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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
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第140話

※※※※※※※※※※





『速報です。本日午前九時半頃、■■市内でトラックが反対車線に乗り込み、一般乗用車と接触する事故がありました。

一般乗用車に乗っていた二人の男女が、搬送先の病院で死亡が確認されました。トラックの運転手は事故が起こった直後逃走し、現在警察が捜索中との事です』








※※※※※※※※※※






淡い桃色のグラデーションがかった銀髪の少女は、そのエメラルドのように美しい瞳を潤ませていた。

先程、両親の訃報を知らせる電話が掛かってきたので、急いで魔物殲滅隊本部の建物までやって来たのだ。


両親の遺体は、並べて寝かせられていた。損傷が激しく、見ない方がいいと言われたので、少女は確認してない。


嗚咽を押し殺し、涙を流す少女の横に三人の人影が現れる。


「ひわっち……」


「陸、さん……海さんに空さんも……」


魔物殲滅隊の上層部達だ。総隊長の夜鳥海。司令官の四季空。そして魔石管理係の緋月陸だ。


幼い頃から知っている彼等の姿を見て、少しの安堵感を覚える。

彼等も殲滅隊を立ち上げた母・宇宙の訃報を知らされてやって来たのだろう。その表情は暗いものだった。


「ひわっち。私達がついてるからね」


ぎゅっ、と弱々しく項垂れていた陽羽を抱き締め、優しく背を摩ってくれる陸。辛いのは彼女も一緒だろうに、その優しさが暖かくて嬉しかった。


「はい……」


「色々落ち着いたら殲滅隊に来るといいよ。勿論、君がやりたいようにやったらいい。でも困った時には僕達が力になるから……それだけは覚えておいてね」


「ありがとうございます……」


ぎこちなく微笑む。と、突然部屋の扉が勢いよく開かれた。

部外者か、と海が声を掛けた瞬間、その人物は顔を上げる。艶やかな金髪に緑の瞳をした、泣き黒子が特徴の女性。

額には薄らと汗が浮かんでおり、急いでやってきた事は明白だった。


「え、嘘……ノヴェンバーさん……?」


驚いた様子で、陸は確認するかのように言う。初めて見るその女性に視線を送っていると、彼女はこの場にいる全員を見渡し口を開いた。


「ノヴェンバーです。急ぎお伝えする事がございます」


ノヴェンバーの報告とやらは海と空が聞く事になり、陽羽と陸は一度部屋を退出する。その間、陽羽は陸の口から今まで知らされていなかった事実を知る事となる。


「ひわっち、驚かないで聞いて。宇宙さんと満さんも魔人で、ひわっちも魔人だって事は知ってるわよね?」


突然そう聞かれ、頷いた。


「一個だけ、嘘があるの。ひわっちのお父さん……満さんは魔人じゃないの」


「え……?」


「満さんの本名は……ディツェンバー。魔物なの」


陸から告げられた父の真の正体に、陽羽は一瞬理解が追い付かなかった。幼い頃から遊び相手になってくれていた陸が、こんな時に限って冗談を言う人ではないという事は心得ている。


父が殲滅隊の敵、魔物。


その信じ難い事実をゆっくりと受け止め、陽羽は問う。


「どうして……?」


「話すと長くなるんだけど……ひわっちのお父さんは、私達が魔界から呼び寄せたの。元々は魔界の王様だったんだって」


それも魔界の王、魔王だったとはもっと信じ難い。


「ディツェンバーさんは……私達に協力してくれた。悪い人じゃ無かったのよ。とっても……とーってもいい人。それはひわっちも知ってるでしょ?」


「勿論です」


父は、とても優しかった。

母が仕事をしていたので、父が家事をしてくれていたが、空いた時間で陽羽と話をしてくれる。

学校のイベント事には欠かさず来てくれたし、テストの点が良かったり賞をとったりすると沢山褒めてくれた。


だからこそ、沢山の愛情を注いでくれた父が恐ろしい魔物だとは思えなかったのだ。


「だから皆、宇宙さん……ひわっちのお母さんとの結婚に反対しなかった。ディツェンバーさんは人間として生きていたし、彼の事を知ってるのはほんの少しの人だけだもん」


「そう、だったんですね……。でもどうして……その事を話してくれなかったんでしょう……」


父が魔物だとして、何故今の今まで話してくれなかったのか。何故真実を隠し続けていたのか、陽羽には疑問だった。


「ひわっちには、先に殲滅隊とかの事教えちゃったからね……。タイミングが見つからなかったのよ。本来なら、ディツェンバーさんの存在は私達にとっては敵だから……。ひわっちが大きくなって大丈夫だ、って判断したら話すつもりだったみたいだけどね」


「…………お父さんなりの……優しさだったのかな……」


事実、陽羽は父が魔物だったという事を受け入れきれていない。そうだったのか、と思う一方で、本当は嘘なんじゃないか、とも思っている自分がいる。

そういった意味で言えば、父の優しさは有難いものなのかもしれない。


「きっと、ね。ディツェンバーさんひわっちの事大好きだったから……嫌われるかもって怖かったんだと思うよ」


「…………お父さん……」


嫌いになる筈が無い。

父の事も母の事も。陽羽にとって大好きな家族なのだから。


「種族が違うだけ、って……事ですよね……?」


日本人が外国人と結婚する事と同じ。人間と魔物という違う種族であっても、父は父なのだと。陽羽の中ではそう整理する事が出来た。


「うん。宇宙さんとディツェンバーさんは、ちゃんと愛し合っていた。勿論ひわっちの事もね。だから二人の事……」


「分かっています。私はずっと……お父さんの事もお母さんの事も大好きです。二人の子供で良かったって、思ってますから」


両親とは、もう会えない。陽羽が話し掛けても、もう返事は返ってこない。今朝まで感じていたあの温もりは、もう二度と味わえない。


それは、胸が締め付けられるように苦しい事だ。今でも気を抜けば泣き出してしまいそうになる。


しかし陽羽は、陸に微笑んだ。事実を受け入れて前に進むと、そう意味を込めて。

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