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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第101話

※※※※※※※※※※




ベヴェルクトの姿が見えた。

その瞬間海は刀を鞘から抜き、勢いを殺さずに彼女に切り込む。


「陸!!」


「海ちゃん!」


海等の接近に気が付いていたベヴェルクトは、取り出した剣で難無く海の剣戟を防いだ。

その間に陸は彼女から距離を取り、魔石を拳銃へと変化させる。


(腕を再生させた際に魔力が減ったのか……? 今なら急所を突けば倒せる……!!)


海が感じ取った通り、ベヴェルクトにはもう大きな傷を回復させるだけの魔力が無い。次に心臓を突かれれば絶命するだろう。

魔力は体力に比例する。ここで逃がしてしまえば勝機は無い。多少無理をしてでもベヴェルクトを倒すべきである事は明白だった。


焦らず、それでいて早急に片付ける。


目標を定め、海は振り下ろされた剣戟を横に移動して躱す。攻撃に転じようとするも、ベヴェルクトもまたここで勝負をつけるつもりらしく、勢いのままに剣の流れを変える。


ベヴェルクトの振るった剣先が海の首筋を捉える──と、同時に銃声が鳴り響いた。


「ッ、くそっ……」


剣を握っていた右腕に小さな風穴が空いていた。陸が放った弾丸が命中したのだ。


一瞬痛みに悶えた。それはつまり回復出来ない、確かな痛みがあるという事。

力無く、ベヴェルクトは握っていた剣を手放した。


「海ちゃん!! 」


陸も悟ったらしい。銃を構えたまま「決めて」と言わんばかりに強い眼差しを向けている。


「あぁ!!」


彼女が作ってくれた隙を逃す訳にはいかない。更に集中力を研ぎ澄まして、ベヴェルクトの腹部へと刀を沈めた。


「ぐっ、ぅ……この、程度で……!」


まだ動く左手で、ナイフを取り出し海目掛けて振り下ろす。しかし刃先が海に突き刺さる寸前で、ベヴェルクトの動きが止まった。


ベヴェルクトの背中から、槍が飛来してきた。それは真っ直ぐに彼女の心臓付近を貫通し、深紅の液体を溢れ出させる。


「がはっ、ッ!? しまった……もう一人、」


「油断したね、ベヴェルクト」


空の落ち着いた声が三人の耳に届く。掛けている丸眼鏡を押し上げて、今し方突き刺さった槍を勢いよく引き抜いた。


海も同様に刀を抜き、付着した血を振り払う。

力無くその場に膝をついたベヴェルクトは、今にも意識を失いそうに浅く呼吸を繰り返していた。


「僕が……二度も……それも、人間に敗れるとは……」


「それが驕りなのさ。僕達は蹂躙されるだけの存在じゃない。もう、君達の好きにはさせない」


「……ははっ、……認めざるを得ない、か……」


完敗だ、と言いたげにベヴェルクトは目を細めた。


──瞬間、ベヴェルクトの喉輪から血が吹き出した。


「!!?」


海も空も、数歩離れた所にいる陸も攻撃はしていない。しかし彼女の喉を貫いた鋭利なそれは、真っ赤な血を滴らせていた。


「──がっかりだね、ベヴェルクト。僕は人間に負かされる為に君を蘇らせた訳じゃ無いんだよ? 任務を放棄して死ぬのは僕に対する侮辱だ」


聞き覚えのない声。

振り向くとそこには群青色の髪に翡翠色の瞳をした少年が立っていた。大きな赤縁眼鏡にサイズの合っていない大きめのコートを見に纏った少年は、音も無くその場に現れたのだ。


「! タール……!!」


陸は彼の事を知っているらしい。何にせよ、彼が尖った耳を持っているという事は敵に違いない。

手にしていた刀に力を込め、海はタールという少年を見据えた。


「戦う気は無いよ。僕は戦闘は苦手なんだ。それに、君達人間には興味無いからね。僕に用事があるのは……」


ゆっくりと、タールが顔を動かした。彼の視線の先を追うと、その場にある二人が現れた。


「君は……アウグストの同僚のタール、だったかな」


「あら、知り合い?」


ディツェンバーと、彼に横抱きにされている宇宙。屋根伝いに急いで来たらしいが、ディツェンバーは疲れを見せずに無表情にタールを見つめる。


そして彼から視線を外し、血塗れになって倒れているベヴェルクトを見下ろした。


「ベヴェルクト……!? どうして、君は……」


「ディツェンバー様」


ベヴェルクトを凝視していたディツェンバーを、タールは呼ぶ。そして──


「こんな役立たずのゴミの事は今はいいよ。時間が惜しいから要件だけ済ませちゃうね」


ベヴェルクトの穴の空いた背中を踏み付けた。タールはそこそこ踵の高い靴を履いている。踵を傷口に抉り込ませるように捻り、痛みに悶えるベヴェルクトには目もくれずにディツェンバーだけを見つめた。


「……彼女から足を離しなさい」


「…………どうして?」


不思議そうに首を傾げ、ぐちゃり、と音を鳴らして足を動かす。肉が抉れる生々しい音に、陸が思わず口元を抑えた。


「無意味な行いじゃ無いと思うけど? 役立たずを役立たずだと躾てやってるだけだしね。どっちにしてもコイツもう死ぬし」


僕のストレス発散にもなるし丁度いいでしょ? と、悪びれる様子なくタールは体重を掛けた。


静かに目を細めて、ディツェンバーは抱き上げていた宇宙を下ろしてタールへと向き直る。


「──もう一度言う。足を離せ糞餓鬼」


「………………」


ニヤリ、とタールは口元に弧を描いて光の無い目を歪に細めた。

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