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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第35話

耳の奥を突くような金属音が響き渡る。刃を混じえて早数十分。劣勢を強いられていたのはルフトだった。


質の良さそうな漆黒のコートはキュステの双剣によって割かれ、陶器のような肌が垣間見えている。しかしそれによる出血は一切見られない。


対してキュステは服にも塵一つ付ける事なく、余裕のある表情で双剣を振るっていた。

だが余裕のある表情でも、内心は油断などこれっぽっちもしていない。


常に相手の出方を伺い、仕留める為の一撃の隙を狙う。


(まだ何かを隠しているのは確実……)


それに彼は最早魔物の身体を持ち合わせていないのだろう。急所を何度か攻撃しているが、ダメージを受けている様子はないのだから。


(なら……四肢を切断しましょうか……)


そう決断を下して、キュステは双剣を握り直す。刃先がルフトの腕を捉えた瞬間の事だった。


「──待ちたまえ」


第三者の声。

振り下ろしていた剣先を軽々と受け止め、その声の主はキュステを見下ろした。


黒いリボンを着けた、長い金髪の女性だった。キュステの頭二つ分程の身長の高さ、踵の高い靴を含めて目測でも180はあるだろう。


(あら……?)


「この勝負、此方の負けで構わない。ルフト、撤退するぞ」


突如として現れた女性は、そう言った。ルフトは一瞬声を荒らげたが、女性の只ならぬ気迫に押され黙り込んでしまった。


「…………『停止・崩壊』」


ルフトがそう呟くや否や、館全体に亀裂が走る。


(崩れる……!)


そう察知するなり、キュステは双剣を仕舞って屋根から飛び降りた。最後に、女性と目が合ったが、瞬きした次の瞬間には二人の姿はそこにはなかった。


地面に着地すると、亀裂の入っていた館が音を立てて崩れ始める。


「ヤヌアール様達は……!?」


「ここにいる、キュステ」


背後からヤヌアールの声がして、ぱっと振り返る。崩れるのを察知出来たらしい。


「御無事で何よりです。申し訳ありません、ルフトを逃してしまいました……」


「いや、問題ない。特定が出来たのは大きな収穫だ」


「瓦礫の下敷きになって人形達も出て来れないだろうし……」


ゼプテンバールが安心したように瓦礫と化した館に視線を向ける。


「特に目立った気配も感じられない……。一度城に戻って情報を共有しよう。それに、夜が心配だ」


「よる……?」


はて、と首を傾げる。

帰りの道すがらに、それぞれ起こった事を話しながら城へと足を進めた。






※※※※※※※※※※






「あぁぁぁムカつく!! 何で止めたのさ!」


とある森の中。

傷だらけのルフトは枯れかけていた木の幹を殴り付けて怒りを顕にした。


しかしそんな彼に見向きもせず、女性は冷めた声色で口にする。


「僕は冷静に状況判断したまでなのだがね。殺し屋キュステに軍隊長ヤヌアール、そしてヴェルメ族の末裔ゼプテンバールまでいたのだ。君が命を落とさないように気を配ったのだから、むしろ感謝して欲しいのだが」


「それには感謝してあげるけどね! 人間の見張りはどうしてたんだよ!?」


「少し席を外した瞬間に連れ去られてしまったよ。それは僕の落ち度なので謝罪しよう」


「なんの為に君を雇ってわざわざ人間を仕入れたと思ってるの!?」


「人間を人形に作り変える。魔物では肉体が残らないからね。肉体は永久にその美しさを保ち、朽ちる事もない。また、物言わぬ屍になるのだから都合も良い。そう、聞いていたのだが間違いはあるかね」


ルフトの目論見をつらつらと、興味なさげに答えてみせる。それは間違いなく、ルフトの目的を語ってくれた。


「あぁそうさ! よく分かってたようで安心したよ。でも、見張りを離れたってどういう事!? 契約違反でしょ!?」


「そもそもの契約を忘れたのかね? 僕は僕の目的があるのだ。お互いに利害が一致したから共にいるだけであり、本来君など眼中にないのだが」


「じゃあせめて何か一言くれないかな!?」


ルフトが怒るのも最もだ。見張りを任せていたのに、気が付けばその人間は解放されていて、挙句の果てに住んでいた館を破壊するまでに至ってしまったのだから。


「連絡手段を知らされていなかったので不要だと解釈した」


「要るんですけど?!」


「人間ならば新しいのを用意しよう。貴殿の目的に興味はないが、僕にも都合がいい事は事実なのでね」


「探し人だっけ? ご苦労な事だねぇ」


皮肉交じりにそう言ってやったのだが、女性はそれを素直な賛辞と受け取った。


「居場所は掴めたのだ。焦る必要はないだろう。それまでは貴殿の目的に尽力しよう」


「それじゃ、まずは根城探しからだね。頼んだよ、べヴェルクト」


女性──べヴェルクトは、しっかり頷いて姿を消した。静寂が訪れた森の中で、ルフトは一人笑みを漏らした。


「ふふ、えへ、ふへへへ……待っててね……オイラの人形にしてあげるから……ふひ、ひひっ……楽しみだねぇクノッヘン……もうすぐ……、もうすぐお兄様が出来るからねぇぇ……?」


紅潮した頬を冷ますように風に当たりながら、ルフトもまた姿を消した。

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