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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
152/161

最終話

※※※※※※※※※※





一度死んだ筈のノヴェンバーは、突然血塗れのディツェンバーと宇宙の傍に現れた。ディツェンバーは自身の弟、アルターと交戦の末に魔石へと変化した。

その際彼の魔石を陽羽に。残りの魔力を込めた結晶を陸に渡すように頼まれたと、事の経緯を説明する。


ノヴェンバーが再びこの世に戻ってきたのか、その仕組みは本人にも分からないが、死の間際に受けたディツェンバーの頼みを聞く為、ここまでやって来たという。


彼女の説明を聞き終えた海は、壁にもたれ掛かり思考を巡らせた。


「この際、ノヴェンバーが蘇った件については置いておこう」


「あぁ。一度死んだ魔物が蘇るなんて聞いた事も無いけど……。兎も角、そのアルターとタールって男が二人、人間界にいるんだね?」


ノヴェンバーの件を一旦保留にする事にして、空は驚異となりうる二人に視点を置く事にする。


「はい。アルター様はディツェンバー様の弟。魔王様だけが着用する事が許されるマントを羽織っていたので、現在の魔界の王はアルター様で間違いないかと」


「確かに、反乱を起こしてディツェンバーさんを王位から退けたのなら、次に王になれるのは彼」


「タールという男に関しては一度会った事がある。赤い眼鏡を掛けた無意味だの何だのとほざく奴だろう」


十七年前、海達はタールと相見あいまみえている。海の記憶が正しければ、彼は記憶を操作出来る能力を持っていた筈だ。


「はい。彼の目的は……恐らくですが──」





「──はい、そこまで」






突如三人の耳に届いた、男の声。咄嗟に海が振り返るも、そこには誰もいなかった。

空が確認するかのように扉を開け外に出るも、やはり誰もいない。


「…………」


「くぅちゃん、終わった?」


扉の前に立っていた陸が部屋の中を覗き込む。彼女の後ろに立っていた陽羽と目が合い、空は目を瞬かせた。


陸ちゃん(・・・・)()その子(・・・)()()


二人の(・・・)娘さん(・・・)()


なら(・・)()そろそろ(・・・・)行くか(・・・)


陽羽に軽く会釈して、海達はその場を後にする。ノヴェンバーもその後を着いていくように、部屋を退出する。陽羽とすれ違った瞬間、彼女のスカートのポケットに透明の魔石を入れて。


そこでノヴェンバーは気付く。


──皆様の(・・・)食事の(・・・)買い出しに(・・・・・)行かないと(・・・・・)、と。








※※※※※※※※※※







誰が、無償で見逃してやるって言った?


世の中ギブアンドテイク。あの場で殺してやらなかったんだから、記憶を操作する位してもいいに決まっているよね。


正直、アルター様がディツェンバー様を殺したという事実はまだ知られたくなかった。つまりはノヴェンバーが蘇ったのは計算違い。

気紛れに彼女を逃したのは良かったけど、殲滅隊に情報を知られるのはまずい。


まずは殲滅隊の三人の記憶を改変する。


『ディツェンバー様と人間の女が死んだという知らせを受けて来た』から『魔物による事件の被害者二名の確認』に。


この時ディツェンバー様の娘の存在は無かった事にしておく。結婚を機に殲滅隊から完全に距離をとったと補完しておけば、此方に関しては怪しまれる事は無いだろう。アルター様の情報もこの時に消えてしまうので、手間は掛からない。


そして次にノヴェンバー。彼女はそもそも『一度死んだ』という事実を無かった事にする。『今まで殲滅隊の一員として働いていた』ってね。

そうする事で先程の出来事は彼女の記憶から排除される。


そしてディツェンバー様の娘に関してだけど……正直彼女の記憶は弄らなくて良かった。僕の労力の無駄だった。でも僕は彼女の記憶を弄った。


だって、自分の娘が何も知らないまま孤立した方が、ディツェンバーは苦しむだろうから。


魔物、殲滅隊の記憶の一切を消し去り、両親を亡くした可哀想な女の子。頼れる昔からの知り合いがいなくなった今、彼女は両親の死に打ちひしがれるしかないのだ。


あぁなんて滑稽。彼女はディツェンバー様に似て特殊な魔力をしているから、いずれそこらの魔物に殺されて終わるだろう。


短い命だったね。可哀想に。


「さて、ノヴェンバーの記憶を書き換えたから、それの仕上げに行かないとね」


殲滅隊の屋敷とやらに住まう彼等の記憶を操作し、彼女がずっとそこにいた事にする。記憶を覗いた時にディツェンバー様の娘の姿があったら消しておかないといけないしね。


つまり、リセットだ。


僕に操作され、彼等は何も知らないままに生き続ける。疑問等無いまま、君達は何も無かったように過ごすんだ。


「さて、僕の仕事はここまでかな。次は……アルター様を殺す準備をしなくちゃいけないな」






──翡翠色の瞳が、濁る。悦に浸りながら足を弾ませるタールだが、彼は先の計算を怠ってしまった。

記憶から魔物、殲滅隊というそれ等を消された少女が、数日後にある少年に出会うという可能性を。


そして彼の計画通りには、事が進まないという事を……。




























──これは、ある少女と少年の物語の前日譚である。


始まり、終わり、そしてまた始まる。


十勇士ゼン・ヘルデンと讃えられた十人の精鋭達。


魔物殲滅隊を立ち上げた四人の人間達。


四天王の呼ばれた臣下達。


彼等の意志と選択が、一つの物語であり、一つの物語の前座だ。


そして、新たな物語の幕が開かれる──











《ZEHN HELDEN─魔界の十勇士─》─完─

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