氷野 沙良
氷野 沙良
扉を開けるとそこには、今まで自分が一度も言った事のないような、洋風の部屋が広がっていた。かなり大きい部屋の中には、大きな机に対面したソファー。両サイドの壁にある本棚の中には、おびただしい量の本が詰まっており、天井付近には、いくつかの表彰状が飾られていた。その他には、接客用のティーセットや窓側に大きな机と高そうな椅子が置いてある。
木製の家具を基調にまとまっている部屋はとても綺麗で、小説の中に出てくるような探偵事務所のようになっていた。
「すっごい。おっしゃれ―。」
沙良は、誰もいない探偵事務所のような部屋を見て回る。よく見てみると本棚の中にある本も推理ものの小説や『ファイル①』など事件に関係する内容の物があり、沙良の予想通り、ここは、探偵事務所であることが分かった。
すると、
ガチャリ。
と、始めいた場所の後ろにあった位置にある扉が開き、一人の男性が入ってくる。
いかにも外国人らしい風貌の男性。身長は190センチ後半とかなりの長身で、顔つきも相当整っているイケメン。そして、服装は黒いスーツに、黒いズボン。シャツには一切のしわは無く。探偵というよりは、マフィアか、葬式の帰りにも見えてしまう。
「あ、あの。わ、私は。」
日本語が通じるかも分からない状況で、沙良は必至に自身が怪しい者ではないという事を説明しようとする。
「すまない。待たせてしまったかな?少々時間がかかってしまった。」
慌てる沙良を気にすることなく、イケメンの外国人は、流ちょうな日本語を話しながら沙良の横を通り過ぎ、棚の中から一冊のファイルを取り出す。そのまま、窓際の高そうな椅子に腰かける。
「?。どうしたんだい?こっちに来たまえ。」
手招きするイケメンに従って、沙良は近づいていく。
「あ、あの私のことを知っているんですか?」
「もちろんだ。氷野 沙良君。今回の担当だろう?」
「担当ですか・・・?」」
まあいい。と、言うとイケメンはファイルを開き、沙良にが見やすいように向きを変える。
「今回君に当たってもらうのは、この洋館で起きているという不審死の一件だ。毎年幾人かの人を招いて開催されるらしいのだが、そこでは、毎回死者が出ていると聞く。今回、君にはそこへ向かい。事件の解決に当たってもらいたい。」
イケメンが見せたファイルの中には、かなり大きな洋館の写真が貼ってあり、そこには、沙良が読むことは出来ない外国の言語で詳細文らしきものが書いてあった。数多くある写真の中には、血まみれの部屋や、何かしらの塊の写真も撮られていた。
「あ、あの。私探偵じゃないんですけど。」
「そんなことは分かっているさ。だから今回は助手も用意してある。」
そういうとイケメンは、指笛を鳴らす。すると、部屋のどこかから一匹の小動物が走ってくる。その小動物はリスのような風貌なのだが、長く伸びた鼻、大きな耳、愛らしい見た目には変わりはないのだが、沙良にとっては一度も見たことのない生き物であった。
「あ、あの。この生き物は?・・・」
「それは、ファフィオンという生き物だ。人間の言葉を理解し、飼い主にだけ懐く。そして、お前の見落としてしまうような小さな変化に気付き、教えてくれるお前の助手だ。」
そういうと、ファフィオンは、沙良の肩の上にまでよじ登ってくる。むず痒い感覚はあるものの、その小動物はさらに懐いたように鼻をこすりつけてくる。
「今回は、お前がそいつの飼い主だ。かわいがってやってくれ。」
「はい。・・・じゃなくて、私、探偵じゃないんですけど。」
「分かっていると言っているだろう。しかし、今回はお前が行くしかないのだ。そして、事件解決にいそしんでくれ。」
一方的に話を終わらせると、イケメンは一枚の紙を手渡してくれる。そこには、注視すべき事柄や今回の洋館の見取り図。そして、先程、広間であったメンバーの情報がまとめられていた。
「今回のメンバーの名前と職業性格などが記されている。このメモをもとに誰が殺人鬼なのか見つけることが出来れば、お前は無事脱出できるだろう。」
「脱出って。・・・あなたは来てくれないんですか?」
「行きたいのはやまやまなのだが、この館の場所は未だ不明なのだ。」
「じゃあ、この写真はどうやって?」
「この写真と館での事件は、匿名の手紙が我が事務所に届く。実際、この館で殺されたと思われる人は、次々に行方不明になっている。死体の写真もあるが見るか?」
そう言いながらページをめくり無残に、猟奇的に、異常な死に方をした死体の数々の写真を見せようとするイケメンの手を沙良は止める。
「いいです。どちらにしてもあの広間から出るには、その殺人鬼を見つけないといけないんですよね?」
「?。広間?何のことを言っているが分からないが、とりあえず、君は、殺人鬼を見つけそいつに向け宣言してくれれば、助けに行くことが出来る。」
細かい説明は、全くしてくれなかったが、これから行く洋館のどこかにいる、もしくは先程のメンバーの中にいる殺人鬼を見つけることが出来ればいい問う訳だ。
「しかし、注意して欲しい。殺人鬼の方も見つかりたくないはずだ。確実に君を殺しに来るだろうし、宣言するのは、他のメンバーがいる前で行った方がいい。しっかり自身の身も守るのだぞ。」
イケメンは、ファイルを閉じ元あった場所に戻す。
理由も仕様もよくわからないのだが、沙良にはもう洋館に向かい、殺人鬼を捕まえることしか元の生活に戻る手段がないことは想像できた。
「わかりました。頑張ってみます。・・・・何かくれないんですか?銃とか剣とか?」
「何を言っているそんなものを持っていたら怪しまれるだろ。大丈夫。一人以上いる場所で、殺人鬼を宣言した場合は、この我が助けに行こう。しかし、何も護身が無いというのは不安だろう。そこに書かれている中で私が掴んだ情報を一人だけ教えてやろう。」
命に関わる事なのになぜ、一人しか教えてくれないのか、という沙良の叫びもイケメンには届くことは無く、魅力的な笑顔を浮かべるだけであった。
「じゃあ、この人の情報で。」
「ああ、その人は君の味方だ。目的も全員が生きるように粉骨砕身することだし、きっと君の助けにもなってくれる。信用しても構わないだろう。そして、殺人鬼でもない事も保証しよう。」
「大方の目星はついているんじゃないですか?」
「いやいや。たまたま君が一番情報があった人物を指しただけさ。・・・おっと、そのメモは置いて行った方がいい。そんなものを持っていては、君が探偵だと言っているようなものだからね。」
沙良は、仕方なくそのメモ用紙に書かれていた内容を必死に覚え、イケメンに手渡す。
その後、イケメンに誘導される形でその部屋のドアの前に歩みを進める。
「では、君の健闘を祈るよ。無事帰ってくることもそうだが、今後、犠牲者を出さないためにも殺人鬼を見つけてくれると嬉しい。」
「善処します。」
沙良が言うと、完璧な笑顔でイケメンは笑うと扉を開けてくれる。
「では、頑張ってくれたまえ。」
言われるがまま沙良はその扉をくぐるとそこには、先程までと一切変わる様子のない部屋が広がっていた。そして、四方にある扉も開いており、そこには同時に扉を開いたと思われる彼らがいた。
「本当にすぐなんですね。」
この中に殺人鬼がいる。
沙良の瞳には、教えてもらった一人の顔だけが安心を与えてくれた。




