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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
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第135話

『師走』と表札が掛けられた黒い屋根の家。リビングで珈琲を飲んでいた銀髪の男性は、新聞に目を通している。

そしてキッチンで洗い物を済ませた桃色の髪をした女性がタオルで手を拭いていると、リビングの入口の扉が開かれた。


ゆったりとした服を着た、淡い桃色のグラデーションがかった銀髪の少女。エメラルドのように美しい瞳はどこかぼんやりとしていて、眠そうに口元を手で隠しながら欠伸をしている。


陽羽ひわ、休日だからって寝過ぎよ。私とみっ君もう朝ご飯済ませちゃったわよ」


「うっ……ごめんなさい……。読んでた本の区切りがつかなくて、つい夜更かしを……」


「仕方無いわねぇ……。今日買い物行くけど一緒に来る?」


ゆっくりと椅子に腰掛けながら、陽羽と呼ばれた少女は首を横に振った。


「ううん。お部屋のお掃除する予定だったし……お父さんと一緒でしょ? 二人で楽しんできて」


「そう? じゃっ、昼ご飯は何処か食べに行きましょーか。みっ君どう?」


母の提案にみっ君と呼ばれた男性、もとい父は、新聞から目を離して微笑む。


「いいよ。外食なんて久々だね」


「決まり。私達帰ってくるまでに何食べたいか考えときなさいね」


「はーい」


トースターを焼き始め、ポットに紅茶を淹れる陽羽を後目に、両親は出掛ける準備を始める。二人を玄関まで見送り、陽羽は朝食を食べるべくリビングへと戻ったのだった。


これが両親との最後の会話になろうとは、まだ思ってもいなかった。





※※※※※※※※※※







車を走らせ、住宅街を抜け街へと出る。助手席に座った師走満しわすみちる、もとい第74代目魔王ディツェンバーは運転席に座り、運転している妻に話し掛けた。


「……いつ、話そうか……」


「んー? 何を?」


「僕の事。陽羽には一度殲滅隊とかの話はしたけど……僕が魔物だって事はまだ話してないでしょ?」


この世には魔物という存在がいるという事。陽羽は魔力を持ち合わせているという事。母である宇宙が研究に携わっていた事。魔物殲滅隊という組織を立ち上げた一人であるという事。


それ等を説明したものの、未だにディツェンバーが魔物で、元魔王であった事は話していないのだ。


「ま、そろそろ話してもいいとは思うけどねぇ。陽羽はいい子だし、差別もしない子よ。今更『お父さんなんて大っ嫌い。近寄らないで!』とは言わないでしょうよ」


「いやもう本当ドキドキしてたよ……そういう時期に差し掛かった頃は……。でも……陽羽の魔力は僕と似ているから、知っている人が見れば分かってしまう。それこそ、命を狙われる可能性もある」


宇宙の魔力は珍しくもない桃色だが、ディツェンバーの魔力は希少な透明だ。そして陽羽もディツェンバーと同じ色と性質を持っている。


それはつまり、ディツェンバーを知る魔物から命を狙われやすいという事になるので、彼はその事が不安で仕方が無かった。


「高校を卒業すれば……僕達の元から離れていくかもしれない。その時、何も知らないままなんて……」


「それもそうかしらね……。でもあの子、護身用に剣道習わせたけど相当なドジよ。竹刀持たせる方が危ない位に。あの子の安全を考えるなら、殲滅隊の屋敷に住み込みで働かせた方がいいかもしれない。でも、それはあの子の意志を尊重しない事になるわ」


宇宙の意見も最もだ。

ディツェンバーとて、娘の将来を縛りたい訳では無い。可能であれば、やりたい事をして欲しいし、危険な目にも遭わずに幸せになって欲しい。


しかし彼女がディツェンバーの娘として生まれ、希少な魔力を持ち合わせている以上、障壁となりうる物は取り除いておきたいのだ。


「…………じゃあ、今日。話しましょう。そして次の休みに、屋敷の方に行きましょう。陽羽はもう十年以上行ってないから、あの子達に紹介するのも兼ねてね」


そう提案した彼女の横顔を見つめる。信号が青から赤になったタイミングで、彼女もディツェンバーに視線を向けた。


「大丈夫よ。あの子はドジだけど強いもの。きっと、いい方向に進むわ」


「宇宙さん……」


「あの子ももう大人の枠なんだから、過保護になり過ぎるのも良くないわ。一緒に頑張りましょうよ。みっ君が私の隣にいてくれたら、私も今日まで頑張れたんだもの。きっと、何とかなるわよ」


ニッ、とはにかんだ彼女に笑みを返す。信号が青に変わったのを確認して再び車を走らせる宇宙。

走り出してすぐに、ディツェンバーはその気配に気が付いた。


「止まって!!」


猛スピードで前方の反対車線から一台のトラックが突っ込んで来たのを視認したディツェンバーは、咄嗟にそう叫んで手を翳した。

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