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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
155/161

番外3─竜とメルツ─

「あぁ……ダルい」

「やっぱ辞めといた方が良かったかな……」

「どうせ俺には才能が無いんだ」

「面汚しもいいとこだよホント」

「何で引き受けたんだよ幼少期の俺……」


ぶつぶつと呟かれる愚痴に、とうとうメルツが声を張り上げた。


「うるせぇわ!!! 毎日毎日グチグチ愚痴愚痴頭が可笑しくなるわ!!!」


ここ数日、竜の精神状態が良くないのはメルツも知っていた。しかし元々関わる事が少なく、必要な時のみ魔力を貸してやる、といった仕事上の付き合いのような関係だったので、プライベート的な悩みに首を突っ込むのは辞めておきたかったのだが。


「俺様がいるはテメェの精神の隅っこだから!! 俺様の精神状態も考えてくんねぇかなぁ!?!?」


「いやだってさ……メルツには申し訳ねぇと思ってるけど」


「はいはい建前は置いといて何時、何処で、何があったのか十秒以内に答えろこの愚図!」


ヤヌアールのようにとはいかないが、メルツとて数年時を共にした竜の相談に乗る位は出来るだろう、とそう口にする。

しかし竜にとっては、明らかに面倒臭がっているメルツに話すのは少し躊躇われた。


「いや別にアンタに聞いて欲しいとか言ってないんだけど……」


加えて現在竜は反抗期真っ只中だ。少しの事でイライラするし、無意味に反発したくもなる。

だが、竜のその行動は反抗期をとっくの昔に終えている筈のメルツの苛立ちを増幅させた。


「どうやら死にてぇようだな。俺様の意思一つでテメェの生死操れるんだぜ、おぉう?」


「怖いんですけど。……分かったよ……」


観念したかのように、嫌々話し始める竜。


「訓練、上手くいかねぇの」


「おう」


「………………」


「……………………。え、それだけ?」


「だから嫌だったんだよ!!」


竜は気恥しげに、若干赤みを帯びた頬をメルツから隠すようにそっぽを向いてしまった。

確かに、それは小さな悩みであり大きな悩みだ。メルツは器用に物事をこなせたが、基本的にそのようなケースは少ない。


「年下の幸雄に接近では負けるし……。遠距離では洋子さんに負けるし……。魔術じゃ美里に負けるし……。策略とか立てるのは侑に負けるし……。そもそも全体の身体能力下から三番目だし……。総合能力値に至っては下から二番目だし」


「誰かと比べて負け犬に成り下がってんじゃねぇよ、馬鹿かテメェは」


「アンタには言われたくない。苦労なんて知らなさそうな顔して……同情だって欲しくない」


竜の発言に真面目に殴り掛かりそうになったがぐっと堪える。一応ゼプテンバールとの約束があるので、表向きだけでも仲良く接しないといけない。

たとえ本心で「何なんだコイツどうしてそうしてまで自分を下げようとするんだクソッタレめ」と思っていようと。


「あー……。…………基礎の基礎として、最も重要なのは情報」


突然語り始めたメルツに怪訝そうな眼差しを送りつつも、竜は振り返ってオレンジの瞳を見つめる。


「間違った情報なんて正しい情報よりも多いんだから、裏の裏の裏まで確認をとる。憶測でカバーするのはその後。ステータスは勿論、出生から動機、交友関係とか諸々……」


「そ、それに何の利点があるんだよ」


「分かんねぇか? 予め敵の弱点を把握し、それに最適の対策をとる。何重にも備えてな。例え己のステータスがマイナスだろうと、攻撃方法は幾らでもあるんだよ」


そつなく器用にこなせるメルツでも、情報の入手や管理には徹底していた。勿論簡単な事ではないし、一朝一夕で身につくスキルでも無い。


「あとは自分で考えて答え見つけろよ。ま、やる気があればの話だがな」


そう言い残して、メルツは竜から背を向けた。このアドバイスを受けて彼がどう動こうが、彼の中に存在しているだけのメルツには関係の無い事だ。


しかし──


「き、気を付けるべき事は……?」


後ろから、そんな質問が飛んできた。

少しは考えを改めてくれただろうか、と口角を若干上げながらメルツは答える。


「己の実力を過信しない事。だが卑下しない事。油断こそ最大の敵だぜ。指先一つで殺せるような奴でも、な」


「…………どうも」


以降、竜から自虐的な悩みが聞こえる事は少なくなった。彼は今日も、静かに己を磨いているのだろう。

そんな事を考えながら、メルツは目を伏せたのだった。

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