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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第3話

暫く歩いていると突然、ゼプテンバールの鼻に独特の鉄の臭いが掠めた。それは他の者達も同様だったらしい。


「血の臭い……だな」


「あらあら物騒ね〜。でもこれ、魔物の臭いじゃないわね。魔獣じゃないかしら」


魔獣狩りのスペシャリストが言うのだから確かなのだろう。


すんすん、と鼻を鳴らしてアプリルも頷いた。彼に至っては鼻すらも包帯に巻かれているので、本当に臭いを認識しているのかは分からない。


「しかもこれは亜種のようですねぇ。本来の魔獣に比べれば質も劣りますが、亜種には亜種なりの価値があります。ま、見てみないと流石のボクでも分からないので早く先を急ぎますよ」


「そうですね、行きましょう」


早口でそう言うなり、アプリルはすたすたと歩き始めてしまった。アウグストも興味があるのか、歩くペースが少し早い。


歩き始める面々の背を見つめていたが、ハッとしてゼプテンバールは駆け足でフェブルアールに追いつき、話しかけた。彼女に聞きたい事があったのだ。


「ねぇねぇお姉さん。お姉さんはどうして宙に浮いているの?」


「ん〜私身長低いのね〜。子どもと間違えられるから恥ずかしいのよぉ。私おばさんだから……あと飛んでた方が楽でしょ」


「魔王様の前では飛ばなかったよね」


「…………そうねぇ」


「お前なぁ……当たり前だろうが」


ゼプテンバール達の会話を聞いていたのか、前を歩いていた筈のメルツが振り向いていた。腕を組んで、ゼプテンバールを見下ろしている。


「魔王様の前じゃ絶対平伏。乳飲み子でも分かるような常識だぜ」


「僕が乳飲み子以下だとでも言いたいの……?」


ジトッ、とした視線をメルツに送るが、気にする様子もない。


「そのババアが四六時中ふわふわ飛んでようが、魔王様の前じゃそれも崩れるさ」


「おや、そんな常識も知らないとは……教養がない子は好きじゃありませんよ、ボク」


アプリルに横槍をさされ、今すぐにでも掴みかかりたかったがぐっと堪えたゼプテンバールは、顔を逸らすしかなかった。


彼は引きこもりなのだが、ただの引きこもりではない。


そうせざるを得なかった理由があるのだ。

とはいえ自分について話したい訳でも無い。ゼプテンバールは誤魔化すかのように拳を握り締めた。


「貴様等、早くするんだ」


ヤヌアールの凛とした声に諭され、ゼプテンバール以外の者達が再び歩き始める。だがどういう訳か諭した張本人であるヤヌアールは、ゼプテンバールの元までやって来て


「気にするな。貴様の考察は間違ってはいない」


と、肩に手を置いて言った。


「……お姉さんも気付いたんだ」


「あぁ。少年、貴様は見所があるな」


ヤヌアールがよしよし、とゼプテンバールの頭を撫でる。

ゼプテンバールとしてはもう頭を撫でられるような年齢でもないし、恥ずかしいので振り払いたかったが、認められて悪い気はしない、というのが事実だ。


視線だけ逸らしていると、一行の耳に一発の銃声が聞こえてきた。


「!」


「他の者達だろうか」


「……急いだ方が良さそうだな……」


ダッ、と走り出したメルツに続いて、残された一行も駆け出す。

暫くして見えてきたのは、一人の青年が銃を構えている所だった。銃口が向けられているのは眼鏡を掛けた青年だ。


「貴様等は……!」


「……マイ、ユーニ、ユーリ、オクトーバー……ですね」


確認するかのように順に名を述べたアウグスト。名を呼ばれたにも関わらず、誰一人として反応は示さなかった。


「仲間割れか?」


「あははっ! 全員集合だな!!」


マイに銃口を向けているユーニは、笑いながらそう言った。確かにディツェンバーに呼び出された全員がこの場に集結している。


本来ならば、それは好都合なのかもしれない。


ゼプテンバール達は地下に落とされた。正確な場所も分からないし、何故このような目に遭っているのかも分からない。


だからこそ協力して出口を探すべきだと、ゼプテンバールは思った。

だが現状はそれ所ではないらしい。


このままユーニがマイに向けて発砲したとしよう。闘いが巻き起こるのは回避出来ない。


そうなればゼプテンバールが無傷で外に出る事は叶わない。どうするべきか迷っていると、ヤヌアールが一歩踏み出した。


「まずは銃を下ろせ。折角全員集まったんだ……俺と少年の話を聞いてもらおうじゃないか」


「少年……?」


「ゼプテンバール少年、言ってやれ」


「………………」


突然話を振られて呆けるゼプテンバール。数秒の沈黙の後、彼女が言った言葉の意味を理解した。


「なんで僕!?」


「名誉挽回するならばここしかないぞ」


「なんでもいい。話す事があるならさっさと話せ糞餓鬼」


全員の視線がゼプテンバールに注目する。話さざるを得ない状況に追い込まれ、不本意ながらもゆっくりと口を開いた。


「ま、魔王様に呼び出された時……僕疑問に思ったんだ。フェブルアールのお姉さんと、アウグストのお兄さん……あとマイのお兄さんの動きが可笑しいな……って」


「「「………………」」」


沈黙。

名を挙げられた三人は、何も言わずに静かにゼプテンバールの言葉を待った。その視線が怖い。


だがここで怯んでは男が廃るというもの。恐怖を堪えてゼプテンバールは再度口を開く。


「フェブルアールのお姉さんは……普段宙に浮いてるし、いくら跪いてたとはいえそのまま落下するとは思えない。床が閉まったのは落ち始めてから数秒後。その間に浮遊するのは造作もない筈」


「……ふふっ、確かにそうねぇ」


「マイのお兄さんは……魔王様が現れた所にそれまで立ってたよね。まるで……そこに魔王様が現れる事を知ってたみたいに動いた……」


「おや、君にはそう見えたのですね」


「アウグストのお兄さんは……初めヤヌアールのお姉さんの隣に立っていた。でも、魔王様が現れて整列した時には……ヤヌアールのお姉さんから離れて僕の隣にやって来た。わざわざ自分が立っていた場所から離れた……僕の隣に」


「…………そう、ですね……」


「メンバーの職業や年齢もバラバラ。でも魔王様が僕達を呼び出したのには何かしらの理由がある。きっと何かを確かめたかったんだ。でも──」


「内々で殺し合いされては困る、という事か?」


「……恐らく……」


元々、好戦的な者が多い魔物だ。殺す事において罪悪感を抱く者の方が少ないくらいに。

しかしそれはディツェンバーにとって都合が悪い。

だがディツェンバーは何かを企んでいた。その為にはゼプテンバール達を一箇所、もしくは数人ずつに分けて集めなくてはならない。


その際にある程度統率をとらせる者が必要となる。それがフェブルアール達だとゼプテンバールは踏んだのだ。


その事を聞く前にメルツ達に邪魔されたのだが、ヤヌアールも同様に気付いていたらしい。その証拠にゼプテンバールの考察を聞き終えた彼女は満足気に頷いている。


「完璧だ、少年」


「あはははっ! おれもそう思ってた!」


ヤヌアール以外にユーニも気が付いていたらしい。まさか聞き出す為にマイに銃口を向けていたのだろうか。


「で、ででですが……本当に……?」


「それは御本人に聞いた方が早そうですね……。どうなのですか。真実なのですか?」


静かに、それでいて芯の通った声でユーリが問う。それに応えたのはフェブルアールでもマイでも、アウグストでもなかった。




「真実だよ」




瞬間、景色が変わっていた。

赤い絨毯が敷かれた広い空間だ。黒い壁に沿って鎧を着た者達が立っている。


「!!」


ゼプテンバールはハッとして顔を上げた。目の前にある階段の上……そこにはディツェンバーが椅子に腰かけていた。


ひと目で分かる。ここは魔王城で、魔王と謁見する厳かな場所であると。


今度はメルツに押さえ付けられる前に跪く。他の者達も同様に膝をつき、頭を垂れた。



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