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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第16話

湖の畔に、数十名の魔物の姿が顕になる。メルツ、アプリル、ユーニ、ゼプテンバールは各々魔界のどこかに転移させられた。


現在この場に残っているのはマイただ一人。反乱分子の魔物の身体を拘束する手を止め、その場に立ち上がった。


そして、普段と違って敬語を使わずに魔物達に話し掛ける。


「完璧なタイミングだ」


「奴等……何者なんです、ボス」


ボス、と呼ばれたマイは、微笑みを浮かべて答える。


「僕が今所属している所の同僚だ。ですが、敵なので安心なさって下さい」


命令口調から一転して、マイは普段ゼプテンバール達に話す時のように敬語を使用する。


「そう……僕を含めた、ね」


マイの言う事が理解出来なかったらしい。だがマイの動きは止まらなかった。両手に銃を構えて、容赦なく撃ち始める。


付近に立っていた新手の魔物達は勿論、捕縛していた魔物にも弾は命中する。しかし数が多い。数人は防御魔術を発動させ防いでいた。


「貴様っ、裏切るのか!?」


「どういう事ですかボス!!」


信頼していたボスによる裏切り。糾弾する声や動揺する声。疑問の声や痛みに悶える声。それ等全てをマイは一言で片付けた。




「────いいから早く死ねよ」




耳を劈くような銃声は、数分に渡って鳴り響き続けた。マイの足元に倒れた魔物達は、為す術なく靄に包まれてその姿を魔石に変えてゆく。


やがてその場には、マイ意外の魔物は存在していなかった。静けさが戻った空間に、三つの影が現れる。


「援護は要らなかったみたいねぇ」


「執事……怖っ」


茂みからふわふわと浮遊しながらマイの元へ詰め寄るフェブルアール。その表情はどこか心配しているようだった。


「長い間お疲れ様。これで全員?」


「えぇ、間違いなく全員です」


「にしても……あの数を一人で片付けるとは。聞きました? フェブルアールさん。『いいから早く死ねよ』ですって。彼、本当に味方なのか疑いたくなりません?」


しゃがんで魔石を一つ一つ丁寧に拾い上げるアウグストが、先程のマイの言葉を反芻する。フェブルアールは「そうねぇ」と適当に相槌を打つだけだった。


マイは城でディツェンバーの執事として働いていたが、テロリストの主犯というもう一つの顔があった。


だがそれは虚偽のもの。反乱分子を一箇所に集めて処分する為の、偽の肩書きである。

今回、ゼプテンバール達に課された任務も、それの助長に過ぎない。


全てはマイが集めたテロリスト集団のメンバーを集めるのが目的だ。その為にゼプテンバール達には怪我も負わせてしまったし、魔界各所に転移もさせてしまった。


罪悪感はあるが、国の安寧の為。そして何より。


「マイ、お疲れ様。君は暫く休むといい。あとは僕達で何とかするから」


──我が主(ディツェンバー様)の為。


その為ならば、どんな汚い手だって使う所存だ。味方を巻き込む事も厭わない──それが、少し前までのマイだった。


「お気遣い、痛み入ります。ですが、まずはゼプテンバール君達の捜索に回ります。それと……彼等には、僕から事情を話します」


切り捨てる事は出来なくなっていた。

任務の為とはいえ巻き込んでしまった彼等に謝罪したい。一刻も早く見つけてやりたい。怪我をしたゼプテンバールとユーニに「大丈夫か」と声を掛けたい。


きっと、怒られるし嫌われるかもしれない。


それでも、マイ自身が事情を説明しなければならない。そう思ったから。

彼の意思はディツェンバーにも伝わったらしい。にっこりと微笑んで、ディツェンバーは頷いた。


「分かったよ。でも、事が済んだら必ず休む事。君を少し働かせ過ぎた。早死して欲しくないからね」


「承知致しました」


深く一礼して、早速ゼプテンバール達に手渡したペイントシールに込められた魔力を探す。

一番近くにいるのはユーニだ。次いでアプリル。


ゼプテンバールとメルツは一緒にいるらしいのだが……


「…………え、この場所って」


「? どうかしましたか?」


アウグストの問いに、マイは目元を引き攣らせておずおずと口にした。


「この国の最南端……魔海です」


魔海。文字通り魔界の海だ。一面赤い海水なのだが、そこは基本的に立ち入り禁止とされている。


その理由は簡単。立ち入る事は簡単だが、帰り道は時間と共に変化する。


昔、極悪人を逃がさない為にと、呪いがかけられた場所だ。一度入り込めば最後、力尽きるまで彷徨う事となる。


面倒な所に飛ばしてくれたな、とマイは溜め息を吐くしかなかった。頭を悩ませていると、フェブルアールがぽん、と手を叩いた。


「おばさんに考えがあるわ。アウグスト君、手伝ってくれるかしら?」


「俺……ですか?」


「えぇ。今すぐ、ユーリちゃんに連絡して」


ユーリに? と聞きたげなアウグストとマイに、フェブルアールは微笑むだけだった。ディツェンバーにも彼女の意図は伝わったらしく、ふむふむと頷いていた。


「アウグスト、フェブルアールの指示に」


「畏まりました」


ディツェンバーに言われれば抱いた疑問も意味を成さない。即座に頷いてユーリと連絡を取る。その様子を後目に見つつ、マイはフェブルアールに問う。


「フェブルアールさん。考え、というのをお聞きしてもよろしいですか?」


「えぇ勿論。ユーリちゃんのお歌はね、呪いを解く力があるの。一帯にかけられた強い呪いも解ける筈だわ」


「そういう事でしたか」


アウグストもユーリへの連絡を終えたらしい。承諾を貰えたとの事なので、まずは近くにいるユーニを探す事にする。


アウグストはユーリの道案内も兼ねて、そして回収した魔石を城に置く為、一度城へ戻るそう。


ディツェンバーはゼプテンバール達の捜索に着いてきてくれるそうなので、心強い事この上なかった。


こうして、マイ達は激しい戦闘の跡を物語っている森を後にした。



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