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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第15話

赤い空が黒くなる。

松明も蝋燭もないゼプテンバール達は、空に浮かぶ黄味を帯びた光を放つ月桂だけだ。


いくつもの草を踏む音が聞こえ、ゼプテンバールの緊張は最大限に高まった。

木の上にはゼプテンバール、メルツ、ユーニの三人が。


メルツは罠を発動させる役割を担っているので、全体を見渡せる位置についてる。ゼプテンバールは身動きの取れないメルツの護衛役だ。

その為二人は狭い木の枝の上で並んで息を潜めている。正直言って苦しいが我慢だ。


物陰に潜んでいるのがアプリルとマイ。


全員が規定の場所に現れたらすぐに、アプリルが結界魔術を発動させる。逃亡されない為の策だ。

そしてメルツが罠を発動させる。それに掛からなかった残りをユーニとマイが取り押さえる。


「落ち着け。前線に出る訳じゃねぇ。ビビってると支障をきたすぞ」


ゼプテンバールにだけ聞こえるように、メルツはそう囁いた。緊張で心臓が強い音を立てているゼプテンバールにとっては、それすらも驚嘆の対象だがぐっと堪える。


「来る」


アプリルが結界魔術を発動させたら始まりの合図だ。メルツの邪魔にならないように、静かに深呼吸を繰り返す。


──そして、湖の畔が青白い光を帯びた壁に包まれた。


「っ!!」


手に握っていた縄を思いっ切り引っ張るメルツ。ゼプテンバールの位置からは見えないが、鋭利な物が飛来する風切り音と、男性のものと思わしき悲鳴が耳に届いた。


「マイ! ユーニ!」


「了解!」


「オッケー!!」


ゼプテンバールも抜刀して攻撃に備える。隣ではメルツがライフル銃の準備をしている。

魔獣狩りに用いられる猟銃を改良し、自身の魔力を込めた弾を使用する特別性なので、準備に時間が掛かるそう。


強力な威力を保つ為には、なるべく直前で装填した方がいいらしい。


罠を発動させたメルツは、マイとユーニの援護に回る。遠距離射撃も得意とは……見た目によらず器用なおにねえさんだ、と感心する。


木々に遮られた視界の向こうでは、マイ達が暴れてくれている。スコープを覗き込んだメルツは、早口気味にゼプテンバールに現状を報告する。


「人数は十八名で予想より多い。罠に掛かったのは六名。マイとユーニによって最低でも八名は地に伏してる」


そう言いつつメルツは一発発砲する。すぐ隣で破裂音が聞こえ、耳が痛くなった。


「アプリルはここら一帯と自分の周りに結界魔術を張ると言っていたな」


「う、うん」


結界魔術を発動させている間、アプリルはメルツ以上に身動きが取れない。のでゼプテンバールが護衛に回ろうか、と提案したのだが


「自分の身位自分で守れますのでご心配は無用ですぅ〜」


と即座に却下された。


「ま、何かあっても自己責任さ。俺様は警告したからな」


「あはは……」


苦笑いを浮かべていると、ピタリ、と音が消えた。どうやら戦闘が終了したらしい。メルツと顔を見合わせ、木の上から飛び降りる。


武器を手にしたままマイ達の元に向かう。途中でアプリルと合流する。


先程まで五人で食事をしていた穏やかな湖の畔は、数分の間で戦場と化した事を物語っていた。


赤黒い血の痕は勿論、罠として放った槍やナイフも地面に突き刺さっており、反乱分子と思われる魔物達が一人残らず地面に倒れている。


メルツが太腿のポーチから縄を取り出し、乱雑にマイに投げ付ける。


「縛っとけ。ユーニ、テメェはこっちに来い」


「了解しました」


「んお!? 何か用!?」


「馬鹿野郎怪我してんだろ。手当してやるって言ってんだ」


「おぉぉ!! ありがとな!!」


ユーニの腕には深い切り傷があった。他にも数箇所、浅い傷も。メルツは包帯足りるかな、と呟きながら脱脂綿に消毒液を浸す。


つんつん、とゼプテンバールは誰かに腕をつつかれて振り向く。そこにはアプリルが立っていた。夕方の事もあり少しだけ肩を揺らす。


「な、何……?」


「…………結界を解いたので、一緒に辺りの散策に赴きませんか? 他にも残っていたら厄介なので」


驚いた。アプリルからそのような話を持ち掛けるとは。ユーニが言っていた事は本当らしい。


「いいよ。じゃあ、一応メルツに知らせてくる」


「分かりましたぁ」


少しだけ足が弾みそうになる。だがここで舞い上がっている事をアプリルに悟られてしまっては、「やっぱり辞めておきます」と言われかねない。


メルツに駆け寄り、名を呼ぼうとしたその時だった。


「──メルツ!!」


メルツの後方から矢が飛んでくる。庇うようにメルツに覆い被さり、その場に押し倒す。

その際放たれた矢が右腕に深々と刺さってしまった。


「いって……!?」


「お前っ……」


「メルツヤバいよ!! 囲まれてる!!!」


ユーニの報せに、メルツの顔が引き攣った。

眉根を寄せて、指示を出そうと口を開いた瞬間、景色が変わった。


ゼプテンバールとメルツの視界に映ったのは──一面赤い水だった。

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