二人の学園日常
なんか、いいっすね~サボって、ひなだぼっこしてて、幸せ~
前回概要:まあアレよ、母上と仲直りしました。なんやかんやて親は子供のことが大事ですからね
「んで、仲直りしたと」
次の日、昼休みにいつものように神谷と校庭で二人で昼食を食べる
たまには恋人同士らしく、私が作っていくこともあるけれど
私の会得しているレシピは少ない。主に私の好物であるシンプル料理と神谷の好物である中華(しかも肉一択)
一応クオリティは低くないはずの、プロと比べればどうしてもね
だから神谷がどうしても食べたい気分にならない限り、私は自分で作ったりはしない。
「手、上げたんじゃねぇの?」
「そ?よかった」
暇な時よく他のプロのレシピとか勉強してたので、自分の家にいる時はよく自炊する
そこんとこ、母上ではなく、父上の遺伝子を継いでいるらしく本当によかった
だからと言って料理人になろうとはまったく思わないが
「よかったな。凛」
「ん」
本来なら神谷とはそう関係のないことだが、私のことともなると真剣になってくれるのは嬉しい
ちょっと甘えたくなって、神谷の肩に頭を乗せて呟く
「父上は、どうすればいいのかな」
「あの人は俺もよく知らん」
まあ、そうだろうな
息子(一応戸籍では)の私でさえよくわからない。
料理が得意で、イケメンで、お酒好きってくらいにしかイメージが沸かない
それほどに、父上は私達と接点がないとも言える
「そうだな、酒が好きなら、名酒で釣ってはどうだ?」
「お金の無駄遣いにしか思えない」
お酒好きな父上だが、ビールしか飲まない。
一食10本以上は飲むけど、ワインとかは一切飲まない。
ワインを貰っては、料理に消えていく。そういう人間に名酒とか絶対むり
「なんだそりゃ、日本一番有名な料理人の一人だろう」
「安っぽい味が好きなのでは?」
「そっか、お前の親父だもんな」
そう。アレでも、私の父上なのだ。
似ていないわけない。
結局なんの結果も出ないまま、昼休みも終わった。
「凛。計算任せた。」
「ん」
「あ、凛ちゃん!この統計お願いできる?」
「……ん」
放課後、私は女王さまに捕まって、生徒会のお手伝いをさせられた
女王さま、つまり財前クルミは学年一位の才女だ。
この前の学力テストでは割と学力お化けの晶を押して学年一位。
因みに私はほぼ満点を取ったものの、英語だけは苦手なので、学年四位である。
その頃は大体女の子の方が成績が高いのだが、高校に上がると何故か男子の方が台頭してくる。不思議だ
女王様は運動に置いてはゴミステの私と違い、高い身体能力を遺憾無く発揮している。
正に完璧な人間である。
「ん」
「お、ありがとう。このペースならもっと早く終わりそうだ」
一年の癖に、女王様は生徒会に入っていきなり副会長になった
なんでやねん
と思ったら、会長はおどおどしている三年生の男子生徒で、ほぼお飾りとして単調な書類仕事を黙々とこなしている
一年から実質トップワンか
主人公かあんた、いや、ヒロインだったな。
さて、何故私が生徒会のお手伝いをしているのかというと
「む、そろそろ叡山の部活が終わる頃か」
「あ、本当ね。凛ちゃん、上がっていいわよ」
「……ん」
本当は神谷が部活終わるまで待つのが面白くないからである。
私は無為の時間を何よりも嫌うが、だからと言ってあのバスケ部のマネージャーをやるつもりもない
女子マネージャーが多いんだもん!みんな肉食獣みたいに部員を狙っているんだよ!
そういうの本当にあるんだなと思った。漫画の中のみのネタと思ったのに。
因みに神谷の心配はあんまりしていない。
私以外の女の子に取られたら、それはただ私が足りなかっただけのこと
無論そうなったら悔しいが、その時は神谷の感情を尊重しようと思う。
神谷がそんなことしないのは理解できている。信頼している。
それでも自分自身を信じられない私に嫌気をさした。いや、下らん思考はやめよう
「では」
「はいはい、お疲れ様~」
「うむ。また頼む」
女王様から差し出されたアパートの割引券を受け取り、一礼して退室する
え?報酬受けんの?
当然でしょ。もらえるものは貰っておかないと
女王様にしても、ただで手伝わせるのは気が引けるだろうし。
手伝う代わりにアイス奢れとかそういうもの
女王様からして大したことはないだろうけど、これ一枚でやりようによっては数万は節約できるから馬鹿にはできない
自殺前からとにかくフリフリした服が好きで、財布の中身はほぼ全部洋服に消えるので、素直に嬉しいプレゼントである。
素晴らしいバイト代をカバンに入れて、なんか軽くステップしながらバスケ部へ
「おら!!!!」
「「「「きゃあああああああ!!!!」」」」
「く、させるかよ!!!」
「「「「きゃあああああああ!!!!」」」」
「そらよっと!」
「てめ!化物か!」
「「「「きゃあああああああ!!!!」」」」
う、うるせぇ……
だから来たくないのだよ、ここに
はぁ、一部とはいえ、女の子のイメージが……
男子達はそれはそれで楽しんでいるみたいだけど、解せんわ
大人しく端っこで座って、カバンから文庫本を出すことにする
「叡山!決めてやれや!!!」
「うっす!」
「「「きゃああああああ!!!」」」
心なしかさっきより歓声が小さくなっている。
へぇ、神谷、もうレギュラーと一緒に練習してるんだ
この前のアドバイスが効いたかな?
小説を読んでいるフリして、練習のラストスパートを観賞する私であった
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うちのバスケ部は強い。
そしてバスケをやる男子はモテるみたいで、練習中でも女子から沢山の応援をもらえる
それで喜ばぬ男はそうはいないだろう。
実際、部員達はみんな一生懸命練習している。
レギュラーにでも入れれば、顔がそんなにひどくない限り、彼女を見つけることくらい容易い。
実際、三年の山田はそうだ。
平凡な顔と平凡な名前。でも努力の天才で、二年でレギュラーに入った猛者だ
そいつも今は歴っとしたリア充だよ。
「そら!」
だが、その男はちょっと違う。
彼の名前は叡山神谷。苗字から分かると思うが、あの叡山製薬だ。
まだまだ幼い雰囲気があるものの、体格はしっかりしていて、プレイも鋭い。
最初の頃から、レギュラーを超える身体能力を発揮した化物
流石に技巧なき選手にそうは負けないレギュラーだが、ただの二ヶ月、彼は一軍入りを果たした。
技巧の欠片もなかった叡山は、結局身体能力を伸ばすことに集中したらしいが
その割に、シュートの精度が前よりも大きく上昇している
「叡山くん、かっこいいな~」
「かっこいいのにね~」
一年にしてレギュラーの叡山も人気はある。
どっちかと言うと野獣の狂暴さを見せる眼だが、13の年ではまだまだ可愛い部類に入る。
将来じゃ、恐らくクールでワイルドなイケメンになるだろう。
でも、彼にがっつく女子はいない。一人除けば
何故なら、彼は既に彼女をもっているからで、傍から見ても、恐らく入る余地はないくらいにラブラブだ。
くっ、今の中学生でも彼氏彼女持っているのに!
っと、脱線したな。
というわけで、例えアタックする勇気がある猛者が出ても、叡山からは事務的な返事しか帰ってこない
「叡山くんだけはやめとこ」
「うん、賢明ね」
そんなに昔のことでもないが、執拗にアタックし続ける猛者がいた。
元はバスケ部のマネージャーだったが、今は退部している。
烈火の如く怒り狂う叡山を見て、私から言えるのは、彼女さんは愛されているなってくらいだ
何があったのかは察してくれ。
他の部員は気づいてないらしいが、部活の終わり頃、決まって叡山の彼女、姫路凛が端っこに座って見学している。
難しい年頃だろうが、小説を読んでるフリをしてこっそりと叡山を眺めているのだ
他の奴のように堂々とすればいいものを
まぁ、彼女も女子陣に辟易している側だしな。わからんでもない
んで、部活のコーチとして、私はよく彼女と部員の相談をしている
実に聡明な子だ。ただの十三とはとても思えん。
同じ学年に財前の娘もいるが、彼女は気丈に振舞っているものの、まだまだ年相応な甘さがある。
姫路に至っては、どんな濃い経験を得ればそうなるのだと思いたくなる
二十の少女と会話しているような気分だ。
正直、彼女の身体能力は低い。センスもなければ、反応も遅い。
真っ白なほどに、素人だ。
なのに
「ふぅ、ギリギリだったな、叡山!」
「うっす」
「追い越されないように頑張ってきたが、こりゃマジでやべぇかもな」
「何れ追い越してやりますよ、部長」
部長は別に弱くない。県大会レベルなら、トップレベルだ。
でも、もはやそろそろ抜かれてしまうくらいに、二人の総合的能力は接戦なのだ
それもひとえに、叡山のディフェンス力が低いからであり、オフェンスならばとうに超えている。
最初からおかしいと思った。叡山は進歩が早すぎると思ったのだ。
気になって何か特別メニューでもあったのかって聞いてたら、姫路からアドバイスを受けたらしい。
姫路は素人だ。でも観察眼はコーチの私ですら瞠目せずにはいられない
その素人が、一目で、うちのメンバー達がかけているものをズバリと言い当てたのだ。
最初は叡山に小さな違和感だけを教えたが、段々そのアドバイスが鋭くなっていく
残念なことに姫路は叡山以外の人間に大した趣味もないらしく、聞かなければなにも言ってこない
それでも、私が恥を忍んで聞きに行けば、姫路も面倒臭がったりせず彼女なりのアドバイスをくれる。
流石に叡山よりは進歩が遅いものの、うちのバスケ部は正に姫路のアドバイス通りに成長しているのだ
私が女でなければそいつに惚れてたかもしれんな!どのみち叡山がいるから無理そうだが
姫路がよくバスケ部に通っているので、部員達からもよく知られている。
彼女がアドバイザーであることを多くの部員が知っているので、時々直に話しかける部員もいるが
「……足」
「え、えーと、もっと詳しく……」
「……ダメ」
このように、彼女は親しくない人間には極端に無口なのだ。
しかも、殊更男子生徒を警戒している節がある。
故に自然とアドバイスも簡単になってしまい、よくわからなくなる。
「ああ、多分、先輩は足が遅いからもっと走れって言ってんじゃないっすか?」
「え、まあ、ボクは確かに鈍足だけど」
「鈍い」
「ぐ!!」
しかも歯に衣を着せぬ言い方をするため、慣れない人間にとって結構心にクる。
悪い子じゃないんだが……コミュ障なんだよな。
言っているのは事実なだけ怒れないし、彼女は彼女なりに相手のことを考えて発言している
彼女にとってできないのは当然なので、殆どの悪口を悪口として認識してない節がある。
できないことを認識して、始めて成長する。だから彼女は遠慮なしに相手の傷をえぐるのだ
天才的なセンスと身体能力を持つ叡山と
口数が少ない毒舌少女
その二人が今やバスケ部に欠けてはいけないほどの人物になった
今こそ姫路はバスケ部に入ってないが、何れ彼女をマネージャー、寧ろコーチにしてしまいたい
密かに野望を抱く体育教師の私であった。
「ん、サボってる。ダメ」
「い、いや!お、俺はただ少し休憩しているだけで…」
「体温低い、心拍数低い。鍛錬を怠った証拠、カッコ悪い」
「え~岸田くん、サボっちゃダメよ~」
「ぐは!!!」
こっそりサボっている部員を、女子一同を帯同して止めを刺した彼女を見る
女子から軽蔑な目線を受けて放心している岸田を、姫路が引きずって部長に引き渡す
……こいつに任せたら、恐怖の独裁政権になったりしないか?
一抹の不安が拭えないな