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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
156/161

番外4─美里とアプリル─

ゼプテンバール一人が協力を拒否する。アプリルはその結果に些か不満を覚えていた。


(そもそもボクは人間が嫌いだし、ゼプテンバール君じゃなくても良かったのに……)


アプリルの人間嫌いはディツェンバーも既知の事実。むしろゼプテンバールよりも納得がいくと思うのだが。


(まぁ、滅多に言わなかった彼の我儘だし、やりたいようにやらせてあげればいいか。それに、どっちにしろ人間と仲良くするのは御免なので。適当にいなせばいいか)


──と、思っていたのが数時間前。魔石の移植手術が終わり、アプリルの目の前に一人の少女が現れた。


少女はきょろきょろと辺りを見渡した後、アプリルを見上げる。


「どうも、アプリルですぅ〜。人間に協力するなんて吐きそうな程嫌ですが、仕方無く魔力を貸して差し上げます〜」


上から目線で自己紹介を終える。少女はすっ、と立ち上がり、可愛らしいお辞儀をした。


「美里です。今日からよろしくお願いします、アプリルくん」


「ふむ……礼儀のなってる子は嫌いではないです」


少しは認めてやってもいいかな、なんて考えが頭に浮かんだが慌てて搔き消す。あれ程嫌だ嫌だと粘っていたのにこんなに簡単に絆されてたまるか、と半ば意地になっていた。


しかしどういう事か、この美里という少女は事ある事にアプリルに話し掛けてくる。

テストでいい点をとったとか、描いた絵を褒められたとか、弟が可愛いとか、訓練が疲れたとか。


どうでもいい事をよく話してくるのだ。しかしアプリルも暇なので、暇潰しとして彼女の話を聞いている。


以前は彼女が買い物に行った際、「どのお洋服がいいかな」と聞いてきたので、視覚を共有して黒のフリルがついた服を進めておいた。


純粋にアプリルがゴシック系の物が好きなので、自分の好みを押し付けたみたいになってしまったが気にしていない。

影響されたか否かは不明だが、美里も美里でゴシック系の趣味があるようだ。


と、自分の中にある『人間は嫌いだ』という意見と『でも美里と話すとは楽しかったりする』という意見にもまれながらも、日々を過ごしていたある日の事だった。


「あのね、アプリルくん」


「何ですか〜?」


「今日侑くんがね、狙撃テストで一位とったの」


「ふぅん。君の弟は随分優秀なようですね〜」


「でしょ?」


ふふん、とまるで自分の事のように誇らしげに胸を張る美里に、アプリルは問う。


「そういえば君の成績は聞いた事がありませんでしたね。何が得意です?」


しかし一転して、美里は表情を曇らせた。


「みりはね、何も出来てないの」


「はい?」


「全部ビリよ。お勉強はそこそこ出来るけど、殲滅隊でやってる事は全部出来ないの」


まだ年端もいかない少女とはいえ、確かに美里は平均よりも随分小柄だ。食物アレルギーも多く、成長も遅いらしい。


「そうですかぁ……」


「うむむ……姉として侑くんにかっこいい所は見せたかったんだけど……」


彼女でもそんな風に悩む事があったのか、と新たに発見しつつ、アプリルは美里の頭を優しく撫でてやる。


「…………こんな事したら、怒られるか……からかわれるかはしそうですけどね……。美里ちゃん、ボクの魔力欲しいですか?」


「…………アプリルくん、困らないの?」


子供ながらにそんな気遣いが出来るとは。眉尻を下げつつ、アプリルは包帯が巻かれた手を差し出した。


「それ位でボクは困らないです〜。ですが、普通の人間には出来ない事なので、とっても大変かもしれませんがねぇ〜」


「……………うーん……。アプリルくん、手伝ってくれる?」


頷くのを、少々躊躇った。アプリルが了承すれば、人間の美里は魔石を使用せずに魔術を習得出来るだろう。それは人間では不可能な事なので、彼女が持つただ一つの才として扱われる筈だ。魔力の扱いでトップを目指せるかもしれない。


勿論、魔術の使い手であるアプリルの手助けがあればの話だが。


しかしそれは彼が忌み嫌っている人間に、自分から協力してやると言っているようなもの。それが凄く、はばかられた。


とはいえ、アプリルはすでに気付いているのだ。


自分が嫌う原因となった人間と、美里は違うのだと。


「ボクは魔術学の権威と言われてましたからねぇ〜。教える事は容易いですよ」


「……じゃあ、お願いしてもいい……?」


不安げに再度聞く美里に、アプリルはそっと頷きを返す。


包帯に巻かれた手に、小さな手が重ねられた。

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