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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2.5部《四天王編》
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第127話

なぁ、とヤーレスツァイトが再度口を開く。


「俺はさ、現状後悔してないんよ。今でも……誰かの魔力を摂取しな生きていけへんような身体やけど……何て言うのかな。凄い、満たされとるんよ……」


「ヤーレスツァイト……」


唐突に語られたヤーレスツァイトの心境。

魔力の箍を外された彼は、本来多かった魔力が常に枯渇するまでに放出される仕組みにされてしまった。


現在は魔力量の多い魔物から摂取したり、魔力の含まれる食品を食べる事で賄っているらしい。


「それ全部さ……アルター様のお陰なんよ。アルター様がおらんかったら……俺はお前等と出会う事も無かった」


彼はきっと、モーナトに相談を持ち掛けに来たのでは無いのだろう。


「俺は、誰がアルター様を否定しようと……肯定する存在でいたい」


そう告げる彼の瞳は、確かな決意が宿っていたから。


「ヴェッターやラヴィーネには……多分通じひんから……。お前だけは、分かっといてな……」


ヤーレスツァイトは、モーナトが知らないアルターが行おうとしている全てを知っている。そして、それに協力するつもりでいる。


「うん。私は……ずっと私さ。私はここで……自分のやる事をやるだけだよ」


かつてヤーレスツァイトが言った言葉を、そのまま返してやる。


「……堪忍な。お前だけは……変わらんとってな」


「うん。頑張ってね、ヤーレスツァイト」


「……おう」


モーナトは戦闘に向いていない。だから人間界に行くような事はきっと無い。ずっと魔界で、アルターのメイドとして働くのだ。


ヤーレスツァイトはアルターの部下として、真っ直ぐに忠誠を誓い、彼の御心のままに行動するのだろう。例えそれが、誰かを不幸にする事となっても。


ラヴィーネはきっともう、前の彼女には戻らないのだろう。ヴェッターに恋心を抱いていたあの時のキラキラとした瞳は、もう長らく見ていないから。


ヴェッターはこれからも変わらず、アルターを崇拝しながら彼の為に尽くすのだろう。いつか、大変な事態を招きそうだが。


モーナト達四人は、十勇士ゼン・ヘルデンのように仲睦まじくは無かった。仕事上の付き合い以上に、なれなかったのだ。


だがそれが、アルターという男に忠誠を誓ったモーナト達の在り方だ。これから、アルターにとっての最後の戦いが始まる。


そういう計画が、知らない所で進められている。


モーナトは何も知らない振りをして、書類作業に戻ったのだった。


否、戻ろうとした。


「──やれやれ。久々に顔を見せに来たかと思えば、妙な訛りをつけて帰ってきましたね、ヤーレスツァイト」


「えっ、ヴェッター!? 出張じゃなかったの!?」


先程のヤーレスツァイト同様に書類の山を飛び越え、ふわりと軽やかにモーナトの眼前に着地したヴェッターは、無表情のままに答える。


「今帰ってきた所です。またすぐに発ちますが」


「君も忙しいんだね」


「まぁ、アルター様の為とあらば私は何処へでも赴きますが!!」


「相変わらずで何よりだよ」


嬉嬉としてこの場にいないアルターへの敬愛の色を瞳に浮かべるヴェッターに苦笑いを零して、モーナトは再度書類から目を離す。


「折角だしラヴィーネも呼ぶ?」


「彼女は現在、僻地への出張中ですよ。知らなかったのですか?」


「え、そーなの?」


軍隊長である彼女だ。やはり先陣を切って走らねばならないのだろう。

落胆しながらも、彼女がひょっこり現れる訳では無い。潔く諦める事にして、ヴェッターに視線を向けた。


「調子はどう?」


「別に。そこの男程の変化はありません」


「変化ありまくりで悪かったなぁ」


確かにヤーレスツァイトの口調の訛り具合は誰もが驚くだろう。実際モーナトも一瞬動きが止まったのだから。


「アルター様が不在となれば、書類は何方に提出すれば宜しいのでしょうか」


「見せて。…………。これなら私の方で処理出来るよ」


「では任せました。それでは」


「え、もう行っちゃうの?」


「貴方方と話す事が思い浮かば無いので」


くるりと踵を返して去ろうとするヴェッター。しかし何を思ったのか、ふと足を止めて少しだけ振り向いた。



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