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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第30話

「呪いの館?」


今し方ディツェンバーの口から発せられた言葉を、そっくりそのまま反芻する。

この場に集められたゼプテンバール、ヤヌアール、ユーリ、アウグストは優雅に紅茶を口に運んでいるディツェンバーに視線を注ぐ。


「なんでもその屋敷に入った者は二度と帰って来れない、みたいな噂があるからね。未だに姿を眩ませる者が後を絶たない」


「なら、立ち入り禁止区域に設定すればいいじゃないか」


ヤヌアールの提案も最もだ。その屋敷がどこにあるのかはまだ分かっていないが、立ち入り禁止区域に設定されている建物に立ち入る阿呆はそうそういない。


しかしディツェンバーは溜め息をつきながら目を伏せた。


「もうしてるんだけどね……外に見張りも立たせてる。でも駄目なんだ」


「何故ですか?」


「財宝、だよ」


「あぁ……金目当てで忍び込む輩がいるという訳ですね」


ディツェンバーの一言で全てを汲み取ったらしいアウグスト。そこまで言ってくれればゼプテンバールにも理解出来る。


その呪いの館には、そのままの通り何かしらの呪いが掛けられている。しかし国が禁止令を出していても尚行方不明者が続出しているのは、その館に隠されている(?)らしい財宝があるから。


自身の身の安全を投げ打ってまで侵入するのだから、相当高価な物でもあるのだろう。


「呪いはユーリなら解ける筈。中に人がいるようなら事情を聞く事も忘れないように。指揮はヤヌアールがとりなさい。それと今回はもう二人、同行してもらう子がいるんだ」


「僕達が知らない人?」


ゼプテンバールの問いに頷きを返したディツェンバーが、テーブルに置かれていたベルを軽く鳴らした。するとすぐに扉がノックされ、二人の男女が入ってくる。


黄緑の髪をした女性は左目を前髪で隠し、可愛らしいアホ毛がぴょこん、と立っていた。腰まである長い髪を三つ編みにして一つに纏めている。


男性の方は艶のある茶髪を清楚に切り揃えた品のある雰囲気を醸し出していた。鮮やかな赤い瞳はぱっちりとしていて、長い睫毛を揺らしてにこり、と微笑んだ。


「紹介しよう。宝物官のキュステとシュテルンだ」


「キュステと申します。以後お見知り置きを」


「シュテルンです。本日はよろしくお願いしますね」


黄緑の髪の女性がキュステ。

茶色い髪の男性がシュテルン、というらしい。


(宝物官って事は……)


「呪いの館にあると伺っている宝物の鑑定、及び審査を務めさせて頂きます」


と、いう事になる。


今まで関わりがなかったキュステとシュテルンと上手くやれるか、そんな不安を抱きつつも拒否権がないのは明白なので。


「それじゃあ、よろしくね。詳しくは現地にいるメルツに聞きなさい」


「「「御意!!」」」


かくして、新たな任務に向かう一行であった。







※※※※※





「──なぁなぁなぁ俺様文官よ? それなのにこの半年間、机に向かった事ないんだが? 魔王サマに命じられて情報収集やら隠密やら暗殺やらさ、やってる事が前と変わってない訳よ? この間魔海に放り出されたりしてさ、もう呪い案件とは関わりたくなかったのよ。なのに『行方不明者が続出している呪いの館の調査を頼みたい。出入りした人数、状況も細かく頼んだよ』って言われた訳よ。部下としては従わなきゃなんねぇから二つ返事で承諾したはいいんだけどさ、俺様が来るなり見張りの兵はサボりだすわ館の中から悲鳴やら奇声やら聞こえてきて正直肝が冷えたのよ。俺様グロは平気だが急にドカーンは苦手なのよ。ねぇ分かるこの気持ち?」


「文官というのは公の場での建前かもしれませんね。マイ様のように『彼は魔王様の執事として働いているからこの場にいる筈がない』という先入観を利用した魔王様なりの策かもしれません。此度の調査に関しましては特別給が出るようですが、加えて休暇等取られてはいかがでしょうか。私が知る限りメルツ様は根を詰め過ぎているような気がしますもの。一週間位休んだ所で誰も咎めませんよ、きっと。たまには体も心も休めて差しあげましょうね。それとサボタージュしていた兵につきましては私の方で一発入れといたので許して差しあげてくださらないでしょうか」


長々と愚痴を語ったメルツと、それに対して長々と返答したキュステ。二人は元々面識があったらしく、自己紹介抜きの軽い挨拶だけ済ませていた。


その間、ユーリが呪いを解除していたので、ゼプテンバールは背後で繰り広げられる愚痴と、前方で響かせるユーリの歌声、両方に耳を傾けていた。


改めて。呪いの館(もう呪いは解除されたが)を見上げてみる。魔王城には当然劣るものの、名家の貴族であった事が伺える豪勢な館だ。


しかし館の壁や窓ガラスには亀裂が入り、枯れかけた蔦が絡み付いている。手入れされている様子もなく、人が住んでいる気配もない。


確かに、呪いの館と名称がつくに相応しい外観だ。


「メルツさんは着いてきますか?」


「いや。交代で帰るように言われてるんでな」


首を横に振って、メルツは首を回した。バキバキッ、と音がする辺り、中々疲れが溜まっているらしい。


「ま、気を付けろよ。報告書は渡したかんな」


「ありがとうございます。帰り、気を付けて下さいね」


「おう」


早く城に帰りたいらしいメルツはすたすた、と足早に去って行く。

その背を見送ってから、ゼプテンバール達は恐る恐る館の中へと足を踏み入れた。



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