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2日目

音の死んだ朝。よくある鳥の声も、風の音も聞こえない。小さな窓からは、太陽の光というには、心もとない明りが部屋の中に入ってくる。部屋の明かりが、薫の起床に合わせてひとりでに付くことに薫は驚く様子も見せず、客室の扉を静かに開ける。

 そして、薫は、昨夜しっかりと確認していた沙良の部屋へと音を立てないように入り込む。不幸なことに鍵をかけることのできないその部屋は薫の侵入を許し、ぐっすりと眠る沙良の枕元に薫は立つ。そして、


 「氷野さん。起きてください。」


 薫は、沙良が警戒しないように優しく肩をたたき、沙良とを起こす。気持ちよく眠れたため、沙良はすぐに起きると意外と目覚めがよく、薫が自身の部屋の枕元で人差し指を立て静かにするように合図していることに騒ぐことは無い。


 「どうしたんですか?薫さん。」


 薫の指示通り沙良は、小さな声で薫に尋ねる。


 「一緒にキッチンに行きませんか?あの緑色の奴がいるかもしれません。」


 そう昨日あの緑色の化け物は言っていたのだ。朝と夜のご飯は、自分が作ると。時間がたてば消えてしまうが、運が良ければまた少しでも情報が引き出せると思い、唯一、あの怪物に友好的な意見を共有できる沙良のことを起こしに来たのだ。


 「みんなは、起こさないんですか?」

 「まだ、完全に信用できないです。あいつのことも皆さんも。でも、どちらかと言えば人間を信じたいので、その中でも氷野さんを信じたいんです。」

 「わかりました。じゃあ、行きましょうか。」


 二人は、できるだけ音をたてないように二階から一階にあるキッチンへと向かう。



 そこには、案の定緑色の化け物がいた。昨夜と同じように何か食べ物を作っているようだった。


 「お。またお前らか。昨日の飯はうまかったか?」

 「ええ。ごめんなさいね。残してしまって。」


 沙良は全員が食べずに大半を残してしまったシチューのことを詫びる。


 「気にすることは無い。オレは作るのが好きなだけだ。食べてもらう必要はない。」

 「そう‥ですか。」

 「で、今日は何の用だ?今日の献立を聞きに来たわけでもあるまい?」


 ああ。そうだ。と、薫はバックの中にある薬のうちの一つ。藍色の液体の入った容器を取り出す。


 「お前の目的は、この液体に関係あるのか?」

 「カッカッカ。何でも話すと思うなよ。でも、ヒントをやろう。その液体に入っている液体は、オレ達を殺せるだけの力を持っている。だが、しっかり全員見つけてそいつらの願いが分かった後からでも使うのは遅くないぞ。」

 「やっぱり、全員に異なった目的があるのか・・・。」

 「そうだ。そしてそれはお前らの目的にも合致するのもだ。」


 そんな話をしていると緑色の化け物の体が再び薄くなり始める。


 「おっと、時間みたいだ。今日は炊き込みご飯とみそ汁を作ってみた。お前の想像道理の味だ楽しめ。」


 その言葉を最後に緑色の化け物の姿は完全に消滅する。


 「どうする?話した方がいいんじゃない?」

 「・・・目的ですか・・・そうですね。でも、どこから話しますか?化け物全てがいい奴とは限らないですし、あいつも薬をかけようとしたら襲って来るかもしれません。それに、全員の目的も気になります。」

 「ねぇ。薫さんには、目的無いの?」

 「?。ここから無事帰ることです。出口を見つけてね。」


 そっか。そう言うと沙良は、キッチンから出てみんなを起こしに行こうと告げる。

 

 午前5:30


 全員が目覚め2日目の生活が始まる。


「で。今日はどうする?また、二手に分かれるのか?」


 朝の食堂に弘の声が響く。今朝のごはんは、あの緑色の怪物が言っていた通り、豆腐の味噌汁に漬物、そして、薫がチョイスした鳥と筍の炊き込みご飯となっている。今日は、あの怪物のことについて薫と沙良は話していないため、二人が作ってくれたものだと思い全員が朝食を食べている。


 「今、行ってないのは、地下と三階ですか・・・。」

 「アト、ソウコネ。クラクテ、イッテナイヨ。」

 「もう一つの部屋ニモ、行ってナイデス。二階にも開かない扉ガ、アリマシタ。」


 昨日、探索できたのは、ほんの数時間だけだ。それだけの時間では、館の大半を残してしまう結果になってしまった。また手分けをするのもいいのだが・・・


 「今日は、みんなで一緒でもいいんじゃない?薬や化け物のこともあるし、薫さんと離れたら対処できないわけでしょ?」

 「そうですね。では、午前中は皆さんで行動しましょう。効率が悪ければ、少し危険ですが、また、班を決めて手分けしましょう。」

 「わ、わかりました。」


 幸恵をはじめに全員が首を縦に振る。朝食が終わり、幸恵とマリーがキッチンで食器を洗っている間、薫たちは今度は地下と二階どちらの探索を進めるかについて話していた。


 「普通に考えて、一階の探索を済ませてからそのまま地下だと、ワシは思うぞ。」

 「でも、寝ている間が怖いし、三階が安全か知りたいな・・・。」

 「そんなもん、地下だって同じじゃないか。」


 弘は一階の探索兼地下の探索を。沙良は、三階の探索をそれぞれ主張する。ギルニルは、どちらにも賛同していないようだが、年長者を優先する思考からか、自分も見た物置の違和感が気になるからか、一階の探索には賛同している。


 「懐中電灯は二つしかないので、先に暗いところを調べないと、替えの電池はありません。やはり、その物置を調べることにしましょう。」


 そこまで話がまとまったところで、幸恵とマリーがキッチンの哲扉を開けて合流する。


「き、決まりましたか?」

 「はい。とりあえず、懐中電灯が必要だった物置から行こうと思います。いいですか?」

 「ハイッ。アソコ、キニナッテタデス!」


 元気に返事をするマリー。幸恵も賛同してくれてようで一行は、全員集合して物置の方に向かう。


 食堂を出て右に曲がり、階段の横を通った後、目の前に存在するドアを開ける。そこには、前日と何ら変わりのない暗い物置が広がっていた。

 部屋の中は半分がキッチンに埋まっているような感じで、廊下から見える部屋の範囲は半分くらい。つまり、キッチンの二倍くらいの大きさの物置部屋。

 薫と幸恵はそれぞれ懐中電灯を取り出すと明かりをつける。もちろん、それだけでは物置部屋全体を照らし出すことは出来ない。薫と幸恵の二人は、部屋の中心。目の前を照らし出す。

 そこには、黒い色をした二体の影が、うずくまるような状態で部屋の隅にいることが視界の端にとらえるとこが出来た。


 「!!きゃ・・・・・」


 声を出して叫ぼうとした幸恵の口を寸前で薫が塞ぎ、全員に静かにするように人差し指を立てる。

 しかし、一度同じような怪物を見ていた沙良以外の三人にとっては、初めての人外生命体。その恐怖は、抑えようとしても抑えられるものではなく、弘、マリー、ギルニルは狂気に陥る。

 経験なのか元々の精神力が違ったのか弘は、驚きはしたものの薫のジェスチャーを理解する思考は残っており叫ばないように自身の口を両手でふさぐ。

 しかし、ギルニル、マリーの二人は、初めて見るこの世のものとは思えない風貌の怪物に叫び声をあげてしまう。


 「ウワァァァ!」

 「イヤー――!」


 目は無かったのか、明りを照らしただけではこちらに振り向きもしなかった黒い怪物は、二人の悲鳴に反応しこちらを振り向く。


 それはまさに人外。瞳のような器官は存在しておらず、大きなとがった耳、十字に大きく裂けた口、全長は2メートルくらいの怪物。体のバランスは非常に悪く、体の半分以上は上半身で、小さな足ではあまり速く走ることは難しそうな怪物。しかし、その手には、指がなく、鈍器のような形状をしていることが理解できた。


 最も早く行動したマリーは、後ろにいた沙良を押しのけ一目散にこの部屋の中から逃げるために走り出す。が、恐怖のあまり足がもつれ、沙良を巻き込みその場にこけてしまう。

 次に一番後ろにいたギルニルは、警棒を取り出し構える。戦う正気が残っているというよりは、上手に思考がまとまらず、その場に立ち止まり全員の退路を断ってしまう。

 薫は、何とか正気を保った幸恵からナイフを受け取り、隣にいた弘に話しかける。


 「間瀬さん。とりあえず引きましょう。冷静じゃない人がいては、何が起きるかわかりません。」

 「無茶言うな!ギルニルとマリーのせいで後ろはもうふさがっておる。ワシら二人でなんとかするしかない!」


 そういうと、弘はホルスターにしまっていた剣場を取り出すと、一番最初の弾丸を実弾に替える。

 薫もポッケトナイフの刃を出す。心もとない刃。本当に護身用。もしかしたら、タダの威嚇用のナイフなのかと思う刃渡り8センチのナイフ。これでは、こちらの射程範囲に入る前に餌食になるのがおちだ。

 沙良は、自分にのしかかって来たマリーを退かそうとするものの、正気を失い暴れているせいでうまくいかない。それを見た幸恵がマリーを退かそうとする。

 怪物がのっそりと動き出す。やはり、機敏に動くことは難しいようで、一歩一歩短い脚で進んでくる。


 「間瀬さん。銃!」


 マリーにのしかかられた状態で沙良が叫ぶ。が、弘は銃を発射する様子は無く、手錠をメリケンのように握り始める。


 「こいつだけとは限らない。効果的な武器かも分からない以上は、拳銃は取っておきたい。」

 「これで死んだら元も子もありませんよ!」


 隣にいる薫は弘に向けて叫ぶが、聞き入れる様子はない。


 「うぉらぁ!」


 渾身の力を込めた弘の拳は、迫ってきていた黒い化け物の一体の頭部に命中する。すると、二体だと思っていた黒い怪物は、下半身がつながっていたようで、二体とも後ろの倒れる。

 バランスが悪いため倒れはしたが、まだ、戦えるようですぐに立ち上がろうとする。


 「うおぉぉぉぉ。」


 すかさず薫が、ポケットナイフを怪物に向かって投げる。幸い、立ち上がろうとしていたため、放たれたナイフは黒い怪物の上半身に突き刺さる。


 「よし!」


 しかし、怪物はまだ動けるようで、刺さったままのナイフを放置して立ち上がる。


 「効いてないですよ。」


 何とかマリーを退かし薫たちのもとに沙良と幸恵が合流する。今度は、黒い怪物が行動する。大振りの右手の薙。一番先頭にいる薫と弘を捉える。


 「うわぁ。」

 「ック。」


 身軽だった薫は、何とかその薙攻撃をかわすが、弘はその鈍器の一撃をかわしそびれ、毛銃を持っていた左手を直撃する。衝撃で拳銃は、部屋の中に転がって行ってしまう。


 「氷野さん!金槌を!」


 薫は、氷野に最初に渡した金槌を受け取り。突進をかける。

 右腕の大振りのせいで、動きが単調になった黒い怪物は、動かないようで繰り降ろした薫の金槌が直撃する。

 打撃系の攻撃であるにもかかわらず、直撃した怪物の右側の頭部が縦方向に切断される。


 「ゴギィィィイ。」


 左側の十字に開いた口を大きく開け、悲鳴を流す。この攻撃は聞いたようで、黒い怪物は、二、三歩よろめいてから撤退する。その間、両手の鈍器を振り回し続け、周りにあった金属製のマネキンや箱が粉砕される。

 追いかける気力は残っていないが、幸恵は、その怪物のことを照らし続ける。すると、壁に向かって走っていったにも拘らず、黒い怪物はこの部屋の中から忽然と消えてしまう。


 「き、消えました!」

 「勝ったの?」

 「とりあえず、しのいだってことでしょうか・・・間瀬さん大丈夫ですか?」


 金属製のマネキンを粉砕するほどの威力の一撃を食らったのだ、弘の左手の骨はすべて砕けていてもおかしくない。むしろ、左手その物が吹っ飛んでいてもおかしくない。



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