94話 神の御技
「んー。他に隠れている気配はないわね」
盗賊二人を村の男性に渡していると周囲を見渡していたルナがそう言って警戒を解いた。
ルナの感知に引っかからないなら問題ないかな。ミオさんも二人って言ってたし。
「フーカ、リムリ達を呼んで来てくれるか?」
「はい。すぐに呼んできます!」
二つ返事で走り出すフーカを眺めつつ、ミオさんの元へ駆け寄る。
「……お久しぶりです。――ルナ、治療してくれ」
ミオさんは危機を脱したことで気が抜けたのか気絶しており、女性に支えられ顔の血糊を拭いて貰っていた。
綺麗になるにつれ見えてくる顔にはアザがあり、服もボロボロになっていた。周りにいる村の男性達も笑い合ってはいるが、誰も彼も怪我をしており盗賊達との戦闘の激しさが伺えた。
「りょーかい。――癒せ精霊の息吹、リカバリー!」
ルナから光がミオさんに降り注ぐのだが、それを見た村の住人達は一斉に跪き、祈りを捧げているようだった。
「――ん、え? ッ! 精霊神様!」
「あー、もうそういうの良いわ。ルナの事はルナって呼びなさい。今はジンのパートナーであるただの精霊よ。そんなに畏まらなくていいわ」
ルナのヤツめんどくさくなったな。まぁ、こんなにひれ伏されていたら話も進まんけど。
「で、ですが」
「ミオさん。ルナはこんな風に崇められるのは苦手なんですよ。敬意を払ってもらうのは良いですけど、普通に接してください」
俺の言葉に少し考えてからミオさんが立ち上がった。村人達も困惑しながらもミオさんに続いて立ち上がってくれた。
「到底納得のいく事ではありませんが、ルナ様とジン様がそう言われるのでしたら私達に否はありません。――村を救って頂き、本当にありがとうございました」
「気にしないで下さい。今の俺達があるのも皆さんのお陰ですし。っと、話してる場合じゃないか。怪我をした方を集めて貰えますか? 俺達が治療しますから」
「そんな、そこまでして頂くわけには――」
「いいから集めなさい。軽傷は後回しよ」
ルナの言葉に深く頭を下げたミオさんが広場を巡り皆の状態を確認していた。三十人もいないみたいだからすぐに終わるだろ。見える限りではそこまでの重症者はいないみたいだしな。
それからミオさんと一緒に六人の男性がやって来た。頭から血が流れている者や腹部辺りを布で押さえている者、腕が変な方を向いている者などだ。一人は歩くことが出来ない者を連れて来ただけで軽傷らしい。それでも体のあちこちにアザや切り傷などがあるのだが。
「この五人が村では満足に治療出来ない者達です。お願い致します」
村で治療ってミオさんはヒール使えないよな? 他の人たちはいいのか? ……後でリムリに頼むか。ルナが相手じゃ名乗り出ないだろうし。
「それじゃ、――癒せ精霊の息吹、リカバリー!」
ルナの魔法が発動して五人一緒に光りが包んだのだが、五人とも見る見る内にアザなどが治っていった。流石に血糊までは消えないからどこまで治っているのか分からんけど。
「こ、これは!」
「すごい――」
五人の様子を見るに問題ないみたいだな。押さえていた布を外しても傷口一つ見えないし、頭から血が流れていた方もゴシゴシ擦っているが血が流れることはないみたいだ。
「――以前ジン様の傷が治った時も驚きましたが、改めて見ても本当に凄いです。まさに神の御技です」
やっぱりリカバリーが使えるのはルナぐらいなのかな? 魔力の消費量的には今の魔力量なら二十人ぐらいは治療できるんだけどな。
それから完治した五人には村の周囲を巡回してもらうことにした。結界はすでに壊れているし、他にも盗賊がいるかも知れないからな。
残りの軽傷の怪我人達は村人が治療するとの事なので、俺達は以前お邪魔したミオさんの執務室に向かうことにした。
「――でも何で盗賊が入り込めたんですか? 結界があったんですよね。……まさか精霊が張り忘れていた、とか?」
歩きながらふと疑問に思ったのだが、そうだったら俺達のせいだろ。え? 違うよね?
「る、ルナはちゃんと言ったわよ! それに街に向かう前に確認したから間違いないわよ!」
「も、もちろんです! 結界はきちんと修復されておりました!! 問題は別にあるのです!」
ルナとミオさんが慌てて否定していた。そんなことしていると途中の道でリムリ達とも合流したのだが、その時ミサさんと子供のことで改めてお礼を言われてしまった。そんなに気にしなくて良いんだがな。
それから俺達はミオさん、ミサさんにここ数日の経緯を聞いたのだが、
「ダンジョンから魔物が出てきてる?」
ミオさんの話では俺達が村から出て三日目辺りから魔物がちょくちょく現れるようになったらしいのだ。
精霊が張っている結界は対人結界なので魔物や魔獣には効果が薄いらしく、村の中にまで侵入しているみたいだ。
元々この辺はダンジョンがなく、新たに発生しても街のギルドに匿名で情報を流す事で低層の内にすぐに冒険者が狩ってくれていたらしい。その為、魔物がダンジョンを出て村まで来る事は今まで殆どなかったのだ。
今回もすぐに情報を流す為にミオさんを含む数人で魔物が現れるダンジョンを探した所、洞窟の中に隠されるようにダンジョンの入口が見えていたという。しかし、その洞窟の近くは村で採取している貴重な薬草の群生地だったらしく、このダンジョンの情報を流せばその薬草も根こそぎ持って行かれるのは目に見えていた。
「先に採取することは出来んかったのか?」
「まだ時期が早かったのです。今の時期に無理して採取してしまうと新しい芽が出なくなるのです。以前も植え替えようと言う話もありましたが、その場所の気候が適しているみたいで村に植えても枯れてしまったのです」
頭に手ぬぐいを巻いたおかしなエルフ娘にもミオさんは丁寧に対応していた。……これが大人の対応か。
「主様? なんぞ言いたいことがあるなら聞くぞ?」
「……ミオさん、ミサさん。こいつ純血のエルフですけど、ここに居たら問題ありますかね?」
「なっ! 主様!」
「いえ、ジン様のお連れの方に文句を言う者は一人もおりません。……それに、気付いていましたし」
ミオさんとミサさんが揃って目を逸らした。まぁ気付くよな。手ぬぐい被ってるだけのイタイ子なだけだし。
「ほらリリカ、良いって言ってるんだからそれ取りなさいよ」
「うぅぅ、そういう事なら初めに言って欲しかったぞ」
顔を赤くしたリリカがコソコソと手ぬぐいを外していた。ミオさん達が申し訳なさそうにしていたから気にするなと手を振っておいた。




