恐怖の対象
一方、二階に上がった、ギルニル、弘、マリーノ3人は、二階がかなりの数の部屋に小分けされていることを扉の多さから確認する。
「どうする?こんな数ワシら三人じゃ調べきれんぞ。」
「手分けシマスカ?それとも、一つづつ三人で見マスカ?」
「ミンナデイキタヨ。ヒトリハ、ダメ。」
「そうだな。これ以上少人数になることもない。一つずつ行こう。」
階段を上がった二階には、一本の廊下が横に走っており、その両側に部屋が並んでいた。正確な数では分からないが、大体、10個くらいの同じ型のドアがある。そして、廊下の両端は曲がっていて、その先にも廊下が続いているのが見て取れる。
そのうちの一つの扉を弘が開ける。その中に広がっていたのは、こじんまりとした客間だった。シングルサイズのベットが一つと簡易的な机、一人暮らしに丁度いい位のタンスが一つ。その三つの家具を置いても一人は床で寝ることのできるスペースが残っている。
「客間か・・・。」
「結構いい部屋デスネ。ここで寝ることにナルンデスカ?」
「エ!?ナンニチモ、ココニイナイト、ダメデスカ?」
「とりあえず、色々探ってみるか。」
探索者の三人は、一つの部屋に入り調べてみる。しかし、机には引き出しは存在しないし、ベットは、床から直接はまっているようで、ベットしたというものは存在しない。唯一、何かが入れられそうなタンスも、大きな開き戸が存在するだけで中には何も入っていない。
「ナニモナイミタイネ。」
本当に何もないただの客間。その後も十個近く並んでいたすべての木製の扉は、全て同様の客間があり、中も同じものだった。最初の予想は外れ、その全てを調べるのに一時間もかかることなく終了した。
「どうするか?他の部屋にも行ってみるか?」
部屋から出て両側に走る廊下に弘は見る。階段を中央に両方に広がっている。
「やはり、一度別れてこの廊下を見てみよう。途中に何があってもまたこの場所に戻ってくる。それでいいか?」
「ワカリマシタ。ジャア、ギルニルサント、イキタイデス。」
階段から見て左側の廊下へ弘が、逆側からギルニルとマリーが進む。窓と花瓶を飾るための小さな机、一階にあったシャンデリア小さいのが、照明としておかれている。
「一周しているのか・・・。」
弘が進んでいた廊下の先にギルニルとマリーが現れる。どうやら、この廊下は一周しているようでマリーたちが進んだ廊下と弘が進んだ廊下はぐるりと、一周しているようだった。
そして、その裏側には階段の前にあったのと同じサイズの扉がいくつか存在した。さらに、丁度階段の裏には、さらに上に上がる階段が存在していた。
「どうする?開けるか?上るか?」
「開けまショウ。あまり大きな行動ヲするのは危ないデス。」
そういうとギルニルは、その一つの扉に耳を当て中の音を聞こうとする。しかし、中の音は聞き取ることは出来ない。
「何も聞こえないようデス。」
「アケテミマショウ。」
そういうとマリーはドアノブに触れ、捻ってみるがどうやら鍵がかかっているようで回しても開く様子が見られない。
同様に、そこにある扉のどれもが鍵がかかっているように開くことは無かった。
「誰か開けられないデスカネ。」
「ソモソモ、ドウグガナイヨ。」
「そうだな。一階のメンバーにこのことを伝えに戻ろうか。」
そういうと、二階を探索していた、弘、ギルニル、マリーの三人は、さらに上に上がる階段の上には上ることなく、探索を一時間で切り上げ、一階へ向かう。
Aチームが二階から降りて来た時は、丁度Bチームが食堂を調べ終え、両開きの扉を開いた時だった。
「上には何かありましたか?」
「ハイ。たくさん客間はアリマシタが、何もないデス。後、開かない部屋がいくつかト、さらに上に行く階段がアリマシタ。」
「一階はどうだったんだ?」
「ここは食堂です。特に何もなかったんですが、食事の準備があったみたいです。どうしますか?」
「ワタシ、オナカスキマシタ!」
最年少の少女であるマリーは、この状況でも早々に飲み込み始めたのか、緊張感なく爛漫な笑顔を浮かべている。
「そうデスネ。ジブンも少しお腹すきマシタ。食事があるなら、食べタイデス。」
「じゃあ、行きますか。そこで報告会にしましょう。」
あまり弘と幸恵は乗り気ではないそぶりを見せるが、とりあえずは、全員で再び小工藤の中に入っていく。
中には、先程までと同様に鼻腔と食欲を擽るビーフシチューの匂いが全員を包む。
「トッテモ、オイシソウデス!」
そして、金属製のキッチンへと通じる扉を開くとより一層その匂いは強くなる。その匂いは、この部屋に唯一ある寸胴鍋から放たれているようだ。
「これがそうか・・・。」
弘が寸胴鍋を開けてみると、中には実においしそうな、シチューが並々入っていた。
「ハヤクタベタイデス!」
「皆さんも食べますか?」
「そうね。いただこうかしら。」
マリー、薫、沙良の三人が、鍋の近くに用意してあった、大きな皿を手に取り、シチューを取り分けようとした時、
「ちょっと待ってください!」
と、幸恵が、今までにないほど大きな声で止める。
「それ本当に大丈夫ですか?そこには、あの怪物がいたんですよ!?」
「おい!怪物とは何のことだ?!」
弘が幸恵の指摘に一番強く反応し薫と沙良に詳しい説明をするように怒鳴る。
「この部屋に入ったときに、目が沢山ある怪物がいたんですよ。丁度、このシチューのあたりなんですが・・・」
「その怪物は倒したのか?」
「・・・いえ。自分は食事を作る係だと。そう言って消えてしまいました。」
「「・・・。」」
全員の中に沈黙が広がる。実際にその怪物を見ていないAチームからすれば、かなり重要な決断になる。
「でも、大丈夫ですよ。実際、会話してみたんですが、我々に害を加える気は無さそうでした。」
「それにこれ以外に食べ物は、フランスパンくらいしかないですよ。」
「わたしは食べないですよ。」
幸恵の意思は変わらないようで、シチューを食べる気はないようだ。
「ワシもいらん。そのパンだけで十分だ。」
「ジブンも怖いのでいらないデス。」
結果として、そのシチューを食べるのは、薫、沙良、マリーの三人だけとなり、それぞれ、食事をもって食堂に集まった。
席順は、パンを持ったギルニルと弘が扉側の席に奥から座り。小さな窓がある席に女性陣が、幸恵、沙良、マリーの順番で座る。
食事を済ませ、一同は探索の成果を報告し始める。
「二階はさっき言った通り、寝床になりそうな客間と開かない扉。上に上がる階段だけだ。」
「一階は、食堂とキッチン。対面の両扉は書庫になっていることは確認したのですが、詳しくは見れてないです。後、階段奥の通路の先も見探索です。」
「重要そうな部屋は一階に多いらしいな。」
「食後は、どうしますか?また、手分けして三階と一階を調べますか?」
「いや。一階を全員で調べよう。分からに事は少ない方がいい。」
弘の発言に異論を唱えようとする人はいないようで、今度は全員で一階を探索する方向で方針は決まる。
チームは先ほどと同じまま、Bチームは洗い物をした後に、目の前に書庫を。Aチームは、そのまま、階段奥に続く廊下の先を調べることになった。
先程も開いた書庫へと通じる両開きの扉を沙良が開く。中には、何も変わった様子はない書庫が広がっている。先程いた食堂のほぼ二倍以上の広さを誇る書庫の隅から隅まで調べるのには、三人でも骨が折れそうな予感を感じさせる。
「どうしましょうか?手分けします?」
「そうだな。一棚ずつ見ていくとするか。」
そうやって、三人で棚をざっと見ていくが、変わったものもなく、一つの隙間もなくびっしりと本が陳列されていた。その一つ一つの本を見ることは無く、三人は、背表紙のみを見る感じで探索を進めた。
「何かありましたか?」
「うーん。全部英語?なのか、タイトルすら分からないよ。」
「ですね。不自然なところもなさそうです。」
半分くらいを見て回り、一度三人は集合したのは、書庫の中央。そこで今までの棚とそれから先の棚を仕切るように、扉と鉄格子が施されていた。その扉も、鉄格子と同様に向こう側の風景は見えており、鉄格子を抜けるためだけのもののようだった。
「さ、先に進みますか?」
「行かないとダメだろ。一応さ。」
そういうと薫は、扉の取っ手を握る。捻ることもできない鉄格子の扉は、簡単に押し開くことが出来、鍵らしきものも見つけることは出来ない。
そして、そこの棚には、日本語ではない言語で文字が書かれていた。
「誰か読めます?」
「読める。」
と、唯一その文字を読むことが出来た薫が訳す。
「『これより先、古の理を記す』だそうです。」
「何語ですか?」
「ドイツ語だと思います。以前勉強していたので。」
「古の理って何なんですかね?・・・」
「とりあえず行きますか?」
先程よりは棚と棚との間が広く、棚の数が少なかったため、少しの時間で全体を見て回ることが出来、それぞれ、記憶の断片に引っかかった数冊の本を持ってくる。
「読めはしないんだけど、この本なんか引っかかって。」
「わたしもです。」
その奥にあった本の全てが、英語ではなくドイツ語で書かれていたため、先程よりも全く意味は分からないはずなのに、沙良と幸恵は、一冊の古い本を持ってくる。そして、
「何それ?」
「手帳ですかね?なんか雰囲気が違っていたので。」
薫だけは、ここにあるどの本よりも小さく、明かに手帳のようなものを持ってくる。
満場一致でその手帳から調べることが決まり、薫がその手帳を開く。そこには、日記とは少し違うが、個人的な視点で書かれたこの洋館での日常が書かれていた。その内容は現実の日常からはかなりかけ離れた内容ばかりで、裏切りに殺人、疑い、人外の生物との戦いなど訳の分からない内容が書かれていた。
そして、ここにあるドイツ語の本たちとは違い、その手帳には日本語で文章が書かれていた。
「すごい内容ですね・・・」
「最後のここ。なんて書いてあるんですか?」
手帳の一番最後のページ。恐らく、この書庫にこの手帳を隠すときに急いで書いたものなのか、ひどくかすみ、歪んでいて一見文字には見えなかった。
「私には読めないよ。」
「日本語じゃないみたいですね。」
そこの書かれている文字は、どうやらこの手帳の元々の所有者とは別の人なのか、今までとは違い、日本語ではない言語で書かれていた。
そして、その文字は、手帳を持つ薫にのみ読むことが出来た。
薫は、今回は声を出すことなく読み始める。そこには、
『あいつがまた出て来た。もう黒い奴はいない。オレの能力だけじゃどうしようもない。みんなの目的は別にある。オレは死ぬ。薬の使い方をあいつが間違えたばっかりに。緑色の言うことを聞かなかったばっかりに。ああ、せめて女でもいれば慰めにでもなったというのに。』
という文章が、中国語で走り書きされていた。