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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第95話

※※※※※※※※※※





『死』とは何だろう。


数えきれない程の人々が、幾度に渡って考えてきた議題だろう。


今そこで呼吸をして、意識を持ち、自我がある者であれば誰でも考えられる。


僕は、思う。


そもそも『死』に意味なんてない、と。


生きている時こそ僕達は死んでいる。

そして死んでから、僕達は生きる事が出来る。


死に対して悲しむ意味なんてない。死に対して考える必要はない。死に対して、そもそも思いを馳せる事すら無意味である。


死す事を重要と捉える事はそもそも意味がない。だって元からこの世の概念に意味なんて一つもないのだから。


だからといって死人を忘れるべきではない。


僕は一秒後、息絶えて死んでいるかもしれない。


そんな時役に立つのが、生命の循環の法則だ。


ここで昔話をするのであれば僕達魔物と呼ばれる存在には、元々『死』という概念すら存在していなかった。ただこの世を巡るエネルギーの塊として、そこにいたのだから。


形が変わって、出来る事が増えただけなんだ。だから意味がない。


僕は魔物だから、人間がどんな思考をしているのかは分からない。でも、確実にこれだけは言える。


『死』という概念が存在しなかった魔物には、『生』という概念も存在していない。ほらね、意味がない。


「外傷による死……即ち運命に逆らった死は死ではない。しかし病や寿命による死は運命の死でありそこから生が始まる。何故ならば死により新たな生命が生まれるから。死とは生であり生は死である。表裏一体のこの概念は、魔界だからこそ成り立つ唯一の法則」


運命の死により魔力と化し、新たな生命を育む糧となるのだから、それは有益だ。


しかし──


「それは当人にとっては無意味だ。見ず知らずの生命を育てる事に幸せを見い出せる筈がないのさ。だから、僕達には残されているんだろうね」


およそ十年前にもなるのだろうか。一人の学者によって、運命に逆らった死を迎えた魔物──言い換えれば魔石となった魔物を甦らせる方法を見出した者がいた。


方法としては至極単純だが限定されている。限定されたとある血液型を持つ者の血を、魔石に注げばいい。

ほぼノーリスクで方法が確立されているのだから、捨てるなんて無意味な事はしたくない。


捨てられたのなら、もう一度自分でやり直せばいい。そして今度は、永久に闇の中に葬るなんて事もさせない。


『死』も『生』も無意味のままに終わらせない。


運命から抗える術があるのならば、存分に抗おうじゃないか。


「有益にならない物は捨ててしまえ。君は、僕等の主の為に動く道具なんだから。他人を愛する感情なんて無意味な物、捨ててしまえ」


魔石から元ある姿へ戻った金髪の高身長の女性に向けて、手をかざす。


「愛を捨てた君は、間違いなく最強なんだよ。よろしく頼むよ、ベヴェルクト」


現状を掴めていないらしいベヴェルクトに、僕は微笑みかけた。






※※※※※※※※※※





ベヴェルクトに課せられた任務はただ一つ。


人間界へと逃亡したディツェンバーを連れて、魔界へ戻る事。


ベヴェルクトは確かに一度死んだ。ディツェンバーの部下、ゼプテンバールに首を跳ねられて。しかし魔石となった魔物を甦らせる方法があったらしく、その術を施されたベヴェルクトは再びこうして動いている。


(不思議なものだな……)


生き返った、といった感覚が全くないのだ。それまでと何も変わらない。ずっと何事もなく生きてきたかのようだ。


異変もなければ違和感もない。否、一つだけ心の奥に痼があった。


(僕は……何かを忘れているのだろうか……)


ベヴェルクトの中には勿論、それまでの記憶もある。しかしそれに伴う感情の一切が、跡形もなく消え去っていた。


──そう、■■■を狂おしい程に愛していたあの感情そのものが。


妙な気持ち悪さを覚えつつ、ベヴェルクトは歩き続ける。ディツェンバーの魔力はしっかりと覚えているので、対峙すれば一瞬で分かる自信があった。


(そうだ。僕には役目がある。今はそっちに集中しないとな)


靄のかかったそれを掻き消して、ベヴェルクトは顔を上げた。眼前に立ちはだかる二人を、真っ直ぐに見据えて。

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