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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第2話

道すがら、ゼプテンバールは前を歩くメルツとアウグストに問うた。


「ねぇ。二人はさ、他に集められてた人達の事知ってるの?」


「むしろ知らねぇ方が可笑しいだろ」


ズバッとメルツに切り捨てられ、むっと頬を膨らませたゼプテンバール。苦笑いを浮かべながらアウグストが答えてくれる。


「皆有名人ですからね。勿論君も」


「え、そうなの?」


自身が有名人の自覚が全く無かったゼプテンバールにとって、彼の返答は驚くべきものだった。とはいえゼプテンバールは学校に通う事すら放棄している由緒ある引き込もりだ。


有名になる要素などない筈だ。


「少し前に……剣の大会があったでしょう。君、それに優勝して一躍時の人だったじゃないですか」


「え? あー……うん?」


そんな事あったっけ、と言われて頭を回転させる。少ししてから思い出したのだが、ゼプテンバールにとっては自慢にもならない思い出であった。


「……あれは親に無理矢理出されたやつだもん。怪我しないように必死だっただけだよ」


「それが凄いんですよ。もっと誇りに思ってもいいと思いますよ」


そう言われて少しだけ嬉しい気がした。

ゼプテンバールはそれを表に出さないようにして頷いた。


「そう思う事にしとくよ」


「ハッ。まさか由緒ある魔王サマ主催の剣技の大会の優勝者が、こんな餓鬼だとは誰も思わねぇわな」


嘲るようにして言うメルツを軽く睨んでいると、アウグストは笑みを浮かべた。


「有名なのは君もですよ。メルツ君」


「…………」


それを聞いたメルツは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。寄せられていた眉根を更に寄せ、じっとりとした視線をアウグストに向ける。


「金さえ払えばペットの散歩から国の重鎮の暗殺まで請け負う。萬屋じゃありませんか」


「そういうお前は有名な学者サマじゃねぇか。魔石だけの存在になった魔物を復活させる方法を見出した、凄い人なんだろ?」


嘲るでもなく、かといって正面からの賞賛でもなく、メルツはそう言った。

挑発とも取れるメルツの発言に、アウグストはただ微笑んで礼を言うだけであった。


「……じゃあ他の人は?」


「そうですね……魔王軍期待の新人、ヤヌアール。


魔獣狩りのスペシャリスト、フェブルアール。


魔術学の権威、アプリル。


テロリスト集団の主犯格、マイ。


ギャングのボス、ユーニ。


魔界きっての歌姫、ユーリ。


投影魔術の研究者、オクトーバー。


聞いた事のある名はいくつかあると思いますよ」


確かに言われてみれば、有名な名ばかりが揃っている。だからこそ不思議だ。


「魔王様は……僕達を集めて何がしたいんだろう」


「さぁな。だが、テロリストまで呼び出してんだ。只事じゃねぇのは確かだろ」


「じゃあ何で歌姫呼んでんのさ」


「俺様が知るかよ。それより……前から誰か来んぞ」


メルツの言葉に身を引き締める。耳を澄ませれば確かに誰かの靴音が聞こえてくる。

少なくとも二人はいるらしい。


人影が見えるとメルツが太股のポーチへと手を伸ばした。ゼプテンバールはというと特に何もする事なく、アウグストと並び立っていた。


やがてその人影が鮮明に見えてくる。二人と一人、宙に浮いていた。


「む。貴様等は確か……」


「上にいた人達ね」


「……右からマイナス五点、二点、三点、といった所ですかねぇ〜」


グレーの髪を結い上げた高身長の女性、ヤヌアール。

ふわふわと宙に浮いているフェブルアール。

何故かゼプテンバール達を見てなにかの点数を述べたアプリル。


前方から歩いてきたのはその三人だった。


太股のポーチへと手を伸ばしていたメルツは、その姿を見るなり溜め息をついて腕を組んだ。警戒は解いたらしい。


「おい何だその点数は」


「顔面偏差値です。おさげの方がマイナス五点。『非暴力』Tシャツ少年が二点。三つ編みオバケが三点です〜」


アプリルが言い終わると同時に、メルツが目にも止まらぬ早さでナイフを構えた。


「んだとコラもっかい言ってみろ!!!」


「ちょっ、やめなよ!」


アプリルに襲いかかろうとしたメルツを羽交い締めにして、ゼプテンバールはアプリルへと視線を向けた。


「アンタも失礼でしょ! 僕もっと上だよ!!」


「はてさて。今鏡が手元にないので、そのお顔をお見せする事が出来ません」


「嫌味な言い方すんな!!」


「全く……よさないか貴様等!」


ヤヌアールの張り上げた声にびくりと肩を揺らし、その場にいた全員が硬直した。鋭い視線はそのままに、彼女はさっさと指示を出す。


「出口を探すのが先決だ。争うのはもう少し後でも構わないだろう」


「お嬢ちゃんに賛成〜! 無駄な争いは何も生まないわよ」


のほほん、とその場にそぐわない笑顔を浮かべて、フェブルアールは賛同した。それに続いてアウグストも頷いた。


「色々とツッコミたい所はありますが……仕方ありません。先を急ぎましょう」


舌打ちしてナイフを仕舞ったメルツを確認してから、ゼプテンバールは彼の拘束を解いた。


「……っていってもどうするのさ。僕達が来た道は一本道で、向こうには針山があるんだよ?」


「こちらが来た道は二手に別れていた。私達がやってきた道を戻って、もう一つの道へ進んでみよう」


ヤヌアールが歩き始めたので、ゼプテンバール達もそれに続いた。険悪な雰囲気は収まらないので、爆発しないように気を付けて。








同時刻。

早足で廊下を歩くマイ。

スキップしながらマイの後を続くユーニ。

ドレスの裾を摘み上げて優雅に歩くユーリ。

オドオドと肩を震わせながら歩くオクトーバー。


四人は誰一人として口を開く事無く、一本道を歩いていた。


ヤヌアールのように先導する者がいる訳でもなく、フェブルアールのように仲介してくれる者もいない。言ってしまえば協調性の欠けらも無い者達の集まりだ。


だがそんな彼等でも、否が応でも口を開くタイミングがあった。


「おや、あれは……」


「あはははっ! ヤバいやつだな!!」


「まぁ……!」


「なななな何ですかあれぇ!?」


低い唸り声を発しながら躙り寄る魔獣。赤い鬣をもつ獣達は、マイ達の行く手を阻むようにしてそこにいた。


「見て分かる通り魔獣でしょうが……これは亜種でしょうか……。珍しい毛色をしていますね」


「れれれれ冷静に判断している場合ですかぁ!?」


ふむ、と顎に手を添えて分析するマイに、オクトーバーは声を震わせながら彼の身体を揺さぶる。しかしマイは満足気に笑みを浮かべるだけで、涙目になっているオクトーバーを無理矢理引き剥がした。


「泣き言は結構。戦える者で奴等を制圧しましょう」


「あはははっ! オッケーオッケー!!」


「ふえぇぇぇえ!?!?」


一斉に飛び掛る魔獣に向かって真っ先に飛び出したのはユーニだった。ショルダーホルスターから銃を両手に持ち、魔獣達に鉛玉を当ててゆく。


「動きは遅いな!!あははっ!!」


「油断は禁物です。確実に仕留めましょう」


襲い掛かる魔獣を薙刀で一閃しながら、マイは涼し気な表情で口にする。


「はわわわ……二人共お強いですぅ……」


「少年」


声を掛けられ、オクトーバーは大きく肩を揺らした。声を掛けた張本人であるユーリは構わずに、目線を合わせて言った。


「私は前線で戦う事が出来ません。私の事……守って頂けますか?」


「うぅぅっ……」


いくら臆病なオクトーバーでも、女性に潤んだ瞳を向けられてしまっては頷く他ない。内股気味に震える足を肩幅に広げて、弱々しく頷いた。


「わわわ分かりましたぁ……」


グオッ、と近付いてきた魔獣を一突きで仕留めるオクトーバー。感嘆の声を漏らしながらもユーニは更に踏み込んだ。


「あはははっ!! 中々やるね二人共!!」


「世辞は結構。早く片付けますよ」


「りょーかーい!! あははっ!!」


「ひゃ、ひゃいぃぃい……!」


数分後、マイ達の行く手を阻んでいた魔獣達は一匹残らず地に伏した。銃をホルスターに仕舞いながら、ユーニはスキップ混じりに魔獣へと近寄る。


「あわわ危ないですよぅ……」


「大丈夫大丈夫!! ななな!コイツ食える?! 美味いと思う!?」


「腐ったような臭いがするそうなのでオススメはしませんよ」


「ちぇー」


目をキラキラと輝かせていたユーニだが、マイの言葉を聞いて唇を尖らせた。


そんな彼等の傍らでユーリが美しい礼をしてオクトーバーに感謝を述べる。


「少年、ありがとうございました」


「いえいえ! 私は何もしていませんよ……」


「謙遜なさらずとも、貴方の実力は本物ですわ」


ふわり、と微笑んでユーリはオクトーバーの手を取った。細長い指先がオクトーバーの指を絡めとった所で、マイがわざとらしく咳払いをする。


「兎も角進みましょう。出口を探すのが先決です」


「そーだなー!」


「かしこまりました」


「は、はいぃ……!」


マイが一歩、足を踏み出した時だった。



パァンッ、と音がして、その場が静寂に包まれた。

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