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新妻 幸恵

新妻 幸恵



扉を開くとそこには、今まで幸恵自身が一人暮らしをしていた部屋が広がっていた。今日仕事に出かける前のままの家。荒らされた雰囲気も無ければ、見覚えのないものもない。今までの広間での出来事が夢であったかのような安心感を自宅の玄関で一人、新妻は感じる。


 「夢。だったのかな・・・。」


 だとしたら、おかしいことに新妻自身でも気付いている。ベットで起きずに今帰ってきたこと。仕事帰りなら持っているはずのバックを持っていない事。あの広間での出来事が鮮明すぎるほどに憶えていること。そして何よりも、玄関の扉があの古びた木製の扉になっていること。

 きっとこの扉分ければまたあの広間に通じている。そんな感覚が自然と新妻の中に流れてくる。

 玄関から寝室兼生活空間のある1kの狭い賃貸。中に入っていくと、そこには、住み慣れた我が家に、見覚えのない汚いバックが机の上に置いてあった。


 「なんだろうこれ・・・。」


 そのバックを持て上げてみると、下に置いてあった紙がひらりと床に落ちる。その紙を幸恵は拾い上げると読み始める。そこには、

 『あなたの周りは敵だらケ。シリアルキラーに超能力者。普通の人モ信用できなイ。みんな誰かを殺したイ。』


 そこまで読むとすべての文字が消えて、再び、先程とは違う文章が浮き出てくる。


 『でも安心しテ。あなたハ正常。あなたハ生きたイ。だから、探偵を探すノ。その人が出口を見つけル。それに、便乗するだケケケ。それまで生きるだケ。』


 少し変な日本語で書かれた文章は、再び消える。そして、


 『超能力者×1殺人鬼×1探偵×1ガードマン×1裏切り者×1』


 という文章と共に頭の中に緊要な声が鳴り響く。その声は、男でも女でも大人でも子供でもない。


 『古の者はダメ。裏切り者ハ、ダメ。見つかっちゃ駄目。』


 その声が途絶えると、小さな紙も幸恵の手の中から消えていく。訳も分からず幸恵は、薄汚れたバックの中身を確認する。そこには、懐中電灯と棒が二本。ポケットナイフにロープ、小さな箱の中には幾つかの薬が入っていた。


 「これをもって戻ればいいの・・・。」


 幸恵は家の中にあるものをいくつかバックの中に埋める。時計や携帯食料。携帯電話に必要そうなものの数々を。

 そうして再び玄関にある古びた木製の扉の前に立つ。するとそこには、二枚の紙が貼りつけてあった。

 一枚は、『ここから先に進むなら他人は信用してはならない。誰もが出ることを望んでいるわけではない。誰もが、平和を望んでいるわけではない。』と、書いてあり幸恵はそれをドアから引きはがす。

 もう一枚は、引きはがせないように張り付けてあり、こう書かれていた。

『超能力者はみんなが生きたいの。

 探偵は殺人鬼を殺したくて仕方がない。

 裏切り者はあなたを殺すだけね。

 殺人鬼は探偵に殺されたくないから殺すだけでしょ。

 ガードマンは誰かを庇って死にたいよ。』

 と、書かれていた。


 「誰も信用できない・・・。」


 その言葉を幸恵は噛みしめる。再び扉を開けるといろんなものを詰めたはずのバックからその重みが消え、最初の荷物しかなくなっていることが自然とわかる。


 「本当にすぐなんですね。」


 部屋の中央にいる薫さんの驚いた顔が怖く思う。彼は何?探偵?ガードマン?それとも・・・。

 同時に開いた扉にいるすべての人が信じられない。



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