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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
159/161

番外7─佳乃とユーリ─

柔らかい紫色の空間に降り立った佳乃は、どこか嬉々とした様子でその人物を探していた。


「ユーリちゃん! おはよう!」


長い髪を一つの三つ編みに纏めて腰に巻き付けている豊満なスタイルをした女性・ユーリを見付け声を掛ける。


「……佳乃さん。おはようございます……。どうかなさいましたか……?」


ふわり、と微笑みながらそう問い掛けるユーリに、佳乃は嬉しそうに口元を弛める。


「髪、いじらせてくれないかしら?」


「……え?」


「今日から美容師として働くから、ユーリちゃんに一番目のお客さんになって欲しいの!」


精神世界とはいえ、目の前にいる彼女に触れられる事は確認済みだ。とはいえ道具は持ち込めないので、彼女が身に付けている物しか使用出来ないのだが。


「で、ですが……その、ヘアゴムを一つしか持っていないので……」


「大丈夫よ。アレンジといってもユーリちゃんとっても長いし、道具も無いから簡単な編み込みと三つ編みをさせて欲しいの。構わないかしら?」


ユーリは少し戸惑っていた様子だったが、やがて髪を纏めていたリボンに手を掛け、髪を解き始めた。


「勿論です……よろしくお願いします」


「任せて頂戴!」







※※※※※






三つ編みの痕が残りウェーブがかった長い髪を編み込みながら、佳乃は口を開いた。


「ユーリちゃんは、魔界では歌手をやっていたのよね」


「はい……僭越ながら……」


「やっぱりそれって、子供の頃からの夢だったりしたの?」


佳乃の質問に、ユーリは少し悩んでから答える。


「そう、ですね……。やはり、両親に歌を褒められたから……それを活かしたい、とは思っていました……。誰かを笑顔にしたいと……そう思っていましたから……」


彼女の境遇は少しだけだが耳にしている。利用され続けた彼女は、とても真っ当な歌手としての扱いを受けてこなかった。ディツェンバーの部下になってからは表舞台での公演も多く、活動する場が多くなったらしいが、その過去は彼女にとって重いものだろう。


「過程はともかくとして……結果、私は多くの人を笑顔に出来たと思っています……。その点においては、私の夢は叶ったのですね……」


「そう……私はどの職業に就くのか、結構悩んだわ……。一つの事を続けるのは苦手な方だから……ちょっと不安な所があるの」


でも、と元々髪を結んでいたヘアゴムで結び直して、佳乃は微笑んだ。


「『美容師になって、ユーリちゃんの髪をアレンジする』。この目標は達成出来たわ!」


「佳乃さん……」


結ばれた髪をそっとなぞり、ユーリは笑みを浮かべる。


「ありがとうございます」


「こちらこそ。我儘聞いてくれてありがとう。それじゃあ……行ってきます!」


「行ってらっしゃい……頑張って下さい……!」


お互いに手を振り、佳乃はユーリのいる精神世界から意識を現実へと戻す。そして荷物を纏めて職場へと向かって行くのだった。

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