表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
終章
145/161

第134話

群青色の髪に翡翠色の瞳をした少年。大きい赤縁眼鏡とぶかぶかのコートを着用した彼は、アーベントに指示を下していたタールという男だった筈だ。


「見てたのォ?」


「腹心でも無い男が素直に命令に従うとは思わないでしょ。時間の無駄だけど当然の事さ」


「…………ふぅん。で、親父殺しちゃったけど、どうするつもり?」


ナハトは元より、父に頼まれたからここまでやって来ている。タールに一度会っているとはいえ、彼の命令に従う義理は無いのだ。


彼は興味無さ気にナハトの眼前までゆっくりと歩み寄る。


「あとシュテルンとグリーゼルが残ってるんだよね。君、殺戮は嫌いかい?」


「生憎と、オレは誰かに唆されて殺しはしないんだよなぁ。美人な女の子痛め付けるのは好きだけど、誰彼構わず殺すのはオレの主義に反する」


「…………ハッ、クズが」


嘲笑し、タールは上目遣いでナハトを見上げる。翡翠色の瞳に光は無く、奥までどんよりと濁っていた。


「主義とか信念とか、そんな無価値なものに縋って何になる。己の欲に従えばいいものを」


「自分の中に核を持っておかねぇと成り立たねぇよ。生きてる限りどこか譲歩しねぇとな」


「否。魔物に規律は必要無い」


断固として言い切るタールは、袖をひらひらと揺らす。服の袖から漆黒の鉄塊が姿を現し──


「僕が望むのは倫理も規律も無い地獄()。お前のような魔物は邪魔でしかない」


──パァンッ。


突如発砲された弾丸はナハトの顔のすぐ横を通り、背後にあった店の扉に当たった。音を立てて崩れ始めるガラス製の扉を見て、周りにいた人々がざわめき始める。


ナハトとタールの姿は人間達には見えていないのが救いだっただろうか。とはいえ店内は血に塗れた無人の建物と貸しているので、治安組織が直にやって来るだろう。


その際、魔物殲滅隊がやって来たら厄介だ。そんな微かな焦りをナハトは感じていた。


「避け無かった事は褒めてやるよ。お前には何言っても無駄だろうし、それこそ時間の無駄だからね。好きにするといいよ」


タールはそう言い残して、姿を消してしまった。彼はこれからシュテルンとグリーゼルを処分しに行くのだろうか。

そんな疑問が頭に浮かんだが、すぐさまかき消して歩き始める。


(これでいい……)


ナハトは自分の意思を貫けた。それだけでも満足だった。


魔界に帰る気も起こらないので、暫くは人間界に滞在しようと決める。そして当ても無く、人の波に飲まれていったのだった。







※※※※※※※※※※






──余計な事をしないで頂戴、タール。


そんな声が、脳に届いた。聞きなれた声にタールは面倒臭そうに心の中で返事をする。


『良いじゃないか。僕の行動は君の行動なんだから』


──あの行動は無駄以外の何物でもないわ。どうも私の悪い所を集め過ぎたようね。


この声はタールの半身。否、タール(・・・)()本体(・・)とも言える存在だ。

一人の魔物だった■■■■■■の悪の心。無駄を嫌い、殺戮を好む■■■■■■を一人の魔物として構築させた存在。それがタールだ。


そして現在、タールの脳に直接話し掛けてきている彼女こそが本体。■■■■■■の善の心だけで構築されているので、無駄を嫌う所は同じであれど殺戮は良しとしない。


──何の為に私と貴方を分離したと思っているの。


『…………』


──ディツェンバー(・・・・・・・)()殺し、(・・・)アルターを(・・・・・)殺す。(・・・)そして(・・・)全てを(・・・)破壊(・・)する。(・・・)


揺るぎの無い、芯のある声色で彼女は述べる。


『そうだね。ずっとずっと前から変わってないよ』


──覚えているのならいいわ。今後は計画に無い行動はしないで頂戴。最低でも、アルターにはバレないようにね。


そこで、声は聞こえなくなってしまった。通話を切ったかのようにぷつりと、以降彼女は話し掛けては来なかった。

さすが自分の半身。無駄はとことん省きたいらしい。


「タールよ」


「あ、アルター様」


ふと、タールの背後からアルターが現れた。彼の表情はどこか嬉々としていて、これから起こる出来事に胸を躍らせているようだった。


「アーベントが死にました。息子にやられたみたいです」


「おいおい。まだ二人残っているではないか」


「うーん……ま、生かしといても問題は無いと思うけど……。今後の事を考えると少しリスクが高いかもね。それに、殺せる奴を殺さないのは無意味ですよね」


ニッコリ、とタールは笑う。しかしその目は死んでいて、口元が辛うじて弧を描いているだけであった。


「問題無いのであれば良い。行くぞ」


慎重なアルターだ。少しのリスクも回避するものだと思っていたが、今回は無視するようだ。不満を覚えつつも、彼がそう言うのであれば従うしかない。


「はーい」


タールも少し足を弾ませて、アルターの後ろを着いて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ