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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第21話

人が滅多に通らないという空き部屋に、ゼプテンバール、メルツ、アプリル、マイ、ユーニは集まっていた。

ふかふかのソファーにメルツと並んで腰かけて、湯気の立つ温かいミルクティーを口に運ぶ。蜂蜜入りでまろやかな味が口いっぱいに広がり、ほっと息をついた。


そして、向かい側に座っていたマイが口火を切った。


「まずは謝罪を。この度は、危険な目に遭わせて申し訳ございませんでした」


「いやいや、謝られる意味が分かんねぇよ……」


溜め息混じりに言われたメルツの言葉を聞いて、マイが「それもそうですね」とソファーから立ち上がる。


「此度の作戦、全ては囮だったのです」


「は?」


「おとりー?」


呆けた声を出したのはアプリル、聞き返したのはユーニだった。

ゼプテンバールはというと、飲みかけていたミルクティーに口をつけたまま、微動打にしなかった。


「順を追って説明致しますね。まず、僕はテロリスト集団のボスとして暗躍しておりました」


「そこは大体察しがついてます」


「うんうん!! あははっ!!」


「……『例の湖の畔に、ディツェンバーの部下がやって来る。そいつ等の味方の振りをして誘き出すから、囲って転送魔術で危険区域に飛ばせ。そのまま城へ攻め込むぞ』。そう、指示を出しました」


その言葉に、メルツがテーブルを強く叩いて立ち上がった。


「どういう意味だよペイント眼鏡」


「マイです」


「裏切ったって事か?」


「まぁまぁ落ち着いて下さいよぉメルツ君。彼が裏切ったとしたら今この場にいませんよぉ。それに始めに言いました。ボスとして暗躍してた、と。ま、どんな理由があったのか知りませんが?」


そっとメルツを制して、説明を続けるようにアプリルは促した。

それに頷きを返してから、マイは再び口を開く。


「貴方達を飛ばしてから、僕とフェブルアールさん、アウグストさんで……反乱分子の全てを潰す。それが本来のこの作戦の目的です」


「へぇ!! そんな事になってたんだ!!!」


「で?」


メルツは立ち上がったまま、首を傾げた。彼の意図が読み取れなかったマイは聞き返すしかない。


「はい?」


「殲滅、出来たのかよ」


「えぇ。僕の元で活動していた者達は全て」


「……あっそ」


納得したのかしてないのか曖昧な返事をして、メルツはソファーに腰を下ろした。そして不貞腐れたような表情のまま、テーブルに置かれていた珈琲を口に運ぶ。


「魔術ですぐに見つけられるとはいえ、危険な目に……特に、ゼプテンバール君とメルツさん。本当にすみませんでした」


深く頭を下げたマイ。

ゼプテンバールは口に含んでいたミルクティーを嚥下して、笑みを浮かべた。


「仕方ないよ。マイが慎重派なのは知ってる。僕等の知らない所でそんな事があったなんてちょっと驚いたけど……任務遂行出来たなら良かったじゃん。お疲れ様!」


「ゼプテンバール君……」


「ゼプテンバールの言う通り!! おれも!! マイ達頑張ったと思う!! ナイスナイス!!」


ゼプテンバールの励ましに続いて、ユーニも声を張り上げ、マイの肩をバシバシと叩く。マイの肩が沈みかねない勢いで。

しかしアプリルとメルツは不満気なままの様子だった。


「俺様は気に食わねぇな」


「……それは──」


「言ってくれれば、手伝ったのに」


マイの言葉を遮って、メルツは確かにそう口にした。メルツは騙された事について不満を露わにしていたのではなかった。協力を申し出なかった事について怒っているのだと。


それを悟った時、思わずゼプテンバールは笑いそうになってしまった。

なんて素直じゃないんだろう、と。


「俺様だって……その、……仲間……なんだしさ。潜入とかも経験あるし……一言言って欲しかったというか……」


だがメルツにしては、素直に自分の気持ちを口にしている。その小さな違いは、ゼプテンバールにも伝わった。


「まぁマイはもう少し頼った方がいいよ!! おまえいつか過労死するから!!! 確実にな!! もっと甘えろ!!」


うぐっ、と言葉の攻撃を受けるマイを後目に、アプリルも小さく呟く。


「……その件に関しては……ボクは怒ってません。なので掘り返さないで下さいね」


「……ありがとうございます。僕、頼り方とか甘え方とか知らないんですが……よろしくお願いします……?」


「何で疑問形なのさ。任せといて!」


たどたどしく礼を述べるマイに、どん、と胸を叩いてみせる。すると彼も微笑んでくれた。意思は伝わったらしい。


ここでお開きになるのか、と思いきや、話の波が収まってすぐに他の十勇士ゼン・ヘルデンの姿が現れた。


「皆、どうしたの?」


「メルツに呼ばれてきたんだが……」


どうした、と首を傾げるヤヌアール。メルツは何やら迷っているらしく、マイが人数分の紅茶を淹れ終えても黙り込んでいた。


だがやがて、重々しく口を開いた。

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