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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第1部
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第13話

ゼプテンバールはこの仕事をボイコットしたかった。

理由も述べられずに「よろしくね」とだけ言われて「はい頑張ります」とは言えない。


せめて役割の説明位欲しかったものだ。それともただの数合わせなのだろうか。ならば何故僕なんだ。ヤヌアールやフェブルアールの方が戦闘に向いているというのに。


ひしひしと心労を感じながらも、反乱分子の者達が来るとされる湖の畔にやって来ていた。


「情報によれば人数は十名程。転移の能力を持ってる奴がいるんでこの人数で対応するそうだ」


「確かに、それは厄介ですね……」


「一行は夜九時にはここに着く筈だ。そこを迎え撃つ」


「処分の方は」


「まずは生け捕りだ。得られる情報があるかもしれねぇ。分かったな、特にユーニ」


「はーい!!!」


テキパキと指示を終えると、メルツは木の木陰に移動して武器の確認を始めた。マイも同様だ。アプリルは……どこかへ行ってしまったが、気配はまだ近くにある。


ゼプテンバールも少し休もうと歩き始めると、ひょこっ、と目の前にユーニが現れた。


「わっ!?」


「やっほー!! ゼプテンバール!! あはははっ面白い顔ー!!!」


「面白くないよ!! びっくりしたの!!」


ゲラゲラと笑い続けるユーニを睨み付けるも、彼が気にする様子はない。それ所かゼプテンバールの腕を掴んで歩き始めてしまう始末だ。


「さーてレッツゴー!!」


「何処に!?」


引き摺られるようにして連れてこられたのは、森の入口。以前、ヤヌアールのコートを探しに来た場所の近くだ。


そこには去ったと思われたアプリルがいた。


「連れて来たよー!!」


ユーニはアプリルに言われてゼプテンバールをここに連れて来たらしい。アプリルは一度頷くとしっしっ、とユーニを追い払った。


(嘘でしょコイツ……)


だがユーニは大きく手を振って去って行く。

にしても何の用だろうか。質問しようとアプリルを見上げると、真っ白な瞳と目が合った。


「──────」


ガラス玉のような透き通った瞳。光に反射されて虹色の輝きを放っている。初めて目にしたアプリルの右目は、ゼプテンバールを捉えて離さなかった。


「…………………………ふむ」


暫くして、アプリルは目を包帯で隠した。その瞬間、がくりと力を失ったかのようにその場にへたり込んでしまった。


「はぁ……はぁ…………な、何……」


息が詰まるような感覚だった。呼吸を荒らげてアプリルを見上げる。


「戻っていいですよ」


「は、はぁ!?」


呼び出すだけ呼び出して訳も話さずに戻れとは……。ゼプテンバールは怒りを露わにして立ち上がり、アプリルの胸ぐらに掴みかかった。


「どういう事か説明しろよアプリル」


「嫌です。用事は終わりましたから」


「ふざけるな!」


ぐっ、と手に力を込める。しかしアプリルが怯んだ様子もない。


「まぁ何をしたか位は教えてあげます。君は不安で不安で仕方が無いみたいなので」


「くどいんだよ……早く説明して」


手を離し、アプリルが話始めるのを待つ。しかし手を離した瞬間、彼は姿を消した。


「クッソアイツ……」


初めから話す気等無かったのだろう。転送魔術で移動したらしい。地団駄を踏んでいると、茂みからユーニが姿を現した。


「あははははっ!! やっぱ面白い顔ー!!」


「お前!! 今僕怒ってんの!!」


空気を読む気のないユーニの発言に更に腹を立てていると、茂みから出てきた彼はニッと笑って


「アプリルの事教えてあげようか」


と、静かに口にした。










※※※※※※※※※※







アプリルとユーニは幼い頃、人間界にいた事がある。無断で人間界に渡った大人達の後を着いて行ってしまい、人間界へと辿り着いてしまったのだ。


が、知らない世界にやって来た衝撃が、幼子には大きすぎた。帰りたくとも魔界への門は閉じてしまい、途方に暮れてた所に現れたのが人間だった。


その人間はアプリルとユーニを見るなり、住む場所を貸してくれた。姿の違うアプリル達を受け入れて、親切にしてくれた。


かに思えた。


暫くするとその人間は豹変した。

暗い地下に閉じ込められ、毎日理不尽な暴力を受けた。


特にアプリルには当たりが強かった。彼が持つガラス玉のような瞳は、目が合った者を意のままに操作出来るのだ。


当時はまだコントロールが出来なかったので、ガラス玉のような瞳に興味を持った人間に面白半分に左目をくり抜かれてしまったそう。


それからだった。アプリルが他人を卑下するようになったのは。

何かに当て付けないと、自己を保てなかったのだろう。


だがこのままでは自分達は殺されてしまう。人間よりも強い魔物とはいえ、能力もまともに扱えない子供を殺す等造作もない事の筈だ。


そうなる前に、ユーニはその人間を殺した。その人間の部屋で見つけた銃の引き金を引いて倒れたのを確認してから、アプリルの手を引いてやっとの思いで魔界に帰還する事が出来た。


二人は運が良かったのだ。

人間界に行っていた事は公にはされず、誘拐事件として取り扱われる事となった。今後、人間との揉め事が起こらないように。


一度、そうやって事件を揉み消されたからこそ、アプリルはディツェンバーの言葉に怒りを覚えたのだろう。


「アプリルはね、誰かを信じるのが怖いんだよ。あの人間も……『必ず元の居場所に帰してあげる』って言っておれ達を連れてったから」


凄惨な過去を話し終えたユーニは、ショルダーホルスターから銃を取り出す。そしてそのままくるくると回したりして遊び始めた。


「包帯巻いてるのもそう。負の感情が表に出やすい子だから、悟られないようにしてるんだって。目も見られたくないって」


「じゃあ……アプリルの左目は……」


「ないよ。取り戻せなかった……」


アプリルは顔を包帯で巻いているが、同時に左目を隠すように前髪を伸ばしている。元々顔の全てを隠しているので疑問を抱かなかったが、今考えると執拗なまでの周到さだ。


「アプリルは僕をどうしたかったのかな……」


「仲良くなりたいんだって」


「…………んん?」


ユーニの言葉を思わず聞き返してしまう。


「だから、仲良くしたいんだって」


「……嘘でしょ」


「本当だよ。お茶会した時も全員の好物調べてそれに合う紅茶を買う〜、って意気込んでたし」


確かにアプリルは浅薄な方々の為に、と言って五種類の紅茶を用意していた。

打ち合わせしたんじゃないかと疑っていたが、半分位正解だった事に驚きを隠せないでいた。


「意外と面白いね、アイツ」


「あははっ、でしょ! アプリルの目はね、相手の事を操れると同時に少しだけそいつの事を読み取れるの。ゼプテンバールの事知りたかったみたいだよ」


「まどろっこしいなぁ……」


だが知れて嬉しいと感じている自分がいる。それはユーニにも伝わったらしく、彼も微笑んでいた。


「じゃ、おれは戻るね。銃の調子もいいみたいだし……夜に備えないとね」


「あ、あと一つだけ聞かせて!」


歩き始めたユーニを引き止め、ゼプテンバールは聞きたかった事を口にする。


「お前が日頃、五月蝿くしてるのって……」


「……アプリル、誰かが笑った顔が好きなんだって。自分が笑いたくないから。だから……。おれが元気に笑ってないとね!!」


ニコッ、といつも通りの笑顔を向けて、ユーニは駆け足で去って行ってしまった。

溜め息をつきつつ、木の幹にもたれ掛かる。


「僕も戻らないと……」


だがまずは物事の整理をつけたい。少しだけ休む事にして、ゼプテンバールは静かに目を閉じたのだった。


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