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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第23話

反乱分子を抑えた日から二週間後。『お疲れ様会』と称して、十勇士ゼン・ヘルデンのメンバーで飲み会が催された。


とはいえゼプテンバールとユーニはまだ未成年(魔界では十八で成人)なので、ジュースを飲むだけだが。


部屋の真ん中で誰が一番の酒豪か決定する勝負、みたいなのが開催されているが、ゼプテンバールはそれを横目で見るだけに留めて、端の方でちまちまと酒を飲んでいるフェブルアールに話しかける。


「ねぇフェブルアール。フェブルアールはメルツが半月だって知ってたの?」


フェブルアールはメルツが半月だ、と打ち明けるよりも前に「メルツちゃん」と呼んでいた。


始めは可愛がっているのでそう呼んでいるのかと思っていたが、それならばどうしてそう呼ぶに至ったのか。気になってしまっては聞いておかなければ気が済まない。


ゼプテンバールの質問を受けて、フェブルアールは苦笑いを浮かべた。


「いやぁ……実はね、女の子だと思ってたのよ……」


「え、どういう事?」


「前に酔って潰れちゃったメルツちゃんの介抱をしたんだけど……ベルト緩めなくちゃと思って服を掴んだ時……見えちゃったの。さらしが」


「成る程……」


「その後メルツちゃん、って呼んでも普通に返事するから……あぁやっぱり男装した女の子なんだなぁって。見当違いだったけれどねぇ〜」


ようやく合点がいった。フェブルアールに礼を言っていると、後ろからオクトーバーに話し掛けられる。


「あ、あぁぁあ……あの……ゼプテンバールさん……」


「ん? どうしたの、オクトーバー」


「そ、そそそそその…………お聞き、し、ししたい事……が……」


彼から話し掛けてきたのは初めてかもしれない。そう思いつつ、彼の話を聞く為に静かなバルコニーへと移動する。


オクトーバーはもじもじと指を絡ませたりして、ゼプテンバールのチラッと見ては視線を逸らす、というのを何度か繰り返した。


恋する女の子が好きな男の子に告白するようなシーンを思わせられる行動だ。

だがやがて意を決したのか、声を震わせて口を開いた。


「あ、あああの……!」


「う、うん……」


「ぜ、ぜぜぜっゼプテンバール……"君"とお呼びしても、よっ、よよよ宜しいでしょうかっ!?!?」


「う、うん……。うん……?」


「! あ、ああありがとうございますっ! そ、そそそそれではしっ、しし失礼しますっ……!!」


凄まじい勢いで一礼したかと思うと、すぐさま駆け足で部屋に戻っていくオクトーバー。ゼプテンバールはその場に立ち尽くして


「…………え、それだけ?」


と、一人呟いた。

そんな独り言に、バルコニーの屋根の上から返事が返ってきた。


「の、ようですね」


ひょこ、と顔を見せたのはアウグストだった。長い三つ編みが重力に従って垂れる。


「アウグスト……! そんな所で何してんの……?」


「いやぁ……妻と連絡を取り合っていた所、面白い会話が聞こえてきたもので」


ふわり、と浮遊魔術を使用してゼプテンバールの隣にやって来る。彼の手元には連絡に使っていたらしい道具も。それはすぐに仕舞われてしまったので詳しくは見れなかった。


「オクトーバーの方が歳上なんだから、好きに呼べばいいと思うんだけどね……僕としては」


フェブルアールよりも身長が低く、幼い子供のような見た目のオクトーバーだが、十九歳と十勇士ゼン・ヘルデン内では四番目に年齢が高い。


そして一番の酒豪だ。初めて飲み会を開いた時、城の酒蔵にある酒が尽きかねない勢いで酒を飲んでいたのを昨日の事のように覚えている。


「日頃相談を受けていた俺としては……やっとか、って感じですね。年下の子達にお兄さんらしい所を見せたい! って意気込んでましたから」


「そうなんだ……」


「大方、明日からの相談内容は『メルツさんは君と呼ぶべきでしょうか? それともちゃんと呼ぶべきでしょうか? どうしたらいいんでしょう!?』といった所かな……」


溜め息混じりにそう言うアウグストの目は死んでいる。どこを見つめているのか曖昧な瞳に耐えきれず、ゼプテンバールは話題を逸らす事にした。


「あっ、え、えっと〜……あ、アウグストの奥さんってどんな人なの?」


「え? えっと……。……凄い美人さんです……」


言葉を選んで、アウグストは照れ臭そうに頬をかいてそう言った。しかし彼の惚気はそれだけに留まらない。


「料理が上手でね……最近は食べれてませんがシチューが美味しくて……。服のボタンとか取れかけてたらシャシャッて直してくれて。先程の連絡でも息子の話をしてくれたんですが、アウグスト様もお仕事頑張って下さいね〜なんて言われて」


「いい奥さんだね」


とはいえ始めに聞いたのはゼプテンバールの方なので、最後まで聞かねばならない。その後暫くアウグストによる嫁自慢息子自慢に相槌をうっていると、アプリルがひょこっ、と壁から姿を現した。


「お話中失礼します。ゼプテンバール君、少々宜しいでしょうか?」


「あ、うん……」


「あ、では、俺は席を外しますね」


それまで饒舌に話していたアウグストは一礼して去ろうとしたが、アプリルが片手で制する。


「いえ、丁度いいのでアウグスト君もいて下さい」


「わ、分かりました……」


「そのね、ゼプテンバール君」


アプリルは少しの間を置いてから、その言葉を口にした。







「君……本当に剣の大会で優勝したのですか?」






心臓が、強く脈打った。答えられずにいるゼプテンバールに気付かずに、アウグストが目を瞬かせた。


「アプリルさんも、新聞の記事をお読みになられたでしょう? 『剣の大会 最年少優勝者・ゼプテンバール』と見出しが書かれて、少しの間話題になったじゃないですか」


「それは重々承知の上です〜。ボクが聞きたいのは、それが本当に貴方なのか、という事です〜」


アプリルの質問に、ゼプテンバールはぎくりと肩を揺らした。

その反応を見てか、目の前に立つ彼は続け様に言葉を紡ぐ。


「実はボク、競技観戦をよくするのですが……あの大会も見に行ってました。でもあの時優勝したのは……白髪に額からツノの生えた少年でした」


彼の言葉に、ゼプテンバールはいよいよ逃げ道を失った。


「あぁ責めている訳ではありませんよ〜? 純粋に疑問に思っただけです。でも……貴方が剣を振るう様は……まるで別人のようで──」


「──っ知らない!!」


我慢出来ずに、ゼプテンバールはその場から逃げ出してしまった。後ろめたい事なんて何も無い筈なのに、身体が震えて耐えられなかった。


後ろからアウグストが自身の名を呼ぶ声が聞こえてくるが、無視して走り続ける。部屋から少し離れた廊下でふと立ち止まり、拳を握り締めた。


へなへな、と足の力が抜け、その場にしゃがみ込んでしまう。そのまま壁にもたれ掛かるようにして、膝に顔を埋めて溜め息をついた。


(何やってんのさ……あそこで逃げたら肯定してるようなものじゃないか……)


今からならまだ間に合うかもしれない。そんな微かな希望を抱いたが、とても戻る気にはならなかった。ゼプテンバールが走り去る姿も、アウグストが切羽詰まった様子で名を呼んでいたのも、他のメンバーに知られているだろうから。


このまま自室に戻ってしまおうか。


そう悩んでいると、誰かがゼプテンバールの目の前で止まった。ゆっくりと彼に歩み寄り、そっと肩に手を置いてくれる。


「大丈夫ですか?」


「…………」


その声に聞き覚えがあった。顔を上げると艶のある黒い髪が目に入る。次いでエメラルドのような美しい瞳。


「アルター……」


その姿を見て、少しの安心感を覚えたような気がした。

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