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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
32/161

第31話

ギィィ、と重く軋んだ音を立てながら扉を押し開ける。少し肌寒く感じられる風が割れた窓ガラスから吹き抜け、不気味な音を奏でている。

灯りは一つとしてなく、真っ暗な闇がそこに広がっていた。


それに躊躇う様子もなく、ヤヌアールは先陣を切って歩き出す。


「まずは間取りの把握からしよう。なるべくはぐれないようにな」


暗闇の中、縋るようにアウグストのマントの裾を掴み、ピッタリくっ付いて歩く。途中「歩きにくいです」と言われたが、無視させてもらった。恐怖が上回っていたので。


くすんだような色をしたカーペットには埃が溜まっていたが、所々足跡が残されていた。恐らくは財宝目当てに忍び込んだ者達のものだろう。


にしても、本当に金品を溜め込んでいるのか疑わしいまでの質素さである。

それ程目を引く調度品も無ければ、誰かの肖像画も無い。


ただの古い空き家のようにしか見えないのだ。


最後尾を歩くキュステも同じ事を思っていたらしく、落胆の溜め息が聞こえてきた。

とはいえ調査は進めないといけないので、渋々歩みを進めるゼプテンバール一行。


そしてダイニングらしき場所に到着した時。

突如として建物が大きく揺れ、部屋が回転した。


「えぇっ!? 何何何!?」


「浮遊するか固定されている物に捕まるんだ!!」


ヤヌアールの指示を受けて、ゼプテンバールは壁に設置されていた蝋燭台に捕まろうと手を伸ばす。しかしそれに手が届く寸前で、部屋がぐるりと反転した。


背中に強い痛みが走り、口から空気が抜ける。


「いっ……たい……!!」


「大丈夫かい? ゼプテンバール様……」


「立ち上がれますか……?」


上手く着地出来なかったのはゼプテンバールだけだったらしい。シュテルン、ユーリが駆け寄り手を差し伸べてくれる。


その好意を受け取って二人の手を取り、痛みを堪えて立ち上がった。


「ありがとう……。……あれ?」


ふと、素っ頓狂な声が口から漏れた。部屋が反転してゼプテンバールは現在、先程まで天井だった所に立っている。


だがゼプテンバールが驚いたのはそこではない。つい先程まですぐそのにいたヤヌアール、アウグスト、キュステの姿が見当たらないのだ。


「ヤヌアール達……どこに……」


「部屋が回転した時、壁の一部が開いたんです。闇に吸い込まれるように……ヤヌアール様達は……」


一部始終を見ていたらしいシュテルンは、早口気味に、それでいて冷静に説明してくれる。


「…………魔力が感じられません……。一度、ここを出た方が宜しいかと……」


ユーリの言う通り、ヤヌアール達……特にアウグストの魔力が強いのだが、それ等の気配が全く感じられない。


マイなら別だろうが、近くにある魔力の気配しか探れないゼプテンバール達には、どうする事も出来なかった。


「僕もユーリに賛成だよ。シュテルンは?」


「勿論、その方が安全でしょう。では、一度館の外に出るという事で──」


と、シュテルンの声が不自然な所で止まった。その視線はある一箇所に釘付けになっていて、釣られるようにゼプテンバールとユーリも視線を向ける。


「……あんな扉、あった?」


三人の視線の先にあるのは一つの扉。現在、元々屋根だった場所が床になっているので、当然扉も逆さまになっている。


しかしその扉は、反転する事なくその場にあった。魔術的な仕組みがあるのかもしれない、と扉に近付いたユーリの後に続いて、ゼプテンバールとシュテルンも歩み寄る。

その瞬間、独りでに扉が開いた。まるで、ゼプテンバール達を誘うかのように。


「……どうしましょう?」


「外に出るんじゃないの?」


「でも気になりませんか……?」


好奇心に満ちた表情でシュテルンは身を乗り出す。とはいえ気になるのはゼプテンバールも同じだ。


だがシュテルンはどうか分からないが、ゼプテンバールとユーリはどちらかと言えば戦闘を苦手としているので、圧倒的戦力を誇るヤヌアールがいないのは不安なのも事実。


やっぱり戻ろう、と提案しようとした矢先、何者かに足を引っ張られた。


「ぎゃっ!?!?」


「ゼプテンバールさん!」


引きずり込まれる手前で、ユーリが手を掴んでくれる。しかし引っ張られる力の方が強く……


「きゃっ!」


「ユーリ様!! って、わぁあっ!?」


ユーリの腕を掴んだシュテルンもまた、為す術なく引っ張られてしまう。闇の中に吸い込まれていった。







※※※※※※※※※※








ゼプテンバール達が扉の奥に吸い込まれていったのと同じ頃。館内で姿を消したヤヌアールは、再び館の入口に戻っていた。


気が付けば景色が変わっていたのだが、混乱に陥るヤヌアールとアウグストをよそに、キュステは動じる事なく辺りを見渡した。


「ふむふむ。大体分かりましたわ」


「な、何がだ?」


「この館、ただの呪いではないようです。メルツ様の報告によりますと、迷いの呪は確実だと思いますが……すぐ側で魔術を発動させている者がいる筈です」


どこからともなく双剣(というより鉈に近い)を取り出し、悠然に構えてみせる。華奢な細腕のどこにそんな力があるのか不思議だ。


「この案件、私が引き受けましょう。ヤヌアール様とアウグスト様の実力を疑っている訳では御座いませんが、私の方が適任でしょう」


「ま、待て……! つまりどういう意味なんだ!?」


「……呪解しても根本的な意味は成さない、という意味ですわ。主犯と思わしき人物を探して来ますわね。その方を何とかしない限り、この館は人を喰らい続けますでしょう」


つらつらと述べるなり、キュステは地を蹴って黒い鉄柵に飛び移る。


「ヤヌアール様、アウグスト様。御二人は裏門の方からゼプテンバール様達と合流なさって下さいませ!」


「ちょっ、おい!」


ヤヌアールが引き止めるもキュステの姿はもうそこには無い。アウグストと顔を見合わせ頷き、二人は館の裏門に回った。

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