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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
153/161

番外1─伊央とヤヌアール─

『魔王軍軍隊長ヤヌアール。俺が貴様に魔力を貸してやろう。俺に出来る事は限られてはいるが、よろしく頼む』




気高く、凛々しい自己紹介を受けてから数年。つまりは伊央とヤヌアールと出会って数年なのだが、彼にはある悩みがあった。


そもそも伊央は気弱な性格で、争いを好まない大人しい少年だ。魔物との戦いなんて想像もつかないし、自分が勇ましく剣を振るっている姿も思い描けない。


そんな長所らしき長所が無い伊央の身体に、ヤヌアールの魔石を埋め込まれた。話に聞く限り彼女はかの魔王、ディツェンバーの部下で軍隊長を務めていたとの事。


武勇伝をひけらかすのかと思いきや、それを鼻にかけない清々しい性格。いわば伊央の理想像が、すぐそこにあった。


しかしだからこそ申し訳無かった。


こんな自分が気高い軍隊長の魔力を貰って良いのか、と。


一度考え出したら止まらなくなり、訓練中もぼんやりする事が多くなってしまっていた。そして今日も溜め息をつきながら学校の課題に励む。


『溜め息なぞついてどうした。勉学に集中しなくていいのか?』


ふと、悩みの種であるヤヌアールの声が脳内に響いた。


「ちょっと……考え事を……」


『またか? お前は悩み事が多いな』


ヤヌアールはよく伊央に話し掛けてくれる。彼女曰く、やる事も無いし暇なので、折角なら伊央と話していたいらしい。

人より劣等感を抱いてしまう伊央にとって、ヤヌアールは最高の相談相手ともいえる。


あくまで伊央の人柄と意志を尊重し、その上で解決策を提案してくれるのだから、彼女への尊敬が募る一方だ。


『話すといい。また一緒に考えようじゃないか』


声色は若干呆れているようだが、そう言ってくれる辺り彼女はやはり優しい。


自分の中に存在している彼女に隠し事は通用しない。それを分かっていたからこそ、伊央は話し始めた。


「……どうしたら……ヤヌアールさんみたいになれるかなって……」


『お、俺みたいになりたいのか? お前は……』


「みたいというか……俺は男なのにナヨナヨしてるし……ヤヌアールさんみたいにかっこいい人になれたらいいなぁって……」


ヤヌアールは暫くの間返事をしなかった。不思議に思って名を呼ぶと、ヤヌアールは答えてくれる。


『そうだな。お前がそんな風に思ってくれているのは嬉しいよ。だが……そうだな。お前が目指すべきは俺ではないだろう』


珍しく、ヤヌアールは否定的な答えを出してきた。しかし続きがある事は明白だったので静かに続きを待つ。


『お前は将来、隊長として人々を先導する立場になる者だ。その時、俺を見習ってそれらしく振る舞う事は出来るだろう。だがそれはお前では無い』


「…………そう、ですよね……」


『お前には確かな力がある。人々を鼓舞し、纏めあげる事は不可能でも……個々を見極め、少しずつ信頼を得る事は可能な筈だ』


伊央とヤヌアールは対極的だが、底には確かな実力を持っている。それを示す方法は異なれど、伊央は伊央で良きリーダーになれる。そう、ヤヌアールは言ってくれているのだと悟った。


「うーん……でもやっぱり、俺の憧れはヤヌアールさんなので……人として見習いたい所はあります……」


『ははっ、俺は魔物だぞ』


「あっ……そうでした……」


彼女のようにはなれなくとも、自分なりに出来る事を伸ばしていこう、と。


小さく笑いながら、伊央は課題に戻ろうとペンをとった。


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