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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2.5部《四天王編》
124/161

第114話

※※※※※※※※※※




──幼い頃、身体が弱かった。


魔力の量が、異常に多かったのだ。

体力に比例する魔力は、いわば成長と共に増加し質を高めていく。


しかし生まれた時から大人五人分以上の魔力を持って生まれた子供は、多過ぎる魔力に潰されそうになりながら生きていた。


少し走っただけで気管支が狭まり、熱で寝込んでいる日の方が圧倒的に多い。


当然同年代の友人もおらず、母親に面倒を見てもらう毎日。


せめて、一人で対処出来るようになりたい。


誰にも迷惑を掛けずに、ごく普通の存在として生きてみたかった。

だからこそ、俺は拒めなかったのだろう。


『僕が、君の魔力を調整してあげよう』


そう言われた時、俺の中に微かながら希望が生まれた。

その男が言うには、俺の魔力をある程度放出し続ける事で、一般的な子供の魔力量に合わせる。後は地道に体力作りに励めば、おのずと自分で調整出来るようになるとの事だった。


家族も賛成していたし、俺も家族に迷惑を掛けたくなかったから。その男の話に乗る事にした。


そうして生まれたのは、ただの怪物。


身体の中に血管のように張り巡らされている魔力路の箍を幾つか外す事で、魔力は放出される。しかし男は初めの説明を無視して、魔力路の箍を全て(・・)外した(・・・)のだ。


いくら魔力量が多いとはいえ、急速に魔力が失われていく感覚は苦痛でしかない。


俺は有り余る魔力に困る魔物から、他人の魔力を得ないと死んでしまう存在になってしまった。


数日前、やっと施設から抜け出し家に戻った。でも俺の家族はもう、俺の事を家族としては扱ってくれなかった。


もしも俺が普通だったなら、今でも家族に囲まれて暮らしていたのだろうか。


そんな憧れも最早、俺には遠すぎる理想にしか過ぎない。





※※※※※※※※※※





「研究施設には俺の知り合いがいてな。貴様の話は少しばかり耳にしている」


「だからなんだよ。俺は同情して欲しい訳でも、哀れみが欲しい訳でも無い」


「魔力路は一度外部から弄れば戻す事は不可能。しかし対処位は俺の方で手配出来るだろう。少なくとも、手当り次第粘膜接触する事で魔力を得るよりかはマシだとは思わないか?」


魔力を他人に譲渡する場合、手を握る等の接触で行われる。しかし魔力の操作が苦手な者、一度に大量の魔力を求める際は、接吻や性交渉等の粘膜接触が効率的だとされているのはモーナトでも知っている。


(じゃあ、ヤーレスツァイトさんは魔力を求めて……?)


「……ハッ、アホらしい。俺はただ俺の欲望に従ったまでだ」


「男の場合は吸血で済ませていたようだが……流石に限界があるのではないか?」


「ッ!」


ハッとした様子で、ヤーレスツァイトは自身の口を手で覆った。まるで、何かを隠すかのように。


「吸血鬼というのはあながち間違いでは無かろうよ。貴様にはギフト族特有の牙もあるだろうしな」


ギフト族。

その名の通り、体内であらゆる毒を生成する事が出来る種族。その方法は爪を介して、息を通して等様々であるがヤーレスツァイトの場合は牙を通してらしい。


(それで吸血鬼かぁ……血も吸ってるなら尚更そう呼ばれるか)


「どうだ? 魔力の提供も約束するし、住み込みで働かせてやれる。礼儀さえ身につければ俺の部下として相応しくなれるだろうよ」


「…………俺は……誰にも、迷惑を掛けたくない。誰かに縋って生きていく位なら、ここで死んだ方がマシだ」


「ヤーレスツァイトさん……」


ヤーレスツァイトも、ずっと苦しいのだろう。彼の事情を知らないモーナトは、彼にどう声を掛けていいか分からなかった。

しかしアルターは一笑し、ヤーレスツァイトを見下ろす。


「ならば何故貴様は死んでいない?」


「え……?」


アルターの問いに、ヤーレスツァイトは呆けた声を漏らした。


「自決するチャンスは何度もあっただろう。なのに何故貴様は今この場で俺の前に立っているのだ?」


「それ、は……」


「答えは明白であろう。貴様が他人に迷惑を掛けてでも生きようと願っているからだ」


アルターの言った事は、ヤーレスツァイトの核心をついていた。彼が息を飲み、動揺を露わにした事が何よりの証拠だろう。


「それは悪い事では無い。欲に忠実なのは良い事だ。なぁモーナト」


「まぁ……否定はしませんけど……」


魔物には人間と違い、人を殺せば必ずしも罰が下る、といった法律が存在しない。


刑罰は魔王が決めるので、場合によっては無罪の可能性もある。加害者は被害者、被害者遺族に復讐されて当然。

魔界では因果応報が当たり前であり、それが常識として定着しているのだ。


とはいえ度を過ぎたものにはそれ相応の処罰が下るのだが、小さな小競り合い程度であれば無視されるのが殆どである。


「俺の部下になると。首を縦に振るが良い。さすれば貴様の道は開けるだろう」


「宗教勧誘みたい」


「黙っておけモーナト」


「………………」


ヤーレスツァイトは、少しの間黙り込んでいた。決定権はあくまで彼にある、と言いたげにアルターもそれ以上何かを口にする事は無かった。


そして──。


「俺は……何も出来ないけど……」


「充分だ。出来る事は新たに増やせば良い」


「………………」


ピンクに近い赤い瞳を彷徨わせて、ヤーレスツァイトは目を伏せる。


「分かったよ……自分より強い相手に歯向かう程馬鹿じゃねぇし」


「さっき殴り掛かってきたじゃん」


「魔力の匂いが混ざっててイマイチ掴めなかったんだよ……!!」


「まぁ決断したのなら良い。ここは空気が悪い。行くぞモーナト、ヤーレスツァイト」


フード付きのコートを翻し、アルターは颯爽と歩き始めた。その後をモーナト、ヤーレスツァイトと並んで後を追ったのだった。




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