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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
148/161

第137話

※※※※※※※※※※






特等席で、タールはその光景を見下ろしていた。両者実力は充分。

剣技、魔術、魔力、直感、運気、観察力、危機回避力。

何方も勝るとも劣らない……ほぼ互角と言っていいだろう。ディツェンバー側にもう一人いるのがアルターにとって最大のハンデとも言えるだろうが、人間の女一人に後れを取る彼では無い。


タールが援護に回る必要性も無いだろう。


「ふっ……ふふ、く、ふふふふふふふふふ……」


笑みが漏れる。この日を待ちに待っていたのだ。邪魔で邪魔で仕方が無かった二人が殺し合う、この日を。


「どっちが勝つのかな……へへっ、さぁ……どっちも頑張れ」


光の無い翡翠色の瞳が、鮮やかなエメラルドのような美しさを帯びていく。


「──存分に殺し合って、ディツェンバー! アルター! 私の大っ嫌いな(可愛い)弟達……何方が死んでも、私は嬉しいわあ。んふっ、あははははは!!」


狂笑する女の声が、響く。

それに気付かぬまま、ディツェンバーとアルターは互いの生命を削り合う。


タールの姿をしたその女は、堪え切れない笑みを張り付けたまま戦いの行方を見守るのだった。






※※※※※※※※※※







風切り音に混じって、肉の削がれる音がする。それが何方から聞こえるものなのか、気にしている余裕は無かった。


ディツェンバーが振るった刀がアルターに掠る。彼の衣服が破れ、血が滲む。二撃目、三撃目と刀を振るうも、躱され、防がれ、相殺される。


アルターの振るった剣がディツェンバーを捉える。そして鮮血が舞う。ディツェンバーが劣勢になると宇宙が魔石で援護してくれるのが救いだった。


拮抗しつつも、互いに着々と体力を削がれているのは一目瞭然だった。


アルターの堂々とした態度も、刃を交えてからというもの表に出ていない。それはつまり、彼が油断していない事を指していた。


そしてディツェンバーもまた、自身の後ろで応戦してくれている宇宙に気を配っている。能力を発動させながら戦うディツェンバーの方が、消費する魔力量が多かった。


アルターも元々は魔力量が少なかったとはいえ、現在は四人の魔力を取り込んでいる(実質的に五人分だ)。


魔力量が多いという事は致命傷を負っても回復出来るという利点がある。ディツェンバーの魔力量は平均より少し上。即ち回復出来る程の量は持ち合わせていないのだ。


しかし、アルターより劣っている部分をカバー出来るのがディツェンバーだ。無駄の無い剣戟でアルターを追い詰め続ける。


何十回目かの攻防を経て、どちらからともなく距離をとった。


「「──!!」」


そしてほぼ同時に、魔弾を放つ。相殺される──かと思いきや、ディツェンバーの放った攻撃が負けてしまった。


アルターの魔弾にはバチバチッ、と小さな稲妻が走っており、威力の強さと込められた魔力の多さを感じる事が出来た。


連続で放たれたそれ等を躱し、少しずつ彼に接近する。そしてあと数歩で届く、といった所で眼前に魔弾が迫ってきていた。


「止まらないで!!」


宇宙が発動させてくれた防御魔石が、ディツェンバーと魔弾の間に一枚の壁を作ってくれる。それ等が当たった瞬間爆発が起こり、黒煙が立ち込めた。


黒煙の中から飛び出したディツェンバーの握っている刀が、アルターの胸に深々と突き刺された。


「ぐっ……!!」


このまま切り裂く──と刀に力を込めた瞬間、ディツェンバーの左目に猛烈な痛みが走った。


「あ、ああぁぁぁぁっ!!?」


「みっ君!?」


頬を伝ってコンクリに赤黒い染みが作られる。ナイフが左目を貫き、視界が狭まれた事。感じた事の無い痛みに悶絶するディツェンバーに、アルターは容赦無く斬り掛る。


アルターの攻撃を察知したディツェンバーは、痛みの最中刀を手放し後退する。それでも尚トドメを刺そうと接近するアルター目掛けて、宇宙は魔石を投げ付けた。


仕方無く足を止めたアルターを警戒しながら、宇宙はディツェンバーに駆け寄る。


「みっ君!! しっかり!!」


「あ、うっ…………くそっ……」


左目に突き刺さったナイフを抜くと、一層多くの血が溢れた。ジクジクと痛む左目を抑えながら、ディツェンバーは宇宙の前に立つ。


アルターはというと突き刺さった刀を引き抜き、適当に放り投げていた。その傷がゆっくりとだが塞がっていくのを見る限り、まだ余裕があるようだ。


劣勢に追い込まれたディツェンバーは出し惜しみはしていられない、と一度目を閉じ深呼吸を繰り返した。

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