序
真っ白な何も無い空間に、十人の魔物と呼ばれる存在が集まっていた。
魔物とは魔界に住む住民の事を指す。髪の色や瞳の色、肌の色もバラバラだが、共通して尖った耳を持ち合わせている。
更にはツノが生えている者や、獣のような姿をした者も存在する。
そんな彼等は長い時の間、輪になって座っていた。俯きがちに視線を床に向けて、口を開く様子もない。
どの位そうしていただろうか。
重々しい雰囲気の中、初めに口を開いたのは1番目のグレーの髪をした軍人だった。
「皆、どうするつもりなんだ」
それは問いかけというにはあまりにも弱々しく、ただ呟かれただけのようだった。
しかしそれとなく2番目のアホ毛が二本立った外交官が答える。
「おばさんはなんでもいいの。長い事生きてると、大体はどんな境遇でも生きていけるから」
「左に同じく。だが、俺様は……魔王サマの指示には従いてぇなぁ」
高圧な態度で述べたのは3番目の髪をおさげに結んだ宰相。
それに続いて4番目の包帯で目元以外の全てをぐるぐる巻きにした文官が忌々しげに言った。
「ボクは嫌です。いくら魔王様のお言葉でも……こればかりは従いたくありません」
膝を抱えるようにして身体を丸める。何かに恐れているような、そんな目をしていた。
そして5番目の顔にペイントをした執事が、かけていた眼鏡をクイッと上げた。
「筋は通ってます。矛盾点も特に無いので僕は良いかと思います」
「あはは! でもでも! それって倫理的にはアウトだよね!!」
この重苦しい雰囲気にそぐわない、ニコニコとした笑みを浮かべて6番目の侍従が声を張り上げる。
7番目のスラリとした細身の美しい歌姫が、その言葉に静かに頷いた。
「私も……彼に同意です。とても、悲しい事になるでしょう……」
透き通る声の後に喋る事を一瞬躊躇ったが、意を決して話し出す8番目の信者。
「俺は……賛成しますっ……! 倫理にそぐわない事でも……、例えこの場の誰が敵になろうと……俺は、あの方の忠実な臣下だから……!」
「うぅぅぅ……僕もですぅぅ……で、でででもっ、……でも怖いですっ……」
10番目のぶかぶかの服を着た気弱そうな研究者が、涙目になりながら口にする。
「……そうか。……皆、迷っているんだな……」
1番目の軍人が、低い声でそう言った。がっかりした様子でもないが、気分が落ち込んでいる事は誰もが理解出来た。
それでも誰も口を開かないのは、彼等もまた自分の行いが正しいのか分からないからだ。
「…………何かを決める事って、こんなにも……怖いんだね……」
『道標』と書かれた白いTシャツを着た少年は、順番に顔を見渡す。
──そしてまた、沈黙が訪れた。
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暫くして、9番目の少年が立ち上がった。