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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第107話

※※※※※※※※※※





ディツェンバーは屋敷の中を歩いていた。本日、妻である宇宙は娘と共に新しく購入した自宅にいる。所謂休みだ。


ここの所働き詰めで娘との交流が全くなかった彼女に休むように伝え、代わりにディツェンバーが書類を届けに研究所にやって来ていたのだ。


と、帰ろうとした矢先犬のぬいぐるみを大切そうに抱えた女の子とぶつかってしまった。

こてんっ、と尻もちをついた女の子に慌てて手を差し伸べる。


「ごめんね、大丈夫?」


「お姉ちゃんにさわらないで!」


きっ、とディツェンバーの手を払い、水色の髪の男の子は睨み付ける。


「侑くん。みりはだいじょーぶよ」


「でも、ここ怖そうな大人達たくさんいるよ……僕、お姉ちゃんの事守りたいからここに来たのに……」


「………………」


侑、という名の男の子の口振りから、ディツェンバーはある程度を察した。

恐らくこの二人が新たに魔人となる子供。


魔人となり殲滅隊として前線に立つ許可はとったものの、研究所に来て拒否したのだろう。


そこにどんな理由があるのか。それはもう少し詳しく聞かなければならない気がしたので、ディツェンバーは眼前に立つ二人に視線を合わせて話し掛ける。


「君達、誰かから逃げてるの?」


「怖い顔した男の人。めっちゃデカいの!」


ディツェンバーの思い当たる限りその人は総隊長・夜鳥海では。強面な彼だ。子供達からすれば少し怖いかもしれない、と失笑し、ディツェンバーは提案する。


「じゃあ僕が協力してあげよう。君達の足じゃ追い付かれちゃう」


ニコッ、と笑い掛ける。敵意は無い事は伝わったらしく、侑はこくん、と頷いた。美里も頷いたのを確認してディツェンバーは二人を交互に見つめる。


「ディツェンバー!! その二人を捕まえてくれ!!」


廊下の奥から海が走ってくる。幼い子供達から見れば少し怖いかもしれない。否、かなり怖い。


「じゃっ、振り落とされないように気を付けてね」


右腕で侑を、左腕で美里を抱えて全力で走り出した。


「おいディツェンバー何処へ行く!!?」


「あははっ鬼ごっこみたいだね!」


後ろから叫んでいる海を無視して、ディツェンバーは研究所の奥にある書庫へと足を踏み入れる。途中から海の足音が途絶えた辺り、上手く撒けたのだろう。


侑と美里をそっと下ろしてやり、書庫の扉を閉めた。


「さっ、上手い事逃げれたね」


「お兄さん足速い!! 凄い!!」


キラキラとした眼差しを向ける侑と、同意する美里。はにかみながらその場に腰を下ろし、ディツェンバーは質問を投げ掛ける。


「君達はどうしてここに?」


「……父さんに言われて来た。たくさんの人を守る為に活動してみないか、って」


という事は彼等の父親が魔人という事になるのだろうか。

相槌を打って話を聞いている事を伝える。


「お姉ちゃんがオッケーしたから……僕もいいかなって……。でも……」


「怖いお兄さんがいた、って?」


こくり、と侑は頷く。


(うーん……どうしたものか……。この子達が異人になったら、海さんは上司に当たるんだよなぁ。取り敢えず怖い人じゃない、って事を教えてあげないと……)


「侑君は、お姉ちゃんを守ってあげたいんだね?」


確認するように問うと、再度侑は頷いた。


「美里ちゃんは?」


次いで、美里に問う。美里は自分に質問が来るとは思ってい無かったらしく、どこか驚いたような表情をしていた。

しかしすぐさま犬のぬいぐるみで口元を隠しながら


「みりに出来る事なら、やってみたい」


と、小さく口にした。


「うんうん。美里ちゃんは、ここの人達怖いと思った?」


「んー……ちょっとだけ……」


恥ずかしげに、早口になりながら美里は言う。やはりいけないのは海だったか。恐らく侑の言う『お兄さん達』というのには目付きの悪い空も含まれているのだろうが、そこは自分の心の中に仕舞っておく事にする。


「そっか」


「それに……手術したら僕達ここに住む事になるんでしょ……? お姉ちゃんを家族と引き離すのはイヤだ……」


「……侑君も寂しい? 家族と離れ離れになったら悲しいかい?」


「……ううん。母さんは僕の母さんじゃないから。寂しいけど悲しくは無いよ」


(異母姉弟か……)


──侑の母親は少し前に帰らぬ人となってしまった。その時初めて、自分の父親だという男に出会ったのだ。

侑の父親は、母親と不倫していた。美里の母に知られないように関係を続けていたのだ。


結果として、二ヶ月違いで二人の子が生まれた。

母親が死に、行く宛てが無くなった侑を引き取ったのだ。


「侑くん……」


「……ねぇ、もしもあの怖いお兄さん達がいい人だったらどうする?」


不安げに表情を曇らせる二人に、ディツェンバーは優しくそう問うてみた。

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