マリー・マーキュリー
マリー・マーキュリー
予想外だ。
しかし、いい状況になったと言えるかもしれない。
今までの状況よりもこの空間、いや、先程いた場所には、今までの状況は関係しない。
後ろにある扉を閉めてしまえば、あちら側の人間が、ワタシの後を付けることは出来ない。
これで、ワタシという存在が世間から消せることが出来る。
「しかし、ここは一体。」
流ちょうなドイツ語でマリーは、暗闇の中を進む。地面と呼べる場所を歩いているはずなのだが、足音は反響しない。一寸先が見えないほどの暗闇ではないにも拘らず、進む先にも歩いてきた道にも変化は存在しない。いうなれば、同じ場所で足踏みをしているような感覚。
すると、目の前に突如変化が現れる。道が分かれているわけではないにも拘らず、二本の分かれ道が目の前に出現する。別に、個の分かれ道に従う道理はない。しかし、その二本の道とも思える分かれ道以外の部分は、今まで以上の暗闇に包まれていた。
「まぁ、何でもいいか。」
そう呟きながらマリーは、右側の道を歩き始める。本当にたいした理由など無い。右利きだから、某漫画の理論、様々な理由を付けようとすれば付けられるかもしれないが、ただ何となく。
分かれ道を進んでいくと再び変化が現れる。それは、マリーから見て後方。戻る道がふさがり、再び一つの道のもが広がる。
「・・・クソ、どうなってる。・・・」
何時間歩いただろうか。お腹は空かない。体力も削れない。ただ、永遠とも思える道を歩き続ける。本当に足踏みしているだけにも思えるが、先程の分かれ道のことを考えると、マリーは、確実に進んでいるはずだ。まだ、見える世界に変化はない。
ついに、マリーは歩くのを止めた。この部屋に出口なのだいのだろう。しかし、ここにいれば死ぬことも無いのだと自然と感じる。空腹も披露も感じない。ただ何も存在しない空間。それは、幸いにもマリーが望んでいたものであった。現実の世界で誰にも干渉されることなく、誰からも虐げられることも無く生きていたい。そう望んで・・・
「・・・変わらないか。」
突然、マリーの耳に声が届く。低い声は、人間の声帯を通って出ていないような違和感を感じるが、機械を通しているような雰囲気は無い。今まで聞いたことは無いが、その声の主が、人外の生物によって出されている声であることがマリーには分かった。
「誰?」
「もし、お前の願いが変わらないのであれば、我を探して見せろ。そなたは器たり得るかもしれない。」
「器?何の話?」
「質問に答える義務も義理も無い。」
低い声が話し終わると同時にマリーの目の前に机のようなものが出現する。机の方に近づいて行くとその机の上に一振りのナイフが置いてることに気が付いた。そして、マリーにはそのナイフに見覚えがあった。
「!?。どこでこれを?」
「我に不可能は無い。見えぬものも無い。それは、そなたの一部。必要であろう?」
マリーは、机の上に置いてある一振りのナイフをまるで我が子のように優しく持ち上げるとゆっくりと抱きしめる。
失ったと思っていた。
ずっとワタシを守ってくれていた。
ワタシを傷つける人達から遠ざけてくれた。
もう二度と話さないようにマリーはそのナイフを抱きしめる。
「そのナイフは、そなたに貸し与える。我の望みは叶える必要はない。我の望みそれは、我を探すことだ。」
低い声はそれ以降マリーの耳には、届かなくなる。
別に義理も義務もない。このナイフは元々マリーのもので、あの声の主が奪った可能性だってある。だから、あの声のいう事に従う必要など存在しない。
目の前に一枚の扉が出現する。マリーは、ナイフと一緒に机の上に置いてあった、ナイフをしまうための鞘をその綺麗な太ももに巻き付け、ナイフをしまう。
この扉をくぐる必要はない。この空間には誰もイナイ。ナニモナイ。コノナイフト、ワタシダケ。
マリーの手がゆっくりとドアノブを握り、捻る。




