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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
118/161

番外

「で、ディツェンバー君……ちょっと時間いいかしら……?」


「うん、何かな」


夕食を終えたある日。宇宙はどこかそわそわしながらディツェンバーに声を掛けた。

食器を洗い終えたディツェンバーは承諾して、宇宙に連れられて彼女の部屋へと向かう。


「また何か相談事?」


「そ、そーだん……というかぁ……ほーこく、というかぁ……」


道中、指を絡ませたりして調弄す宇宙に違和感を抱いたものの、誰かに聞かれたくない内容かもしれない、と深く考えてはいなかった。


宇宙の部屋に入れてもらって、部屋の中央に置かれているソファーに腰掛ける。


「どうしたの?」


「えっとぉ…………あのね、驚かないで聞いて欲しいんだけど……」


ふいっ、とディツェンバーから顔を逸らして、宇宙は


「ディツェンバー君……好きな女の人、いる?」


と、小さな声で問うた。

いるかいないか、で問われれば別段そのような女性はいないのだが、ディツェンバーは答えかねていた。


(これは試されているのか……はたまた他の事情があるのか……)


「ど、どうなの!?」


悩んでいたものの答えを急かされたので、ディツェンバーは渋々ではあったものの答える事にする。


「い、いない、よ……?」


「そっか……。じゃあ、今後やりたい事とかは……!?」


彼女は一体何を言いたいのだろうか。

疑問は膨らみ続ける一方だが、兎も角今は質問に真摯に答えようと頭を悩ませるディツェンバー。


今後やりたい事。

ディツェンバーとしては役割を与えられている訳でも無いので、まだフラフラとしていてもいいんじゃないか、と楽観的な思考を持っているのだが。


「んー……特に無いかな?」


「じゃ、じゃあ……子育てとか……興味ある?」


いよいよ彼女の真意が読み取れなくなってきた。ベビーシッターの職でも紹介しようとしてくれてるのだろうか。


「無いと言えば嘘になるけど……」


「じゃあ、じゃあ…………。…………奥さんが私だったら、どう……?」


そう問うた彼女の声は、心做しか震えていた。そしてその質問で、ディツェンバーはある程度を察してしまった。


「……宇宙さん、もしかして……」


「………………やっぱ……嫌、だよね」


自身の腹部を摩りながら、宇宙は苦しそうに目を伏せる。


「あの時以来誰ともしてないし……時期的にもディツェンバー君との子かな……って」


「…………」


「ごめん。あんな我儘言わなきゃ良かったよね……」


もしかして彼女は、一人で悩んでいたのだろうか。


ディツェンバーに拒絶されたらどうしよう、と。


二人は現在、恋仲という訳では無い。一夜限りの関係でもあったのだ。あの夜、告白紛いの言葉を宇宙は紡いでいたが、恋人として共にいるという意味合いでは無い筈だ。


そんな中の妊娠という事は、彼女にとってどんなに負担だっただろうか。


「宇宙さん、一つだけ聞いてもいい?」


「…………うん……」


微かに震えている宇宙の手にそっと自身の手を重ね、


「宇宙さんは……僕が旦那さんでいいのかい?」


と、問い掛けた。


「………………えっ!?」


「僕は子供がどうとか……あまり実感がないんだ。でも君は違うんだろうね。君のお腹には新しい命が宿っていて、日に日に責任がのしかかると思う。そんな時、君の心の拠り所である人が……君の人生の添人そいびととなる人が僕でいいのかい?」


「……なって、くれるの……?」


「前に約束したでしょ。僕はずっと、貴女と共にいるって。……うん、そうだね。誤解を与えないように言っておこうか」


ディツェンバーはソファーから立ち上がり、宇宙の前に跪く。人生において誰かに膝をつき、頭を下げるという行為をした事の無かったディツェンバーにとって、それは初めての感覚だった。


真っ直ぐに、エメラルドのような輝きを帯びる双眸を宇宙に向ける。



「貴女を愛しています。僕と、結婚して下さい」



はっきりと、告げた。

不明瞭だった関係のせいで、宇宙を苦しめていた事。そして彼女が身篭った事。ディツェンバーのやる事は、この時明確に決まった。


──僕が愛した家族を、守る。


「あ……、えっ、……」


「ずっとずっと……貴女の隣にいると約束します。宇宙さんも、お腹の中にいる子も。君が守りたいもの全てを……僕も一緒に担おう」


「あのっ……!?」


「だから……結婚して下さい」


宇宙は終始顔を真っ赤に染めて、ディツェンバーの瞳を見つめ返していた。


「その……私、……そんなに可愛くないし……」

「宇宙さんは可愛いよ。そして美人だ」


「作る料理とか真っ黒焦げだし……」

「僕が作るよ」


「洗濯物綺麗に畳めないし……」

「僕が畳んであげる」


「部屋もすぐに散らかしちゃう……」

「僕が片付けるよ」


「自暴自棄になって当たり散らすかもしれない……」

「どんとこいだよ。何度でも君を受け止めてみせる」


「…………なの……どうして……そんなに優しいのよ……」

「宇宙さん達が、僕を救ってくれたから。君達に恩返ししたい。僕に出来る事をやりたい。そして……大好きになった宇宙さんの為に尽くしてあげたいから、かな」


ぽろっ、と宇宙の目から雫が零れた。ぽたぽたと頬を伝っていくそれは留まる事を知らず、彼女の服の袖を濡らしていく。


「僕のお嫁さんになって、くれますか?」


「ここまで言われて断る訳無いでしょ……! 私でよければ、ディツェンバー君のお嫁さんにさせて下さいぃい……!!」


「喜んで」


返事を聞くなり、ディツェンバーは立ち上がり宇宙を抱き寄せた。ディツェンバーの背に腕を回し、胸に顔を埋めて宇宙は静かに、嬉しそうに涙を流したのだった。


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