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一日の終わり

 マリーが弘の腕をつかみ、ドアを開けることを阻止する。その行動に対してギルニルは過剰に反応し、今度はマリーの腕をギルニルが掴みあげる。二人の対格差は圧倒的で、弘の腕からマリーの手はほどかれる。


 「イタイデス!」


 悲鳴に近い声を上げてマリーは抵抗しようとするが、掴まれた腕が離れる様子はない。


 「おい待て!何してる!放してやれ!」

 「ですが・・・。」


 ギルニルは、少し不満があるのか、掴みあげたマリーの腕を放さない。それどころか、足に巻いたナイフベルトからナイフを取られないように両方の腕を持ち上げる。

 マリーも身体を捻ったりして引き離そうとするが、やはり、ギルニルの力には及ばないようだ。


 「ワタシハ、タダ、アケルマエニ、ヨウスヲミタイ、ダケデス。」

 「ほら、放してやれ!」


 弘の今までにない強い口調にギルニルは渋々マリーの腕を放す。


 「ナイフを持っているんダカラ、変な行動はスルナ。」


 自分の行動を正当化するようにギルニルは少し強めの口調でマリーに指摘する。

 マリーは、右手首を抑えながらギルニルの発言に反抗的な視線を向けるが、特に何もしない。


 「全く。・・・それじゃあ、開けるぞ。」


 マリーの決死の忠告を無視して弘は、その扉を開ける。


 物置と呼ぶべきなのだろう。薄暗く一切の光源がない。ドアから入ってくる廊下の光だけがその部屋の中に広がっていく。そこには、一見連雑にものが配置されているように見える関連のないものが、置かれていた。

 マネキンに箱、鏡、ガラスでできた置物など。数にすれば十に満たない程度の物が置かれている。


 「誰もいないし危険もとりあえずなさそうだな。」


 そういうと弘が真っ先にその部屋の中に入っていく。次にギルニルに背中をせかされる形でマリー、ギルニルの順番にその部屋の中に入っていく。


 「暗くてほとんど見えないデス。」

 「そうだな。誰か懐中電灯を持っていないか?」

 「ゼンブ、アッチ。」


 袋の中に入っていた懐中電灯の全てがBチームが持っていることに多少なりとも苛立ちを覚えながらも弘は、一番入り口から近くにあったマネキンに触れてみる。

 材質は金属。つるりとしたその触り心地はあまり触ったことのない素材で、一番最初に薫が取り出した金槌と同様の金属であることが、予想できた。全長150センチ。男性の形を模した金属製のマネキンは、当然の如くかなりの重量があったようで、弘一人の力では、動かすことは叶わなかった。


 「重いな・・全く動かん。」


 弘が全く動かせないのを見るとギルニルが、弘に代わってそのマネキンを動かそうと試みるものの、やはり、全く動きそうにない。そして二人は、このマネキンが、二人の力を合わせたところで動きそうにないものであることも、感じ取れた。


 「無理そうデスネ。びくともしマセン。」

 「そうだな。かなり重いぞ。このマネキンは。」


 そういうと三人は、薄暗い物置の中を調べ始める。明りがないため、廊下のドアにほど近い部分を中心的に調べていると。


 「・・・アッ。」


 マリーだけが、この部屋にあった違和感に気付く。

 それは、埃の定着具合だ。床や物品に積もっている埃に比べて仄かに埃の量が少ない部分があることが見て取れた。

 それも意図的に動かしたのではなく、何か大きなものが、廊下から真っ直ぐ奥に進むのに邪魔な置物を抱かすかのように真っ直ぐ道が作られていた。しかし、その通ったはずのものが作るであろう、足跡のような埃の痕が存在しないことも同時に気付いた。

 そして、その動いたものの中に件のマネキンも含まれていた。


 「デモ、ウゴイテルミタイデス。コノマネキン。」


 そういうと、何者かが通ったような違和感。そして、足跡がないことには触れずに、ミリーは、弘たちにも埃の違和感を共有する。


 「本当だな。しかもこのマネキンも動かしたのか・・・。」


 ギルニルと弘は、自らが動かすことが無理だと判断したものを、動かすことができる存在がいることを認識する。そのものが、この部屋の奥にいるであろうことは、全く気付く様子もなく。


 「取り合えず、合流しに行こう。暗すぎて何も調べられない。」

 「デスネ。」


 ギルニルは弘の意見にすぐに賛同すると、三人は薄暗い物置を後にし、Bチームのいる書庫へ向けて歩き出す。探索時間は一時間に満たず、丁度書庫の中から出て来たBチームに合流する。


 
















 階段の横にある通路から弘、ギルニル、マリーが。書庫の中から高平、氷野、新妻が出てきたところで、一行はちょうど再開する。そして、互いに情報のすり合わせを玄関ホールで始める。


 「で、書庫の方はどうだった?」

 「特に収穫は無いです。手記があったんですが、どうやら持ち出せないようでして・・・。」


 薫は、書庫の殆どの書物が英語もしくはドイツ語で書かれていたこと。そして、持ち出しを禁ずる場所があったこと。手記に書かれていた、自分たちを殺す存在。薬の存在のことについて話した。


 「クスリナラ、アリマシタ!」


 マリーは、嬉しそうに弘の背中をたたく。せかされるように弘は、ポケットの中から四つの色のついた液体の入った容器とその場にあった紙を薫たちに見せる。


 「これが薬ですか?」

 「すごいじゃん。一歩前進だね。」

 「で、でもまだこれがその薬かは、わかりませんよ。」

 「自分も同意見です。そっちもいいですか。」


 薫は、弘から紙を受け取ると氷野や新妻に見えるようにしながら、その紙に書いてある内容を読み上げる。


 「赤き者は、黒き者を愛し。黒き者は白き者を敬愛する。白き者は緑の者に憎悪を抱く。緑の者はすべての関心はない。ですか・・・そして、忘却、嫉妬、悲愴、憤怒。」


 しばらく、三人は悩むと、一番最初に氷野が音を上げる。


 「わっかんないよ。どういう意味。」

 「この液体が薬で、この紙に出てくる奴らが手記に出てきた奴らなら、赤には悲愴。黒には嫉妬。白には憤怒。緑には忘却でしょうか・・・」

 「そ、そうだと思います。ただ、この液体が薬だとは限りませんが・・・。」


 薫と新妻は同時にほとんど同じ薬の使い方にたどり着き、その方法を共有する。そして、キッチンにいた多眼の化け物が緑色であったことも。


 「じゃあ、そいつに忘却をかければはっきりするな。」

 「待ってください。これが正解とは限りませんし、薬の使い方は気を付けないと・・・。」

 「ソウデス。ワタシ、シニタクナイデス。」


 液体をキッチンにいた多眼の化け物にかけることに反対意見を薫、マリー、新妻、氷野が言うと、弘も渋々賛同する。


 「では、この液体ハ、誰が持ちマスカ?全部、薫サンが持つのでいいデスカ?」

 「自分は構いませんが皆さんはどうですか?」


 薫とギルニルの意見に異を唱える人はいないようで、薫は自身が持つバックの中に四つの薬を入れる。

 その後、さらに下る階段の存在。動かないマネキンのある薄暗い物置。まだ調べていない部屋があることをBチームに伝える。

 その時、一行は異常なまでの眠気が襲う。それは、無理もないことで、記憶を有している者は、一日の用事を済ませた夜にこの部屋に連れて来られており、食事を含め三時間近く動き続けているのだった。


 「・・・ファア。チョット、ネムクナリマシタ。」

 「そうデスネ。ジブンも休みたいデス。」

 「じゃあ、二階にあった客室でそれぞれが寝ましょうか?」

 「そうだな。ワシも少し疲れた。」


 そういうと一行は、二階へと上がり、各々、二階にある好きな木製の扉を開き、就寝の準備を始める。


 「おやすみなさい。」

 「マタ、アシタデス。」

 「うむ。なにかあれば大声を出せ。」

 「その時は、一番に駆け付けマス。」

 「お、おやすみなさい。」

 「じゃあねー。」


 ギルニルは、その夜。一日の出来事を整理し始める。一緒に行動していた弘とマリーの不信な点がないか、他の三人は無いかどうか。そして、空腹に耐え眠りにつく

 弘は、その夜。警察手帳に書き記す。紙の力を持つ者がいないかどうか、怪しい点を。空腹は張り込みにつきものであると割り切り、眠りにつく。

 幸恵は、その夜。不安と恐怖に取りつかれ心地よく眠ることができない。きっと空腹も関係しているのだろう・・・

 マリーは、その夜。空腹に悩まされることなく日課であるストレッチを行う。体のしなやかさは、欠かすことのない調整が必要なのだ。

 沙良は、その夜。多眼の化け物が言っていたことを思い返す。何が望みなのか。そして、それは自身の目的に合致するのかを。空腹に悩まされることは無く、眠りは深く安定した。

 薫は、その夜。他の人たちとは違いすぐに眠りにつく。空腹など無く、深く安心の眠りの中、薫は明日の行動へ準備に入っていた。


 一日目就寝。

 

高平 薫(たかひら かおる) 持ち物;メモ用紙、鞄(棒二本、10メートルのロープ、懐中電灯)四つの薬品

間瀬 弘(ませ ひろし) 持ち物;警察手帳、手錠、拳銃、メモ用紙

     目的:神の力の持ち主が死ぬように仕向けること。

氷野 沙良(ひの さら) 持ち物;金槌、リスのような生物

新妻 幸恵(にいずま ゆきえ) 持ち物;小さなナイフ、懐中電灯、メモ用紙、小さな箱

ギルニル・F・アデラート 持ち物;棍棒、手錠×3

マリー・マーキュリー 持ち物;サバイバルナイフ


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