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ギルニル・F・アデラート 終わり

マリーがいなくなり、黒い怪物が赤い怪物に噛みつかれたことにより、緩やかに死に向かっていた(ひろし)と、ギルニル、沙良(さら)の三人の状況は急速に変化していく。


 暗黒の中階段を駆け上った(ひろし)は、マリーのように上手に階段を上り切ることが出来ず、踏み外した拍子で再び黒い怪物のいる地下の部屋に転がり落ちる。


 「クソッたれがぁぁぁぁ!」


 持っていた拳銃を黒い怪物と赤い怪物が融合したような形状の怪物に打ち込んでみるが、今までのこともあり、一発撃っただけで弾丸はそこを尽き、カッカッカ、と言う引き金を引く音のみが虚しく弘の耳に届く。

 ああ。終わった。

 頭の中で今までの刑事生活がよぎってくる。周りに迷惑をかけまいと刑事としての生活に開け暮れ、それでもついてきてくれた女性を顧みず事件に生き、家族をないがしろにしてきた弘の生活。

 悔いがない人生など無い。

 「優れえた刑事は、優れた父親になど成れない。」

 弘と同様に刑事だった父の言葉が今ならわかる。確かに、弘はいい父親ではなかっただろう。家族サービスなんてものをしたことがない。家族の予定より殺人事件を優先する。申し訳ないがそれが刑事の生き方なのだから。いや、弘の生き方なのだろう。だからこそ悔いは残っている。でも、人生に後悔はしていない。唯一残るとすれば、事件の中で死にたかった。そう思うばかりだ。


 「クソったれが・・・。」


 諦めたように呟き、瞳を閉じようとしたその時、




 ギルニルはマリーと同じように暗闇の中階段を器用に上ることが出来ていた。寧ろ、精神的には、後ろで階段を転がり落ちる音を聞きたるだけの余裕も有していたといえるだろう。だからこそ、ギルニルは今まさに弘が命をあきらめる瞬間をとらえてしまった。


 出身は、アメリカの片田舎。体が大きいことと力が強いことが良いことに散々悪いこともしてきた。だからこそ、たった一度、自爆目的のテロリストから特殊隊員に救われた時、「彼らが輝いて見えた。ジブンと同じように体の大きいことを、体力に優れていることを他人のために仕える彼らのことが、ギルニルの人生を大きく変えることになった。

 幸い、ギルニルは、努力さえすれば要領のいい青年であったため、それまでの悪友と縁を切り必死に勉強をしてFBIに入ることが出来た。それからは、アメリカのために、そこに暮らす人民のために彼の才能が生かされた。

 そして今、人間として経験できる人間はいない恐怖にさらされている人がいる。


 何のための大きな体だ。1人でも多くの弱者を守るためのものだろう。


 何のための筋力だ。一瞬の判断について来れる体にするためのものだ。


 何のための人生だ。救われたのなら、救って見せるためのものだ。


 なんのためらいも無く、ギルニルは階段を大きくけりだす。高さにすれば1メートルにも満たない高さであったことはここに明かりがあればわかったかもしれないが、暗やみの中に身を投じる恐怖というものは、いかほどのものなのか。

 振り降ろされた腕は、先程の鈍器のような形状とは異なり、鋭利な剣のようになっていた。弘が目をつぶり死を覚悟するように一言呟く。

 刹那、ギルニルの体が弘と黒い怪物の腕の間に滑り込む。


 ゾジュュュ。


 皮が裂け、筋肉が切断され、内臓があらわになり、上半身と下半身が本当に半分に分かれる。想像を絶する痛みがギルニルの全身を駆け巡る。これでも失神しないジブンの鍛えた精神が腹立たしい。こんな状況でも即死しない人間の生命力が妬ましい。それでも、ギルニルに後悔はない。どんな形であれ、守って死ぬという目標が達成できた。


 「おい!大丈夫かあんた!」


 声が聞こえる。弘のものだろうか?全身に痛みはない。神経がいかれてしまったのだろうか?幸いな事だ。あの痛みは二度と経験したくもない。

 ギルニルはまどろむ意識の中目を開ける気力は生まれない。何せ今目を開けばあの怪物が再び振り降ろすであろう腕が見えてしまう。そんな状況になってしまったら、庇って死んだことを後悔することになるだろう。このまま、意識が無くなるように死ねれば後悔は少なくて済む。


 「おい!誰か!救急車だ!この人このままじゃ凍死しちまう!」


 この言葉は、先程まで聞いていた言葉と少し違和感を感じる。流ちょうすぎる。先程まで聞いていた言葉は少し発音のおかしいことがあったが現在はそう言ったことは無い。なぜだろう?そう思ったとき、ギルニルの体にある感覚が走る。


 寒い。


 やはり、死ぬときは寒いものなのだなと、変に落ち着いているのは死ぬことに悔いがないからだろうか。

 そんなギルニルを弘と思われる人物が体を揺らしてくる。


 「おい!意識があるなら寝ちゃだめだぞ!全くこの酔っ払いが!」


 変だ。

 ようやくそこでギルニルは、ジブンに対する対応の仕方の違和感に疑問を持つ。先殿痛みから思うにギルニルの体は人間であったことがかろうじて分かる程度で、無残に切られたはずだ。それに対して大丈夫なわけがない。救急車も当然無駄だろうし、ましてや死因は凍死になる訳が無い。それに酔っ払いなど二日も一緒にいてギルニルが酒を飲むところは弘に見られていないしましてや、酒などギルニルは飲んでいない。

 瞳を開けたくない恐怖に葛藤しつつもギルニルは薄眼を開く。


「よかった、意識はあるな。今、救急車を呼んでるから。アンタ名前は?」

「・・・。」


 数人の見たこともない顔の人間がギルニルの顔尾をのぞき込む。その要旨は、堀が深く、目の色は青に近い。高い鼻も含めて、先程まで一緒にいた平たい顔の者たちとは明らかに違うことがよくわかる。(マリーは違ったが)


 「ココハ?」


 先程までの癖で日本語で話してしまい。のぞき込んでいた人たちの顔が渋くなるのが分かる。


 「あんた、この辺りの人じゃないのか?ロシア語は分かるか?英語でもいいぞ?」


 日本語ではない。慣れ親しんだ言語である英語とロシア語が聞こえてくる。


 「ここは?どこですか?」


 ギルニルもロシア語で返すと、今まで一番近くでしゃべっていた男性が安堵の表情を浮かべ、右手を差し伸べてくれる。


 「モスクワの端っこさ、酔っ払いさん。全く、こんなところでそんな薄着じゃ死んじまうぞ。」

 「・・モスクワ・。」


 そう言われた一層ギルニルは寒さが強くなったことを認識する。

 よく見てみるとそこは、一面雪が積もっている道路の中だった。辺りには人だかりが数人単位だが出来ているし、何人かが、ギルニルに上着をかけてくれている。そして、ギルニルの格好は、黒いスーツ一着だけという自殺願望の格好をしていた。


 「なんでここに!?」

 「知るかよ。けど元気そうで何よりだな。病院には行くか?昨日の夜から寝てたんだろ・・それにしちゃ顔の霜が少ないような・・・。知り合いは近くにいないのか?」

 「ワタシが知り合いだ。迷惑をかけたな。」


 そう言うと、ギルニルのよく知る顔の人間が歩み寄ってくる。

 ロシアに共に来ていた同僚はギルニルに上着を着せると、人垣の中からギルニルを連れ出し、近くのホテルの中に入っていく。


 「お前何をしていた?昨日の夜からGPSにも反応が無かったぞ?仕事を忘れた泥酔とはいい度胸だな。」

 「違う!酒は飲んでいない。オレはアイツと一緒に・・・。」


 そこでようやく、あの洋館に入る前の記憶が明確に思い出す。洋館に入る前、アメリカから追ってきた殺人犯の尻尾を掴むため尾行をしていた。そして、そいつが、ある路地に入ったところで見失ってしまったのだ。いや、正確には、とある建物に入ったことは確実だった。だから、ギルニルもその建物に入ったのだ。そこで、


 「ウァァァgァアⅹガァァァ。」

 「おい!どうした!」


 突然、ギルニルは奇声を発し、口から泡を吹くようにその場に倒れこむ。それは、思い出した記憶の中、建物にいた多眼の異形のもの。そのモノこの世の元とは思えない恐怖を思い出したからである。

 その後、二週間の昏睡状態を乗り越え、ギルニルは目を覚ました。彼の記憶はしっかりしていたが、行方不明になった夜の記憶は全く覚えていない。それに加え、彼は奇妙な言葉を発するようになってしまった。

 普通に会話は成立するのだが、一人になると誰かと話をするように身振りや手ぶりを踏まえ未知の言語で何のかと会話するようになってしまった。



 ギルニル・F・アデラート・・・目標:対象人物を庇って死亡・達成。ただし、対象人物も死亡につき、ペナルティ。





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