさん。御両親の事を忘れろとは言いません。ですが……俺は貴女を失いたくない」
一度だけ零した言葉は、彼の中に残り続けていたらしい。罪悪感を感じながらも、彼から紡がれる言葉を待つ。
「ですから少しの間、こちらで生活を共にしませんか? 気を紛らわす事も……今の貴女には必要だと思います。辛い事は全て俺に話して下さい。必ず……必ず力になるとお約束します」
「アウグスト様…………」
「俺が、貴女の家族になります。貴女の夢を叶えます。貴女の苦しみを……俺に分けてやって下さい。それでも駄目だった時は……。……俺が一緒に死にます……」
「!」
「でもそれは最後の案ですからね。全部やって駄目だった時だけ。ずっとずっと、俺が傍にいますから」
足の力が抜けて、倒れそうになる。アウグストが受け止めてくれたが、メーアは構わずに涙を流した。
──メーアは、アウグストが魔石となった魔物を復活させる研究を確立させた事を知らない。愛する者の為に成し遂げたものだが、それは不要であったと思わせられたから。
メーアは少しずつ、元の彼女へと戻る事が出来たから。
余計な事であると、アウグストは判断したのだ。
※※※※※
両親の死から、数年が経っていた。
アウグストの死から、四年が経とうとしていた。
大切な者を二度失ったメーアは、最愛の人との間に生まれた息子を見つめ息をつく。
「…………」
アウグストの死が悲しくない訳ではない。しかし、メーアには息子がいる。我が子の為に、メーアは強く生きなければならない。
と、家の扉がノックされた。
メーアの悲しみを蘇らせ、黒い感情を増幅させる者が扉を阻んで立っている事など、誰にも知り得なかった。