ギルニル・F・アデラート
ギルニル・F・アデラート
全員が全くの初対面を装ったが、ギルニルには、広場にいる一人のことは職業柄よく知っていた。ギルニルの仕事は、広場にいる人達にはSPと偽ったのは、その人物にギルニル自身がFBI捜査官であることを明かすわけにはいかないからだ。故に、この封鎖された空間にいることは、あまり得策ではない。一刻も早く脱出しなくてはならない。
とび路を開いた先には、一つの机が存在した。その机は、小中学校にある様な机で、椅子は存在しない。恐らく木製の机は、色々にペイントされており、よく見るとその足の先は、床と接合されていて動かすことは叶わない。
「なんだこれは?」
日本人が居ないたった一人の今は、片言の日本語を話す必要がないので、母国語である英語で独り言を話す。
机の上には、一枚のコピー用紙と、いくつかの手錠が置いてあった。その手錠の形状は、日本人がよく想像するような金属製の鎖のついた手錠ではなく、黒く塗装された非金属性の手錠で、両手の間の接合部分は、完全に身動きが出来ないようにつながっている。
「手錠か・・・。」
その手錠を、近くに置いてあった専用のホルスターに差し込み、机に張り付けてあるコピー用紙に目を落とす。
『まもれ!』
ただそれだけの文字がA4のコピー用紙いっぱいに描かれていた。それ以外に必要だと思えるような情報は一切なく、ただ漠然と『マモレ』だけの文字。言いたいなにからなにを守ればいいのかも皆目見当がつかない。
その時、ギルニルの頭の中に広場にいた一人の顔が急にフラッシュバックする。それは、ただ思い出したのとは訳が違う。何かしら外部からの意志により強制的に思い出させられたような感覚。
そこで、ギルニルは理解する。この空間は、人ならざる者により作られた場所でその人物が死なないようにすること。そして、その人物を守るために死ぬことが出来れば、自身が脱出できることを。
その理由を聞かれたらギルニルは答えることは出来ない。しかし、ギルニルには、自身の死=この空間からの脱出であることを理解することが出来た。
「であるのなら、出来るだけ美奈さんを守ろうか・・。」
この空間のこと、そして、自身がFBI捜査官であることを知られてはならない一人のこともあるが、一般人を危険なこの空間に残すことは忍びない。
そんなことを思いながらギルニルは後ろを振り返ると、入って来た時と同様の扉がそこにあった。
キィ。
「本当にすぐなんですね・・・。」
表情にまずかな変化が現れた人が見ることが出来る。彼らにもギルニルのような何かしらの脱出の手段、目的が存在するのだろう。それが、ギルニルの障害にならない事を祈るばかりだ。
最後の守るべき人物と、捜査対象である連続殺人犯にして、シアルキラーのサイコパスに一度目線を向ける。この中では一般人に扮しているが、ギルニルは騙されない。




