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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第34話

キュステに言われて裏門へとやって来たヤヌアールとアウグストは、到着して早々に武器を構えた。

古びた木の扉の両脇について、呼吸を整える。


「行くぞ……アウグスト」


「はい……」


互いに頷き合ってから、ヤヌアールは扉を勢いよく蹴破った。

瞬間、ヤヌアールの視界に映ったのは拘束された女性だった。緑がかった黒髪のショートカットに、前髪はピンク色のヘアピンで留められている。


が、驚いた事に、彼女の耳は尖っていなかった。


つまりは……


「人、間……?」


という事になる。

女性はヤヌアールとアウグストの姿を見るなり、潤ませていた目から大粒の涙を零して叫ぶ。とはいえ、口には布が噛ませられているので、くぐもった声しか聞こえないのだが。


「アウグスト、言語は通じるのか……?」


「えぇ、問題ありません。取り敢えず状況を聞きましょう」


それもそうだな、と返事をしてヤヌアールは女性に歩み寄る。襲われると勘違いしたのか、女性は首を振って何かを口にしていた。


「落ち着いてくれ。今拘束を解くから」


アウグストに周囲の警戒を頼み、ヤヌアールは剣を鞘に収めて女性の縄を解く。それから口に当てられていた布を取ってやる。


「俺の名はヤヌアール。彼はアウグストだ」


「ま、……町田夜まちだよる、です……」


夜、と名乗った女性は、まだ小刻みに震えている。彼女の背を摩りながら、ヤヌアールは事情を聞き出す。


夜の話によれば、突然この世界に連れてこられたとの事。なんでも、一部の人間は魔力を有しており、その者達以外は魔物の姿が見えないらしい。


魔力を有している人間、通称魔人(まびと)である夜は、高身長の女性に拘束されここに連れてこられた、と話した。


「高身長の女性……他に特徴はないか?」


「長い金髪でした……それと、黒のリボンを着けていました」


「他に何か聞いたか?」


「その……女性は雇われた、と言っていました。依頼主? は棺桶を背負った男の子です……。骸骨の着いた帽子を被っていて……、名前は確か……ルフトと呼ばれてました」


「ルフト……。指名手配中のですか……」


アウグストが思い出したかのように呟く。彼の事はヤヌアールも耳にしている。


アガルマトフィリアの大量殺人鬼。

現場には大量の血溜まりと彼の名刺のみが残されているという。ヤヌアールも少しだけ調査に関わった事があるが、こんな形で情報を得るとは思わなかった。


「その人は……わ、わた、私の事をっ、……人形にするとか何とかって……っ……」


恐怖に怯える夜を抱き締め、ヤヌアールは震えている背中を摩ってやる。


「すまない、怖かったな……。必ず人間界に帰してやるから、もう少しだけ頑張ってくれないか」


「は、はぃっ……」


「アウグスト。俺はゼプテンバール達の所へ向かう。彼女を任せていいか?」


「分かりました。ゼプテンバール君達の居場所は……」


「地下から気配がする。すぐに戻る」


「気を付けて」


夜をアウグストに任せ、地下へ続く階段を駆け下りる。明かりがない為自身の感覚だけが頼りだが、一刻も早くゼプテンバール達と合流したい。


その一心で走り続け、彼等の気配が強く感じられる地下の扉を開けた。






※※※※※※※※※※






「……下がっていてください……」


凛とした心地よい声が、ゼプテンバールの耳に届いた。

振り返るとそこには、シャツの袖を肘の所まで捲り上げ、ロングスカートの側面を割いているユーリの姿があった。


「な、何してるの!?」


「私が……道を開きます……。あまりにも数が多いので……まずは外に出る事だけを考えましょう……」


「それは分かってますが……」


ぐいっ、と身体を伸ばした後、ユーリはふわりと微笑んで


「大丈夫です……。すぐそこまで……ヤヌアールさん達の気配がありますから……」


と言って、駆け出した。


「ユーリ!!」


彼女一人では危険だ、後を追いかけないと。

そう思ってゼプテンバールも立ち上がったが、それは杞憂だった事を実感させられる事となる。


ひらりと人形達の武器を躱し、拳で胸にある魔石を砕くユーリ。魔石どころか、人形本体にも損傷が出ている程の強い攻撃を繰り返し、あっという間に少しの道が生まれた。


「ひ、えぇぇ……」


「彼女……何者……」


と、何を思ったのか、人形の持っていた剣で自身の長い髪を切った。一つの三つ編みに纏められていた髪がはらはらと舞っていたが、やがてそれは紫色の鎖鎌へと形を変える。


「!!?」


鎌を振るい投げ、人形達の腕を切り落としてから拳で、肘で、膝で、踵で、魔石を破壊していく。


ユーリは戦闘は苦手、と言っていた。敵を蹂躙している彼女が。


(もしかして……ユーリの言っていない事と……ディツェンバー様が直属の部下に選んだのって……)


合点がいった気がした。

ユーリが言っていた「皆に話していない事」、ディツェンバーが漏らした「彼女を直属の部下に選んだ他の理由」。


それはユーリが高い戦闘能力を持っている事だったのでは。


「ゼプテンバールさん! シュテルンさん! 来て下さい……!」


ユーリに呼び掛けられ、ゼプテンバールとシュテルンは衝撃を受け入れきれていないまま走り出す。とはいえ、まだ人形達が減っている様子はない。


ヤヌアール達の魔力を頼りに、ユーリは人形の魔石を破壊しながら確実に出口を探す。ゼプテンバールとシュテルンも出来る事をしよう、と人形達が落とした武器を手に取る。


囲まれては道を開き、人形達を迎撃しながら進む。ゼプテンバールとシュテルンは武器が使い物にならなくなったらその辺に落ちている物を拾って。


そうして、扉が目に映った。


「扉だ!!」


「蹴破ります……!」


扉を隠すようにして立っていた人形の鎖鎌で捕縛して、力任せに放り投げた後、ユーリは扉を口にした通りに蹴破った。


その瞬間、驚いたように目を見開いたヤヌアールの視線が合う。


「!!」


「ヤヌアール!!」


ゼプテンバール達の背後に迫る人形達を見たヤヌアールは、即座に道を開けて階段を上るように指示を出す。

最後にシュテルンが出たのを確認してから、ヤヌアールは吹き飛ばされた扉を戻し、近くにあった箱を置いた。


「今のうちに上がれ!」


「うん!」


無我夢中で階段を駆け上がる。段数はそんなになく、すぐに地下を抜ける事が出来た。埃の被った赤いカーペットがやけに懐かしいように感じられる。


「アウグスト! シュテルンと共に彼女を連れて城へ戻るんだ! ここは危険過ぎる!!」


「状況は分かりませんが了解しました!!」


シュテルンがアウグストの手を取った瞬間、三人の姿が消えた。ここで初めて、ゼプテンバールは息を吐いてその場にしゃがんだ。


「も、もう駄目かと思った……」


「よく頑張ったな、ゼプテンバール」


ぽん、と肩に手を置いて褒めてくれるヤヌアール。そんな彼女に笑みを返して、再度深呼吸をした。



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