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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第1話

紫色の髪を伸ばしっぱなしにした赤い目の少年はその場に立ち尽くしていた。

その場というのは、とある倉庫の入口。普段ならばこのような薄汚れた倉庫に顔など出さない。


だが年端もいかぬ引きこもりの少年を、表に出す程の理由があったのだ。


今朝方ポストに入れられていた黒い封筒。宛名は間違いなくその少年宛だった。

その黒い封筒が何を表しているのか、この世界で知らぬ者はいない。


黒い封筒に金粉で記された手紙は、この世界の頂点に立つ者。即ち魔王直々からの手紙なのである。


顔も見た事ない魔王様が、僕のような平民になんの用事だ。そもそもこの手紙は本物なのだろうか。と疑問は絶えなかったが、万が一本物だった場合、呼び出しに応じなかった少年は打首だ。


この世に生を受けて十二年。まだまだ死にたくはない。


さて。手紙に記されていた場所は街の端にある倉庫。この場所だ。隣国に輸出される荷物が置かれているものの、人の出入りがある様子はない。


重く軋んでいる扉を押し開けると、何人かの人影があった。呼び出されていたのは少年だけではなかったのか。はたまたこの者達が少年を呼び出したのか。


後者だった場合少年がリンチを受けるのは間違いない。


少年が扉を開けたと同時に視線が一斉に集まった。そして何も言わずにそっと視線を逸らした。


ひしひしと感じる重い空気に溜め息をつきつつ、少年は扉のすぐ近くの荷物にもたれかかった。


現在この場にいるのは少年を除いて九名。


一人目はグレーの髪を高い位置で結い上げた高身長の女性。

腰には剣を携えており、纏う雰囲気からも只者では無い事が伺える。羽織っているコートが少し身の丈に合っていないように思えた。


二人目は水色の髪を下の位置でお団子に纏めた可愛らしい少女。ぴょこん、と立った二本のアホ毛が印象的だ。

魔術を使っているのか、ふわふわと宙に浮いている。その為真偽は定かではないが、少年よりも身長が低いと思われる。


三人目は……どっちだろう。

金髪をおさげに結んでいるが、喉元を隠す服を着ており、更にいえばその体躯までもが中性的だった。ただその表情が怖い。不機嫌そうだ。


四人目は全身に包帯を巻いているらしい青年。

おさげの人とは違い、ぐるぐる巻きにされていても男性だと分かる体型だ。

彼がどんな顔をしているかすら見えていないので、少し不気味にも感じられる。


五人目は清楚なスーツ姿の眼鏡をかけた男性だ。ボディーペイントだろうか、左頬には赤い花が咲いている。

ずっとニコニコしていて表情が変化しないので、やはり彼も不気味だ。


六人目は落ち着きのない青年だ。灰色のベストに、結ぶのが面倒だったのか首に掛けられただけのネクタイ。

一言も喋ってないが分かる。こいつ絶対五月蝿い奴だ、と。


七人目は長い三つ編みを腰に巻き付けている美しい女性だ。薄暗い倉庫の中でも分かる、キラキラとしたドレスを身に纏っており、更にその美しさを引き出している。

どこかで見たような気がするが、ぼんやりとしていて思い出せない。


八人目は……なんか薄幸そうな男性だ。黒いコートを羽織り、自身の長い髪を退屈そうに弄っていた。

だがその若草色の瞳はきょろきょろと辺りを見渡していた。何かを探っているらしい。


九人目は大人しそうな少年だ。可愛らしいリボンで髪を結んでおり、ぶかぶかのシャツに半ズボンを着ている。

薄幸そうな男性とは違った意味合いできょろきょろしていた。


改めてじっくり見て、少年は思った事があった。それは服だ。


少年以外、ドレスやスーツ、それでなくともしっかりとした服を着ていた。


だが少年の着ている服は白いシャツに『非暴力』と書かれたものとズボン、という寝巻きに近い格好だった。


幸いこの場が暗いので、文字についてはまだ見られていないだろう。


ちゃんとした服を着てくれば良かった、と思ったが、そういえば服はこういう物しかなかったと思い出して呆れるしかなかった。


再度溜め息をつきながら、改めて辺りを見渡してみる。眼鏡をかけた男性がふと、場所を移動したがそれ以外に変化は見られない。


やがてどこからともなく声が響いた。男性にしては少し高いが、圧のある凛とした声だ。


「全員集まっているね」


パッ、と倉庫内が明るくなり、その姿はハッキリと目に映った。


美しい白銀の髪にエメラルドのような緑色の瞳。にっこりと微笑んだその男性を見るなり、少年以外の全員が膝をついた。


「……え……。っ!?」


少年も膝をつくべきか迷っていると、隣にやってきたおさげの人が頭を掴み、無理矢理頭を垂れさせた。


ぐんっ、と眼前に床が迫る。


「馬鹿野郎くたばりてぇのか」


「何……何なのさ……!?」


その細腕からは想像もつかないような強い力で押さえつけられ、抵抗する事は叶わなかった。代わりにきつく睨んでやるが、おさげの人の方が目付きが悪いので睨んだ気がしない。


「まずは自己紹介からいこうか。僕の名はディツェンバー。第七十四代目魔王・ディツェンバーだ」


少年とおさげの人のやりとりを穏やかな笑みを浮かべて見ていたディツェンバーは、確かにそう名乗った。


(じゃあ……あの手紙は本当に……)


「こんな所に呼び出してごめんね。君達を呼び出したのにはちゃんとした訳があるから、どうか最後まで聞いて欲しい」


少し間を置いて、ディツェンバーは笑みを深めた。彼が指を鳴らしたと同時に、それぞれの床下に穴が開く。


「「「──────!?!?」」」


「頑張っておくれ!」


何を!? という前に少年は急加速で落下していく。先程よりもずっと暗い闇に沈むしかない。そう思って目を閉じると、誰かに腕を掴まれた。


「生きてるか。餓鬼」


「あ、アンタ……さっきの……」


暗がりでよく見えないが少年の腕を掴んでいるのは、おさげの人だった。どうやら壁に鉄棒を突き刺してぶら下がっているらしい。


「生きてるならまぁいい。俺様の腰んとこにあるポーチにライトが入ってる。出せ」


「なんで命令口調な訳? つか俺様ってイタイんですけど」


「殺すぞ糞餓鬼。 いいから言う事聞け」


渋々ではあったものの、助けて貰ったのも事実だったので大人しく言う事を聞く。それらしき物を見つけ、ポーチから取り出す。


「出せたら電源入れて下の方照らせ」


「分かったよ」


カチッと音がして明かりがつく。下を照らすと少年のすぐ足元には針山が迫っていた。おさげの人が腕を掴んでいなければ、少年は今頃串刺しになっていた事だろう。


「!?」


「やっぱりな。さて……どう下りるか……」


「……おに……おね……ねぇどっち?」


「分かんねぇ時はおにねえさんと呼べ」


「おにねえさん。あそこに穴みたいな……空洞みたいなのがある。見える?」


「あぁ?」


少年達がいるすぐ近くの壁には奥行きのありそうな穴があった。対策を練る、もしくは外に通じる道があるかもしれない。


少年の言いたい事はおさげの人にも伝わった。


「見つけたのは御手柄だが……どうやって行くんだ?」


「おにねえさん何とか出来ないの?」


「俺様に頼るな」


「つまり何も出来ないと」


「うるせぇ」


ゲシッ、と蹴りを入れられた鳩尾を摩っていると、きらりと何かが光った。


「おにねえさん」


「あぁ……誰かいるな……」


「──おや、ご無事でしたか」


姿を現したのは薄幸そうな男性だった。ふわふわと宙に浮いており、怪我もなさそうだ。どうやら魔術の使い手らしい。


「魔術が使えるなら丁度いい。手伝え」


「分かりました。ではまずそちらの少年から」


青年は少年を軽々と抱え、穴の方へと向かう。青年は少年を下ろすなり、おさげの人の方へ向かったのでその間に空洞の奥に少しだけ進んでみる。ライトで照らすと結構奥行きがあるらしく、広さもある。


「よいしょ。奥には何かありそうですか?」


「……いや。真っ暗で見えないや……」


「という事はこれが出口に通じる道なのかもしれませんね。俺達が落ちた所はもう閉じてしまったし……一周回ってみましたが小さな穴すらなかったので……」


「そんじゃそっちへ進もう」


青年はおさげの人を抱えてやって来たのでライトをおさげの人に返す。

そして、青年がおもむろに口を開いた。


「自己紹介が遅れました。俺はアウグストと言います」


薄幸そうな青年、もといアウグストに続いて、おさげの人も名を述べる。


「メルツだ」


「……僕はゼプテンバール」


「状況を整理すると……俺様達はあのディツェンバーサマに呼び出され、何か知らねぇがここへ落とされた。他の奴等もこんな感じか?」


「そうですね」


「………………」


メルツは視線をアウグストに向けていたが、何も言わずに空洞の奥を指さした。


「取り敢えず進むぞ」


「……うん……」


メルツを先頭に、ゼプテンバール、アウグストは歩みを進めた。


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